第156話 復讐を誓う者同士
「どうしてこんな事を……気でも狂ったのか!!」
「うるさい!!お前さえ、お前さえ現れなければ……死んでしまえっ!!」
正気を失ったようにムノーは杖を構え、魔法陣を展開して再度砲撃魔法の準備を行う。だが、魔法が発動する前にレナは魔銃を引き抜き、弾丸を瞬時に装填してムノーの右足に向けて発砲する。
「いい加減にしろ!!」
「ぎゃああっ!?」
ムノーの右足に弾丸が貫通すると、彼は悲鳴をあげて地面に倒れ込み、撃たれた箇所を必死に抑え込む。その様子を見てレナは怒りが収まり、人間には使用しないと誓った魔銃を咄嗟に使った事に罪悪感を抱く。
しかし、ムノーは明らかに自分を殺そうとしてきたことを思い出したレナは覚悟を決めて魔銃を構え、そのまま近づいて彼に自分の命を狙った理由を問いただす。
「ムノー……どうして俺を狙った?まさか、盗賊ギルドに頼まれたんじゃ……」
「こ、殺してやる……必ずお前を殺してやる!!」
レナの問いかけに対してもムノーは憎々し気な表情を浮かべるだけで答えるつもりはなく、仕方なくレナは彼から杖を取り上げようとしたが、不意に背後から物音を耳にして振り返る。
何時の間にか路地にはフードで全身を覆い隠した人物が存在し、手元にはボーガンを握り締めていた。それを見たレナは咄嗟に魔銃を構えようとしたが、先にボーガンの矢が放たれ、レナの右肩に矢が撃ち込まれた。
「ぐあっ!?」
「ひ、ひひっ……当てた、当ててやったぞ!!」
「この声……まさか!?」
フードで姿を隠した人物の声を聞いてレナはある人物の顔が思い浮かび、ボーガンを構えた何者かはフードを脱ぎ捨てて正体を晒す。レナの予想通り、この王都の冒険者ギルドの「サブマスター」を勤めていたルインが立っていた。
ルインはレナが持ち込んだミスリルの交渉を断った後、彼はギルド内で大きく評価を落とし、しかも後ろ盾にしていたカーネ商会にも見捨てられてしまう。後に彼が今まで行っていた不正も晒され、ギルドマスターに解雇を言い渡されたという話はレナも聞いていた。
レナは今更この二人がどうして自分の前に現れたのかと疑問を抱くと、背後で倒れていたムノーが大声を上げる。
「る、ルイン!!邪魔をするな、このガキは俺が殺すんだ!!」
「ムノーさん、それはないでしょう……こいつのせいで俺は女も金も職も失ったんだ……だから俺が殺す!!」
「くっ……」
どうやら二人ともレナによって自分の人生が台無しになったと思い込んでいるようであり、復讐のためにレナの前に訪れたらしい。本を正せばムノーもルインも自分の立場を利用して不正を行っていたのが悪いのだが、正気を失っている二人には自分の悪行を理解せず、自分達を解雇に追い込んだレナの命を狙う。
右肩を撃たれた際に魔銃を落としてしまい、反対の腕で拾い上げようとしたレナに対してルインは新しい矢を装填して構える。
「動くな!!動けば今度は頭を撃つぞ!!」
「……ルインさん、貴方なんでこんな事を」
「黙れ!!お前さえ、お前さえ来なければ僕は……!!」
「そうだ!!お前さえ現れなければ……!!」
前後をルインとムノーに取り囲まれたレナは彼等の身勝手な言い分に怒りを抱く半面、この状況を切り抜ける方法を考える。闘拳を付与魔法で飛ばして反撃を行うという手段もあるが、レナが動く前にボーガンの矢が撃ち込まれる可能性があり、かといって他の魔法で対抗するのも難しい。
撃たれた右肩が熱を発し、痛みで精神が乱されてしまい、レナはどうするべきか追い込まれてしまう。そんなレナに対してルインはボーガンを構えたまま近付き、笑みを浮かべる。
「どうした?何か言えよ、お前のせいで僕もその男も人生めちゃくちゃだ!!この、悪党がっ!!」
「悪い事をしていたのはそっちだろ……」
「うるさい!!口答えするなっ!!」
ルインはボーガンを構えたまま5メートルほどの距離で立ちどまると、レナの頭部に向けて構える。その様子を冷や汗を流しながらレナは見つめると、ルインは笑みを浮かべた。
「いいぞ、その表情だ……お前の苦しみもがく顔が見たかったんだ」
「……下衆が」
「まだそんな口を利けるか……そんなに死にたいのか!!」
ボーガンの引き金の指に力を込めたルインに対してレナはホルスターに収めた弾丸を抜き取り、付与魔法を施す。
魔銃がなくとも弾丸を飛ばす事は可能であり、ルインが撃ち込む前に親指で弾丸を弾いてボーガンを狙おうとした。
(あのボーガンさえ壊せれば……!?)
反撃を試みようとしたレナは弾丸を撃ち込もうとした瞬間、唐突に身体に力が入らなくなり、その場で両足を崩してしまう。一体何が起きたのか理解できず、レナは混乱するとルインが狂ったように笑い声をあげる。
「ひゃはははっ!!やっと痺れ薬が効いてきたか!!」
「痺れ、薬……!?」
「お前の肩に撃ち込んだ矢には痺れ薬を塗ってあるんだよ!!魔獣用の痺れ薬だが、ギルドを辞めるときくすねてきた奴だ……もう動けないうようだな!!」
「ぐうっ……!?」
「こ、このガキめ……!!」
レナが痺れ薬で身体が自由に動かなくなった隙にムノーもどうにか壁に背中を預けて起き上がり、自分の杖を松葉杖代わりに利用して立ち上がると、ルインの隣に移動してレナを睨みつけた。
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