第146話 5人目の生徒

「お礼はいらない、そもそも人助けのつもりで助けたわけじゃないから」

「え?それってどういう……うわっ!?」

「捕縛」



少女は何時の間にか両手に鎖を握り締め、素早い動作でレナの両手を鎖で締め付ける。そのあまりの素早さにレナは抵抗する暇もなく、闘拳と籠手を装備した両腕を鎖によって拘束されてしまう。その手際の速さにレナは驚き、抵抗する暇もなかった。


暗殺者であるコネコでさえも凌駕する速度で少女は一瞬にしてレナを拘束すると、満足そうに鼻を鳴らしてそのまま鎖を引っ張ってレナを連れて行こうとした。



「さあ、一緒に行く」

「ちょ、ちょっと!?止めて下さい!!」

「はうっ!?」

「あれ?」



だが、レナを引き寄せようとした途端に少女は逆に鎖を引っ張られてしりもちをつき、痛そうにお尻を摩る。別にレナは特になにもしておらず、単純に引っ張っただけなのだが、少女は立ち上がって必死に鎖を引っ張ろうとする。



「う~ん……駄目、思ったより力がある」

「いや、まあ鍛えてますから……」

「むうっ……これじゃあ、気絶させて連れて行くしかない」

「気絶!?ちょ、ちょっと待ってくださいって!!」



少女は短刀を取り出そうとするのを見たレナは彼女を落ち着かせ、そもそも自分を何処へ連れ出そうとしているのかを聞き出す。



「だいたい、俺を何処へ連れて行く気ですか!?」

「カーネ商会の会長さんの所へ連れて行く。私はカーネ商会と専属契約を結んでいる冒険者」

「カーネ商会!?」



どうやらカーネ商会は盗賊ギルドだけではなく、商会と契約を結んでいる冒険者も利用してレナを捕まえようとしているらしい。相手がカーネ商会側の人間だと知ったレナは少女から逃れるため、まずは鎖を掴んで破壊しようとした。


闘拳と籠手に付与魔法を発動させ、重力を利用して両手を拘束する鎖を破壊しようとレナは試みるが、そんなレナの行動を先読みして少女は素早い動作で短刀を引き抜いてレナの首筋に刃を向ける。



「抵抗は無駄、この距離なら私の刃が先に貴方を切れる」

「うっ……!?」



少女の短刀の刃を首筋に構えられたレナは冷や汗を流し、やはりというべきかこの少女は圧倒的にレナよりも速く動けた。下手をしたらリッパーよりも素早く動く彼女にレナは冷や汗を流すが、ここで素朴な疑問を抱く。



「あの……俺を殺したらカーネ商会の人も困るんじゃないですか?生け捕りしないと報酬とか貰えないんじゃ……」

「あっ……そうだった。絶対に殺さずに連れて帰るように言われていた」



先ほど、少女は盗賊ギルドから派遣された刺客からレナの命を救った。だから彼女の目的は盗賊ギルドの連中とは異なり、レナを生け捕りで捕まえるように命じられたのではないかと判断したレナは試しに聞いてみると、少女は思い出したように短刀を元に戻す。


一先ずは相手が武器を収めたのでレナの方も抵抗は中止し、この状況を切り抜ける方法を考える。ここまで接した限り、目の前の少女は何処か抜けていると感じたレナは試しに交渉を持ちかける事にした。



「……どうか、俺を見逃して欲しいと言ったら、やっぱり困ります?」

「それは困る。貴方を捕まえてカーネ商会へ引き渡せば私はお金をたくさん貰える約束をしている」

「ちなみにどれくらい?」

「金貨10枚ぐらい……私が貰っている補助金の5倍も貰える」

「補助金?」



補助金という言葉にレナは疑問を抱き、同時に先ほどの彼女の言葉を思い出す。彼女は自分が冒険者と名乗ったが、外見から察するにレナと年齢はそれほど離れているようには見えかった。


もしかしたら彼女も自分と同じ立場の人間ではないのかと思い、レナは試しに少女に話しかけてみる。



「あの、補助金というと……もしかして、魔法学園の生徒に支払われているお金の事?」

「そう、私は毎月学園側から補助金を受け取っている。月に金貨2枚程度……これだけだと生活するので精一杯なのに、冒険者の資格を一時剥奪されたから冒険者の仕事もできない。だからこうしてカーネ商会の人から仕事を貰ってはお金を稼いでいる」

「じゃあ、君がもしかして学園に通わずに大迷宮に入り浸っている騎士科の生徒!?」

「……私を知ってるの?」



レナは少女の言葉を聞いて自分達が探している学園の生徒だと知り、まさかこんな状況で遭遇するとは思いもよらず、てっきりカーネ商会から派遣された人攫いか何かだと思っていた。


少女はレナと同様に国の制度で冒険者資格を一時剥奪され、代わりに王都の魔法学園へ入学したらしい。入学が確定した生徒は学園側に補助金の申請を申し込むと、毎月金貨2枚の補助金が与えられる。


これは唐突な呼び出しで衣食住を確保できなかった生徒のために学園側が設けたシステムであり、レナとミナは申請していないがコネコも受け取っている(彼女の場合は孤児院の仕送りと自分の小遣いとして利用)。

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