第150話 レナの給金

「けどさ、兄ちゃん。この姉ちゃんの違約金なんて払えるのか?金貨10枚だろ?」

「正確に言えば私の取り分は金貨20枚。それとダリル商会で働く場合は月に金貨5枚を支払うという約束をしている」

「金貨20枚だと!?大金じゃないか、そんな額を用意出来るのか!?」

「レナ君、大丈夫なの?」



シノビの言葉に全員が驚き、コネコ達は本当にそれだけの大金をレナが用意できるのかと心配するが、皆は忘れているかもしれないがダリル商会で取り扱っている魔法金属のミスリルの素材はレナが回収を行っている。


この都市で最も価値がある魔法金属を安全に入手できる人材だからこそレナはカーネ商会に狙われているのだ。


現時点でダリル商会の金銭面が潤っているのはレナのお陰である事は間違いなく、会長であるダリルもレナにはそれ相応の金額を渡すのは当たり前の事だった。



「大丈夫だよ。俺はダリルさんから月に金貨50枚は貰っているから」

「なるほど金貨50枚か。それなら支払えるな……え、50枚!?」

「そんなに貰ってたのか兄ちゃん!?」

「金級の冒険者でも滅多にそれだけの金額を稼げないよ!?」

「……凄い」



当たり前のように言ったレナの言葉に全員が驚愕し、下手をしたら金級どころか黄金級の冒険者に匹敵する程の金額をレナは稼いでいた。だが、レナの功績を考えればこの程度の金額は当たり前の話であり、何しろレナは定期的に大迷宮へ訪れては大量のミスリル鉱石を回収してはダリルへ渡している。


王都近辺でミスリル鉱石が取れる鉱山は存在せず、現時点では大迷宮でしか入手は出来ない。しかもレナの場合はゴーレムという強敵を倒し、彼等の中に秘められていた純度の高いミスリル鉱石を回収していた。


品質も高く、しかも毎回大量のミスリル鉱石を用意してくれるお陰でダリル商会は急速的に発展し、現在ではカーネ商会に迫る勢いで大きくなっていった。


今まではカーネ商会がミスリルを独占していたので他の商会も彼等の傘下に入るしかなかったが、新参者のダリル商会が大量のミスリルを取り扱うようになり、カーネ商会を離れてダリル商会の傘下へ入ることを望む商会も多い。今では工場区の鍛冶師達もダリル商会のミスリルを仕入れる事が多くなり、金銭面に関してはかなり潤っている。



(カーネ商会の会長さんは俺がダリルさんに良いように利用されていると思っているようだけど、ダリルさんは俺の事を大切にしてくれてる)



カーネはレナがダリル商会で働いているのは冒険者としてダリル商会と契約を結んでいると思い込み、自分の所で働いている白金級の冒険者よりも少し高い給金を提示してレナを取り込もうとした。しかし、カーネが考えているよりもダリルはレナの事を大事に扱っており、相応の対価を支払っている。


最も月に金貨50枚と言ってもレナは実際にお金を受けとっているわけではなく、必要な時にだけダリルに願い出てお金を受け取っている。レナは給金をそのまま受け取るような事はせず、基本的にはダリルを信用して彼にお金を預けている。


レナは最初は屋敷に住まわせてもらっている立場なので他の人間と同じ程度の給金で良いといったが、義理堅いダリルはそれでは納得せず、話し合った末に月に金貨50枚の給金を与える契約を交わす。但し、実際の所はレナの給金の管理はダリルが行っている。最もあくまでもダリルは預かっている立場なのでレナが給金を求めれば支払いを拒否する事は出来ない。



「とりあえず、ダリルさんに話して今日中に違約金の方は用意するから、その後にシノビさんはカーネ商会に戻って契約破棄の件を伝えてくれる?」

「分かった」

「待てよ兄ちゃん、本当にこの姉ちゃんが契約破棄するとは限らないじゃん。もしも金をねこばばしたらどするんだよ?」

「むうっ……疑われるのは心外」

「大丈夫だよ。このシノビさんはその気になれば俺を気絶させて無理やりカーネ会長の所へ連れて行く事も出来たけど、それをしなかった。俺はシノビさんを信じるよ」

「レナ君がそういうのなら僕は何も言わないけど……」

「金貨50枚……50枚」

「おい、さっきからデブリの兄ちゃんの様子がおかしいぞ……どうした?腹減ってんのかな?」



レナの金貨50枚という発言にデブリは未だに放心し、あまりの金額に混乱から抜けきっていないようだった。一方でシノビの方は自分の事を信じるというレナの言葉に対し、彼女は自分の短刀の1つを差しだす。



「……私を信じてくれるというのなら、私もこれを君に託す」

「これは……?」

「この王都に来てから作ってもらったミスリル製の短刀。ちょっと形が特別で純度が高いミスリルで構成されているから、金貨10枚ぐらいの価値はあると思う。これを貴方に預ける」

「どうしてそんな大切な物を……」

「貴方が私を信じてくれるというのなら、私も貴方を信じる。だから、この短刀は信頼の証として預ける。違約金を支払った後、私が逃げたとしてもこの短刀を売れば違約金ぐらいのお金は稼げるはずだから安心して欲しい」

「シノビさん……分かりました。預かっておきます」



シノビから差し出された短刀の一振りにレナは頷き、彼女に違約金代を支払い、カーネ商会と契約破棄を終えて自分の元に戻って来たときに短刀を返却する事を約束した。

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