第158話 一緒に居たい

「兄ちゃん、ダリルのおっさんも心配してたぞ。自分のせいで兄ちゃんが出て行ったんじゃないのかって、凄く慌ててたぞ」

「ダリルさんが……そっか、心配してくれたんだ」

「それよりもこれはどういう状況だ?こいつら、誰なんだ?」

「もしかしてこの人たちが昼間に襲ってきたレナ君の命を狙っている人なの?」



デブリは自分が倒したルインとムノーに視線を向け、何者なのかをレナに尋ねる。ムノーはともかく、ルインの方はコネコとミナは面識があるのだが、彼だと気づく事が出来なかった


最初にレナ達がルインと遭遇した時は綺麗な身なりをしていたにも関わらず、現在のルインは薄汚れた服に髪の毛も髭も伸ばしっぱなしで別人のように変化していたので気づかないのも無理はない。


ムノーの方もレナが前に会った時と比べると随分とくたびれた格好をしており、最初の頃は多くの部下を引き連れて偉そうにしていたが、今現在は浮浪者にしか見えなかった。どうやら二人ともレナと関わったせいで職を失い、人相が変わるほどの酷い生活を過ごしてきたと思われた。



「あれ!?こいつって、前に会った冒険者ギルドのサブマスターか!?」

「え、あ、本当だ!!全然気づかなかった……でも、どうしてこの人がこんな所に……」

「こっちの人は私も知ってる。確か、ヒトノ国に仕えていた魔導士のムノーという男。カーネ会長の所に何度か訪れていたから顔に見覚えがある」

「ムノー?それって確か、魔法学園の魔法科の入学希望者の面接官を行っていた奴じゃ……確か、問題を起こして解雇されと聞いていたが、どうしてそんな男がここに居るんだ?」



レナを襲ってきた相手がルインとムノーだと知ってコネコ達は戸惑うと、ようやく痺れ薬が切れて来たのか少しは話せるようになったレナが二人が自分の命を狙ってきたことを説明する。



「この二人、前に俺と関わったせいで自分が解雇されたと言い張って命を狙ってきたみたい……いい迷惑だよ」

「何だよそれ!?兄ちゃんは別に悪い事してないだろ!?」

「そうだよ!!悪いのは全部この人達だよね!?」

「ただの逆恨み……ろくでもない奴等」

「こんな奴等が魔導士と冒険者ギルドのサブマスターを勤めていたのか……」



元々はどちらも人から敬われる職業に就いていながら、自分達が行っていた不正を結果的にレナに暴かれた事によって解雇されてしまい、それを逆恨みしてレナの命を狙ってきたという話を聞いてコネコ達は呆れてしまう。


ルインとムノーに関しては放置は出来ず、シノが所有していた縄で二人を縛り付けると、壁際に寝かせて目を覚ますまで待つことにした。その間にレナの方も壁に背を預けた状態で痺れ薬の効果をどうにかするためにシノが懐から小袋を取り出す。



「レナ、この丸薬を飲む」

「これは……?」

「乾燥させた薬草を調合して作り出した秘伝の薬、少し苦いけど噛み砕いて全部飲んで」

「うぐっ……!?」



回復薬の素材である薬草から作り出した薬をシノは取り出し、そのままレナの口元に無理やり押し込む。かなりの苦みを感じるが、効果は抜群で丸薬を飲み込んだ途端にレナは痺れてまともに歩く事も出来なかった身体が動けるようになった事を確認する。



「おおっ……身体が元に戻った?」

「もう少し経てば完全に動けるようになるはず、それまではゆっくりと休む」

「凄いなシノの姉ちゃん!!まるで治癒魔導士みたいだ!!」

「私は忍者だけど、母親が薬師だったからある程度の薬学の知識もある」

「ねえ、さっきから気になっていたんだけど忍者ってなにかな?あんまり、聞いた事がないんだけど……」

「東方の国の出身者しか覚える事が出来ない希少職、この国では暗殺者や盗賊と同系統の職業だと思えばいい」

「へえっ……そんな職業があるんだ」



シノの説明を聞いてミナは感心した声を上げ、希少職の中でもヒトノ国では聞きなれない職業らしく、この場に存在する全員が初めて「忍者」などという職業を知る。職業の能力的には盗賊や暗殺者とは方向性が異なるらしい。


丸薬と呼ばれる薬のお陰で自由を取り戻したレナは起き上がり、改めて皆の顔を見渡すと、命を救ってくれた事を感謝した。



「皆、助けてくれてありがとう」

「へへっ……なんだよ兄ちゃん、改まって」

「友達だもん、助けるのは当たり前だよ」

「大切な雇い主を見捨てる事はできない」

「全く、これからは一人で行動するなよ!!探すの苦労したんだからな!!」



コネコは少し照れくさそうな表情を浮かべ、ミナはレナが無事であったことを喜び、シノは親指を突き立てると、デブリは汗を拭いながら疲れた表情で答える。


どうやらレナを探すためにかなり動き回ったらしく、相当に苦労を掛けたことを知るとレナは罪悪感を抱く。



(友達、か……)



レナは今まで誰にも力を借りずに生きてきたわけではないが、基本的には一人で行動する事が多かった。だからこそ心の何処かで自分は一人でも大丈夫だと思っていたが、今回の一件で改めて友達や仲間という存在がどれほど有難いのかを思い知らされる。


もしもミナたちが駆けつけてくれなかったらレナはルインとムノーに殺されていた事は間違いなく、そうなっていればレナの目的である村を魔物から取り戻す事は出来なかった。対抗戦の一件を終えればレナは王都を立ち去るつもりだったが、改めて自分が一人ではどれほど無力なのかを思い知らされた。



(村は必ず取り戻す、だけど……もう少しだけ皆と一緒に居たいな)



友達や仲間の重要さを思い知らされたレナは今すぐに焦って村へ戻ることを止め、もう少しだけここへ残り、彼等と共に過ごしたいと思った。勿論、村を取り返す気持ちを忘れたわけではく、せめて魔法学園を卒業するまでは皆と一緒に過ごしたいと考えた。

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