第145話 謎の助っ人

「ちょっとダル!?何を勝手に負けを認めているのよ!!私はまだ諦めるつもりはないわよ!?」

「コネ、状況をよく考えろ……俺たちが騒いだせいで一般人にも見られている。これ以上に派手にやれば警備兵が駆けつけて俺達は捕まるぞ?」

「うっ……言われてみれば」



路地の騒動を聞きつけた街道の人々が何事かと覗き込み、倒れている魔術師の男やレナ達の姿を見て仰天していた。既に警備兵を呼びに向かっている人間がいたとしてもおかしくはなく、ここに長居すれば双方どちらも面倒な事になる。



「なあ、あんた……虫のいい話かもしれないが、俺達を見逃してくれないか?もしも見逃してくれるというのであればこの借りは必ず返す!!」

「別にいいですよ。但し、もう俺の命を狙わないと約束してくれるなら……」

「本当か!?分かった、約束する!!もう依頼は断るよ!!」

「くぅっ……折角、借金を返せると思ったのに」



ダルはコネの肩を借りながらレナに視線を向け、自分達を見逃してくれるように交渉を持ち込む。最もレナとしては別に被害は受けておらず、自分の事をもう狙わないと約束してくれるのであれば二人に構うつもりはない。


二人は路地の奥の方に向かい、その様子をレナは見送る。倒れた魔術師の男に関しては流石に見過ごす事は出来ず、警備兵に突き出そうと振り返った時、股間を抑えて気絶していたと思われた魔術師が起き上がろうとする姿を確認する。



「こ、このガキ……よくも俺の玉を潰してくれたわね!?」

「え、まだ立てるの!?あと、口調が変わってますけど……」

「うるさいわよ!!絶対に殺してやる!!」



ぷるぷると足を震わせながら小杖を構え、性懲りもなく魔法を発動させようとする魔術師に対してレナは身構えようとした時、不意に建物の屋根の上から飛び降りて魔術師の元に接近する影があった。



「ど~んっ」

「ぐええっ!?」

「うわっ!?」



気の抜けた掛け声と共に魔術師の背中に何者かが着地し、そのまま魔術師を地面に叩きつける。その光景を見てレナは驚き、街道の人々も混乱の声を上げる。



「な、なんだ!?誰かが落ちてきたぞ!!」

「おい、これは何の騒ぎだ!?」

「あ、警備兵さん!!こっちです、早く来てください!!」



混乱の最中、遂に警備兵が駆けつけてきたのか街の人々が路地に存在するレナ達を指差す。警備兵が現れた事にレナは安心しかけるが、魔術師の背中に乗り込んだ人物はレナに振り返ってお互いが向き合う。




――建物から落ちてきた、というよりは降りてきたのは全身に黒装束を身に纏った少女であり、身長はレナと同程度で黒髪をサイドテールに纏めていた。顔立ちは整っているようだが、顔の半分はマフラーのような物で覆い隠し、腰には短刀を二つ装備していた。




現れた少女は警備兵の姿を確認すると、面倒そうにため息を吐き出し、レナの元へ向けて駆け出す。それを見てレナは咄嗟に身構えるが、少女はレナに対して声を掛ける。



「こっち」

「うわっ!?」



まるでコネコのように素早い動きで少女はレナの前に移動すると、そのまま腕を掴んで走り出す。遅れて路地に辿り着いた警備兵たちは逃げ出すレナ達の姿を見て慌てて追いかける。



「待て!!待たんかっ!!」

「捕まえろっ!!絶対に逃がすな!!」

「最悪、殺しても構わない!!」

「えっ!?」



追いかけてくる警備兵の信じられない言葉にレナは驚き、その様子を見てレナの腕を掴んで走る少女が彼等の正体を答えた。



「あいつら、兵士じゃない。君の敵」

「敵って……」

「とにかく今は逃げる、付いてきて」

「ちょっと!?」



引っ張られるがままにレナは少女の後に続き、奥へ行くと複雑な迷路のように広がっている路地を駆け抜ける。彼女が何者なのか、どうして追いかけてくる警備兵が偽物だと見抜いたのか、何故自分を助けたのか、色々と聞きたい事はあったがレナは言われるがままに逃げる事に集中した。


少女は非常に足が速く、しかも当の本人はレナの速度に合わせてわざと移動速度を落として走っているようだった。必死にレナも追いかけるが、少女との距離は縮まる事も離れる事もなく、完全にレナの速度を把握して少女は一定の距離を保ちながら駆け抜ける。



(この子、何なんだ!?こんなに走り続けているのに汗一つ掻かないなんて……)



走り始めてから5分は経過したが、全力疾走に近いレナに対して少女の方は顔色一つ変えずに移動を続け、やがて路地を抜け出して人気のない街道へ出た。


ここまで逃げてようやく警備兵を撒く事に成功したらしく、少女は振り返って誰も追いかけて居ない事を確認するとレナと向き合う。



「大丈夫?」

「はあっ……はっ……ちょっと、待って……走り続けて、息が……」

「水、飲む?」

「飲む!!」



頬を紅潮させながら荒い息を吐き出すレナに対して少女は竹製の水筒を取り出して差し出し、有難くレナは受け取ると水を飲み干す。やっと一息ついたところでレナは礼をお礼を告げて水筒を返し、改めて少女と向き合う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る