第151話 盗賊ギルドの誕生秘話

「レナ君がそこまで言うのなら僕も反対しないけど……でも、もしもレナ君に酷いことをしようとしたら僕は絶対に許さないからね」

「そうだな、兄ちゃんを裏切ったらあたしがあんたの鼻にわさびを塗るからな!!」

「それは恐ろしい……分かった、絶対に裏切らないように指切りする」

「子供かっ!!」



シノビの加入に関してはレナ以外に者達は半信半疑といった態度だが、当の本人は皆の反応を予想していたかのように動じる事もなく頷き、レナと指切りを行う。



「じゃあ、ダリルさんの所に戻って話をしないと……あ、でもその前に駐屯所に立ち寄った方が良いかな?」

「ん?何故だ?」

「一応は盗賊ギルドが雇った傭兵の人達に狙われた事を報告しとこうかなと思って……」

「それは止めた方が良い、この王都の警備兵の中には盗賊ギルドと繋がっている人間が多い」

「え?何か知ってるのシノビさん」

「シノでいい。敬語もいらない、これから一緒に行動するのなら気楽に接して欲しい」

「なるほど……なら、そうさせてもらう」



シノビの言葉にレナは頷き、今後は彼女の事を「シノ」と呼ぶようにする。シノビ改めシノの話によると、この王都の警備兵と盗賊ギルドは複雑な関係を築いているという。


以前にもレナとコネコが捕まえたカマセという人攫いは警備兵に突き出した後、賞金首であったにも関わらずに釈放されている。カマセによると盗賊ギルドのお陰で釈放されたらしいが、その後にリッパーに殺されている。



「そもそも王都に盗賊ギルドが存在する理由、それはこの国も大きく関わっている」

「国が?それってどういう意味だよ」

「今から100年ほど前、この国には双子の王子が存在した。どちらも才覚に優れ、人望もあったけど、先代の国王が亡くなった事でどちらかが王位を継承しなければならなかった」

「そういう場合って、普通はお兄さんの方が継ぐんじゃないの?」

「いや、ヒトノ国では王位継承権を持つ者が複数人存在した場合、性別や年齢を問わずに王位継承を掛けて競い合いが行われる仕組みになっているぞ。お前ら、知らなかったのか?」

「あ、それ僕知ってるよ!!確か「王位継承戦」というのが始まるんだよね?」



ヒトノ国では王の子供が一人ではなかった場合、全ての子供たちが王位の座を賭けて競い合いを行う儀式が存在する。その名も「王位継承戦」と呼ばれ、この競い合いに勝利した人間が時代の王と認められる。


この王位継承戦はヒトノ国が建国された時代から存在する儀式であり、例え年齢が若くても王位継承権を持つ者ならば競い合いに参加はできた。そして最後に王位継承戦が行われたのは今から100年前、シノが語る双子の王子が争ったのを最後に今日に至るまで王位継承戦は行われていないという。



「双子の王子は王位継承戦を行い、お互いの才や力を競い合った。その結果、弟が継承戦を勝利して国王の座に就くことができた。だけど、敗北した兄の王子はそのまま国を立ち去った」

「その話と盗賊ギルドがどう関係しているの?」

「話はここから……国を去った兄の王子は王族の身分を捨て、自分の人脈を利用して人を集め、組織を作った。兄は王位を継承できなかったけど、決して弟の事は恨まず、自分は影から国を支えようと考えて弟の代わりに自分の手を汚してでも国の害となる存在を抹殺していった」

「抹殺って……じゃあ、その組織がまさか!?」

「そう、それが盗賊ギルドの始まり。元々、盗賊ギルドの創始者はヒトノ国の血筋を受け継ぐ王子が作り上げた」

『ええっ!?』



盗賊ギルドの誕生秘話を知ったレナ達は驚き、同時にどうしてそんな重要な話をシノが知っているのかと疑問を抱くと、彼女は質問される前に答えた。



「この話は私がカーネ商会に入った時、カーネ会長と盗賊ギルドの幹部が話していたのを盗み聞きして知った。ヒトノ国が盗賊ギルドの存在を放置しているのは国を影から支えてきた存在だから警備兵も迂闊には手を出せない」

「そうだったのか……」

「けどさ、昔は国のために働いていたとしてもあいつらが悪い奴等なのは間違いないんだろ?あたしも兄ちゃんも前に盗賊ギルドの奴等に狙われて面倒な事になったんだぞ」

「確かに今の盗賊ギルドは組織の長が代替わりしてから国に害を与える存在へと変化している。だけど、盗賊ギルドは大きくなり過ぎた。この王都周辺の冒険者ギルドと繋がってるし、将軍や貴族の中にも盗賊ギルドを支持する人間もいる。だから警備兵でさえも迂闊には手を出せない存在へと変わり果てている」

「そ、そうだったのか……そんな話、全然知らなかったぞ」

「知らないのも無理はない。この話を知っている人間は滅多にいない……だから、その盗賊ギルドに狙われているレナの身が危ない」



シノの話を聞き終えてレナは盗賊ギルドという存在が予想以上に危険である事を知り、今までは王都に拠点を持つただの小悪党の集まりだと思っていたが、国が関わるような大組織だと知れば焦らずにはいられない。


既に盗賊ギルドの手下を何人も返り討ちにし、さらに盗賊ギルドの幹部の一人を追い込んだという事実を持つレナを盗賊ギルドが放置するとは考えられず、今後に何等かの対策を取らなければ危険である。

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