第155話 復讐に囚われた男
――大盾に乗り込み、屋敷から移動したレナは適当な建物の上に降り立ち、夕焼けを眺める。夕日に染まる街並みは美しいが、その光景を見惚れる余裕は今のレナにはなく、養父であるカイの名前を耳にした事でレナは本来の目的を思い出す。
(そうだ……俺が魔法学園に入ったのはもっと魔法の腕を磨いて、奴等から村を取り戻すためだったんだ)
レナが冒険者なったのも、魔法学園に入学した理由も、元々は魔法の力を極めるためである。魔法を磨いて強くなり、魔物にも負けない力を身に着けてゴブリン達に支配された村を取り戻す。それが当初の予定だった。
しかし、冒険者となって活動を行い、魔法学園に入学するようになってからは同世代の人間と接することが多くなり、今では友達も出来た。そのせいでレナは本来の目的を忘れ、友達や仲間と共に平穏に過ごす日々を楽しんでいた。しかし、カイの名前を耳にした事でレナは本来の目的を思い出す。
(……もう十分に力は身に着けた。装備だって整った、もうゴブリン程度には負けない)
この街に訪れてからレナは随分と腕を磨き、今ではゴーレムのような驚異的な力を持つ魔物だって倒す事が出来る力を身に着けた。これだけの力があれば十分に今の自分なら村を取り戻せると確信したレナは決意する。
「もう、村に戻ろう」
対抗戦を終えた後、レナは魔法学園を辞めて自分の生まれ育った村へ戻ることを決意した。正直に言えばこのまま魔法学園に残りたいという気持ちもあるが、これ以上にここに留まれば自分の村を取り戻すという目的を忘れ、平穏な時を過ごしたいと考えてしまう事にレナは恐怖を抱く。
自分が魔法を極めようとした理由を思い出したレナは立ち上がり、気を引き締め治すように頬を叩く。レナは自分の村を奪ったゴブリン達の事を決して許せず、大好きだった両親を殺した奴等を生かしておくことは出来なかった。
出来ればもう少しだけ他の皆と一緒に過ごしたいという思いはあるが、これ以上に親しい人と時間を過ごすとレナは自分の目的を忘れてしまうのではないかと恐れ、戻ったら別れを告げる事を決意した。
「ダリルさんやコネコやミナと別れるのは辛いけど……凄く怒られるかもしれないけど、仕方ないよな。でも、折角年の近い友達が出来たと思ったのにな」
村で一番若かったレナには同世代の友達はおらず、冒険者をしていた時は仕事に熱中していて同年代の子供たちと関わる事もなかった。
だが、魔法学園にはレナと年の近い生徒ばかりが存在し、コネコやミナ以外にも友達と呼べる存在は何人も出来た。本音を言えばもう少しだけ学園に過ごしたいという気持ちもあり、だからこそレナは対抗戦までは学園に残ることを決める。
(戻ろう……皆、心配しているかもしれない)
自分が狙われる立場でありながら、単独行動という危険な行為を犯している事を自覚したレナは皆が探しに来る前に屋敷に戻るため、大盾に乗り込む。
「
付与魔法を施してしっかりと足を金具に固定した後、浮上させた大盾を飛ばそうとした。しかし、そのまま建物の屋根の上から移動しようとした瞬間、地上の方から炎の塊が放たれ、レナの乗り込む大盾に衝突した。
「ファイアボール!!」
「うわっ!?」
大盾に強い衝撃と凄まじい熱気が走り、吹き飛ばされたレナは地面へ向けて降下してしまう。墜落の寸前に炎に包まれた大盾を操作して地面へ激突する前に建物の壁に突っ込み、壁を削りながらもどうにか勢いを殺して地上へと不時着する。
路地に落ちたレナは炎の塊が放たれた方向に視線を向けると、そこには無精髭に薄汚れたローブを纏った男が居る事に気付き、その男の顔を見てレナは以前に会ったことがある相手だと思い出す。
「つうっ……だ、誰だ!?」
「み、見つけたぞ……この、ガキがぁっ!!」
「お前は……ムノー!?」
「お、お前のせいで……儂は、儂はぁああっ!!」
レナに攻撃を仕掛けたのは元はヒトノ国に仕えていた魔導士のムノーで間違いなく、彼は火属性の魔石を装着した杖を握り締めるとレナに構える。それを見たレナは反射的に掌を地面に押し付けて防御を行う。
「死ねぇっ!!ファイアボール!!」
「地属性……うわっ!?」
地面の土砂に付与魔法を施して「土壁」を作り出すが、ムノーの杖の先端から放たれた炎の塊は土壁に衝突すると爆散し、呆気なくレナの築き上げた土壁を破壊した。
慌ててレナは自分の制服に燃え移った火をはたきおとすが、そんな彼に対してムノーは正気を失ったかのように魔法を連発した。
「くたばれぇっ!!ファイアボール!!」
「くっ……反発!!」
正面から迫りくる炎の塊に対してレナは今度は左手から重力の衝撃波を放ち、どうにか軌道を上空へと変化させる。直撃は避けられたが炎の塊は30メートルほど上昇すると爆散し、周囲に火の粉を散らす。
下手をしたら火災を引き起こすのではないかとレナは不安を抱くが、魔法の力で生み出された現象は長時間の維持は出来ず、火の粉は建物に燃え移る事もなく掻き消える。
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