第152話 ミスリル鉱石を回収しなければ……

「思ったよりもかなり危険な相手を敵に回してたんだな……いったいどうすればいいんだろう」

「兄ちゃん、そんなに気にする事ないって。どうせ兄ちゃんはここで生まれたわけじゃないんだし、いざとなれば自分の暮らしていた街に逃げればいいだけだろ?」

「それはそうかもしれないけど……」

「そ、そんなの駄目だよ!!3人で卒業するまで一緒に居ようねって約束したよね!?」

「う、うん……」



楽観的な発言をしたコネコに対してミナは慌てふためき、折角友達になれたのにレナが遠方の街へ戻ってしまえば会えなくなると思ったミナは涙目を浮かべる。


彼女としては折角出来た対等の友達がいなくなるなど我慢できず、何としても引き留めようとすると、シノがレナの現状を打開する策を教えてくれた。



「大丈夫、レナが盗賊ギルドに狙われる理由はカーネ商会が原因。そもそもカーネ商会の会長がレナを狙う様に盗賊ギルドに大金を払って人攫いを行わせようとしたのが全ての発端」

「あ、やっぱりそうだったんだ!!くそう、あのオークみたいな会長め、今度会ったら靴の中にスライムを仕込んでやる!!」

「いや、地味な嫌がらせだな!?」

「それはスライムがかわいそう、せめてまきびしにしておく」

「それはそれでもっと不味いんじゃないかな!?そこはせめて画鋲にしとこうよ!!」

「あ、嫌がらせする事は反対しないんだな……」



レナとシノとミナの言葉にデブリがツッコミを入れるが、盗賊ギルドが動いているのはカーネ会長の指示である事は間違いなく、シノによればカーネ会長をどうにかすれば盗賊ギルドから狙われる事はなくなるという。


しかし、カーネはわざわざ学園に訪れて勧誘するほどにレナに対して強い執着心を抱いている事は間違いなく、そう簡単にはレナを引き込むことを諦めないだろう。



「もしもレナがカーネ会長と契約を結んで専属冒険者になれば盗賊ギルドから狙われる事はなくなると思う」

「それは絶対に嫌だ。必ずいいように使われるだけだと思う」

「それは私もそう思う。なら、いっその事レナの興味を失くす方法がいいと思う」

「興味を失くす?どうやって?」

「例えば……噂を流す。もうレナは大迷宮からミスリル鉱石を入手する事が出来なくなった。そういう噂を流せばカーネ会長もレナの事を諦めるはず」



カーネがレナを執拗に狙うのはレナが大迷宮から定期的に大量のミスリル鉱石を回収し、ダリル商会に渡している事が原因である。カーネからすればレナはライバルの商会に無料同然(実際には金貨は50枚は貰っているが)で貴重なミスリル鉱石を手渡していることである。


これまでは自分の商会が独占していたミスリルの販売を新参者のダリル商会も取り扱うようになり、しかも品質も量も上回れたらカーネ商会の立つ瀬はない。現在のミスリルの流通に関してはカーネ商会よりもダリル商会の方が多く産出しており、カーネ商会との契約を切ってダリル商会へ契約を結ぼうとする鍛冶師も後を絶たない。


しかし、ダリル商会がミスリルを取り扱えるようになったのはレナという存在が大きく、もしもレナを手に入れられればカーネ商会は一気に盛り返せる。場合によっては邪魔なダリル商会を排除させ、さらに今まで以上のミスリルを取り扱えるようになる。


だが、その肝心のレナがミスリル鉱石を手に入れなくなった場合はカーネの目論見は失敗に終わり、ミスリルにしか興味がないカーネはミスリル鉱石を入手出来なくなったレナに興味を示すはずがない。そうなれば盗賊ギルドにわざわざ大金を支払ってレナの誘拐を指示する必要もない。



「レナがミスリル鉱石を手に入れるのを辞めればカーネ会長もいつかは諦めて盗賊ギルドの依頼を取り消す可能性が高い」

「でもさ、その方法だと結局はカーネ商会が一番得をするんじゃねえの?折角ダリルのおっちゃんも商売が安定してきたのに兄ちゃんがミスリル鉱石を回収できなくなったら元の木阿弥に戻るんじゃねえの?」

「まあ、そうだよね……」



仮にミスリル鉱石の回収をレナが辞めた場合、当然だが現時点のダリル商会ではカーネ商会に対して対抗する手段を失う。ダリル商会はカーネ商会と比べて専属契約を結ぶ冒険者が非常に少なく、しかも冒険者ギルド側は過去にカーネと組んでダリル商会を潰そうとした前科を持つ。


ここでレナがミスリル鉱石の回収を中止すればダリル商会はカーネ商会に唯一対抗出来る手段を失い、そうなれば最初にレナ達が訪れた時のように商会の解散の危機を迎えてしまう。


ダリルも将来的にはレナの力を借りずに商会が維持できる方法を探しているが、現状ではミスリル以外に大金を得られる商品は存在せず、レナの力を借りるしかない状況だった。



「ミスリル鉱石の回収を辞めず、それでいながらカーネ会長がレナ君を狙わない方法か……そんなのあるのかな?」

「なんだか、お前等の話を聞いてると僕がここにいていいのか疎外感を感じるんだが……もう帰っていいのか?」

「なんだよ、デブリのあんちゃんはレナの兄ちゃんがどうなってもいいのか!?そんな事を言うのならあたし達、対抗戦なんて出てやらないぞ!!」

「そ、それは卑怯だろう!!分かったよ、僕も考えるよ!!」



コネコの言葉にデブリは焦り、やっと魔法科の生徒との対抗戦のメンバーが揃ったのにここで参加を辞められれば堪ったものではなく、彼も真剣に考えるとある打開策を思いつく。

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