第154話 マドウが訪れる日
「けど、やっぱり話を聞く限りでは学園長の方がカーネ会長より立場は上みたいだね。まあ、この国に一人しか存在しない大魔導士なんだし、当たり前の事かもしれないけど……」
「じゃあ、学園長が来たときに兄ちゃんを助けてくれるように頼めばいいんだけだな」
「いや、そんな簡単な話じゃないだろ……確かにお前等は魔法学園の生徒だから大魔導士と接触できる機会があるかもしれないが、お前等は別に学園長と親しいわけでもないんだろ?」
「何言ってんだよ、生徒が困ってんだから教師なら助けてくれるのが当たり前だろ?」
「理屈はそうかもしれんが……そんなに簡単に行くとは思えないぞ」
「でも、頼んでみても損はないと思います。今度、学園長と会う機会があったら相談してみます」
「そうか……まあ、それなら止めはしないがな」
ダリルの言葉も最もであり、いくらレナが魔法学園の生徒だとしてもマドウがレナの味方をしてくれるとは限らない。なにしろマドウにとってもカーネは魔法学園の創設に助力してくれた相手であり、一生徒のために無条件でマドウが協力してくる可能性は低い。
マドウは滅多に魔法学園には訪れず、学園に立ち寄る用事があったとしても大きな行事の時ぐらいなので会う機会がそもそも少ない。しかし、次に学園長が確実に訪れる日に関してはデブリに心当たりがあった。
「学園長が次に来る日なら三日後だと思うぞ」
「え?どうして?」
「いや、どうしてって……対抗戦があるからに決まってるだろ?発案者の学園長が来ないはずないだろ……」
『あっ……忘れてた』
マドウが発案した対抗戦の期日は三日後に迫っており、魔法科の生徒の5名と騎士科の生徒であるレナ達が戦う事は決まっていた。その日に限り、午後の授業は中止とされ、騎士科と魔法科の生徒同士の試合が行われる予定だった
デブリの言う通りに発案者のマドウが現れない事など有り得ず、多忙の彼でも対抗戦には訪れるだろう。その時に対抗戦に出場するレナもマドウと接触する機会が訪れるかもしれない。
「じゃあ、対抗戦の日に学園長に会えばいいだけだな。なんだよ、簡単な話じゃないか」
「これでもう安心できるね!!」
「いやいや、安心できるのか?お前等、というよりはレナは今日も命を狙われたんだろ?対抗戦が行われる日までは安心できないだろ!!」
「言われてみれば……けど、大丈夫です。新しい移動方法を覚えたんでこれからは襲われる心配もずっと減ります」
「移動方法?」
レナの言葉に事情を知らないダリル達は首をかしげるが、そんな彼等の前でレナは密かに回収しておいた大盾を取り出し、付与魔法を施して乗り込むと空中へ飛翔を行う。
「こんな感じで!!」
「うおっ!?」
「と、飛んだ!?」
「すげぇっ!!」
「う、嘘だろ!?」
「はわわっ(愕然)」
「いや、なんでシノさんも驚いてるの!?」
事情を知っているはずのシノが一番驚いてる事にレナは突っ込むが、付与魔法を利用した移動術を活用すれば空を飛んで盗賊達からの襲撃を回避する事が出来た。まだ乗った状態での操作は慣れないが、練習すればいずれは自由自在に空を移動する事が出来るだろう
ゆっくりと大盾を下降させてレナは着地すると、やはり大盾では少々乗りにくさを感じた。だが、当然と言えば当然の話であり、大盾は身を防ぐ防具であって乗り物ではない。そこでレナは大盾を持ちあげてムクチに相談を行う事にした。
(この大盾も便利だけど、やっぱりこれからの事を考えてもっとちゃんとした乗物も作ってもらわないとな。ついでに底の方に車輪でも取り付けて貰おうかな……)
本来は腕を固定する金具に足を固定させる方法だと身体も痛めやすく、もしも何かの拍子に金具が壊れてしまったら大惨事につながりかねない。また、付与魔法の効果時間が切れた時の場合を想定し、地上で移動できるように車輪なども装着させれば安定性が高まる。
役に立たないと言われた付与魔法ではあるが、魔術師の中で物を浮かばせて空を飛ぶ方法を行えるのは付与魔術師だけであり、こうしてレナは新しく付与魔法の使い方を覚える事が嬉しかった。
「凄いな兄ちゃん!!後ろに乗せてくれよ!!」
「あ、僕も乗りたい!!」
「それ、僕でも乗れるのか!?重量制限とかないよな!?」
「私もまた乗りたい」
「ちょちょ、落ち着いてよ!?」
レナの元にコネコ達が群がり、自分も空を飛びたい気持ちに駆られた4人にレナは振り回され、その光景を見たダリルはぽつりと呟く。
「たくっ……今のお前をカイさんが見たらどう反応するのかな」
「えっ……」
――ダリルの言葉に決して悪意はなく、単純に彼はレナの成長をもしもカイが生きていたらどのような反応をするのか気になっただけだが、カイの名前を耳にした途端にレナの表情が一変する。レナの異変に気付いたコネコ達は彼の傍を離れ、ダリルは自分の失言に気付き、慌ててレナに謝罪を行う。
「す、すまん!!今のは聞かなかった事にしてくれ!!そ、そうだ!!そろそろ飯の時間だな?ほら、お前等も食って行けよ!!ご馳走を用意してやる!!」
「え?あ、はい……」
「なあ、そのカイさんって誰の事だ?」
「馬鹿!!お前っ……!!」
だが、ダリルの言葉を聞き逃さなかったコネコがカイの事を尋ねると、慌ててダリルは彼女の口を塞ぐ。しかし、時は既に遅く、レナは大盾を担ぐと皆に一言だけ告げて空へ飛び立つ。
「ごめん……少し、一人にさせて」
「レナ君!?」
「……行っちゃった」
大盾に乗り込んだレナはそのまま空を飛行して屋敷を離れ、そのまま誰もいない場所まで飛び立った。
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