第144話 盗賊達の襲撃

獣人族の女性は短剣を構えると路地の壁を蹴り上げて空中へ飛び、頭上からレナを狙う。その一方で人間の男性の方は剣を振り翳し、正面から向かう。それを見たレナは闘拳と籠手を構えて迎撃態勢に入る。



「喰らえっ!!」

「おらぁっ!!」

「くっ!?」



闘拳で短剣を受け、正面から振り下ろされが刃を籠手で受け止めると、レナは足に力を込めてどうにか踏み止まる。


基本的には魔術師の称号を持つ人間は戦闘職の人間と比べると身体能力は低めに思われがちだが、普段から訓練を行い、魔物との戦闘の際も素手で戦う事があるレナの筋力は高く、そのまま弾き返す。



「だあっ!!」

「きゃっ!?」

「そんな馬鹿なっ!?」

「おい、何してんだお前等!!邪魔だ退けっ!!」



刃を弾いて後方へ飛んだレナを見て二人組は驚き、それを見ていた魔術師の男は焦りだすが、レナは腰に手を伸ばして魔銃を構えようとした。だが、早朝の出来事を思い出して魔銃を下手に使うと相手を殺しかねず、仕方なく別の手段に切り替える。


付与魔法を発動させてレナは同時に闘拳、ブーツに紅色の魔力を纏わせると、正面に立っていた二人は警戒した様に武器を構えて距離を取る。どうやら事前にレナの情報を仕入れているらしく、迂闊に近寄ってはこない。



「気を付けろコネ!!こいつは妙な魔法を使うらしいからな!!」

「うっさいわね、そんな事は分かってるわよダル!!魔法学園の生徒というだけで侮れないのに……!!」

「いいから早く捕まえろっ!!警備兵が着ちまうぞ!?」

『うるさい!!』



後方からの魔術師の言葉にコネとダルテという盗賊は同時に怒鳴り返すと、それを確認したレナは迂闊に相手が近づかないのであれば自分から向かう事に決め、まずは相手の体勢を崩すために左手を突き出す。


左手を構えたレナに対してコネとダルテは戸惑うが、すぐに手元に何も握りしめられていない事に気づいてただのはったりだと判断して向かう。


仮にレナが小杖などの道具を取り出して入れば二人も不用意に飛び出す事はなかったのだろうが、生憎と二人が相手にしているのは杖を必要としない魔術師である。



「反発!!」

「うにゃっ!?」

「うおっ!?」



左手から重力で作り出した軽い衝撃波を放ち、体勢を崩したコネとダルテの元に向かう。相手が体勢を整える前に攻撃を繰り出すため、まずは距離が近いコネに対してレナは左手で掌底を繰り出す。



「はあっ!!」

「あうっ!?」

「うわっ……だ、大丈夫か?」

「ば、馬鹿!!早く逃げろっ!!」



突き飛ばされたコネをダルテが受け止めると、それを確認した魔術師が注意するが、既にレナは右腕を振り翳して今度は正面から殴りつける。



「でりゃあっ!!」

「ぐはぁっ!?」

「だ、ダルテ!?」

「くそ、油断しやがって!!」



とても少年が繰り出す様な攻撃とは思えない程に強烈な拳を受けたダルテは吹き飛び、地面に倒れ込む。それを確認したコネは慌てて彼の元に駆けつけようとしたが、痺れを切らした魔術師が小杖を構えて二人を巻き込んで砲撃魔法を発動させようとした。


この距離で魔法を発動させれば他の二人も巻き込むはずだが、元々仲間ではないのか射線上に存在するにも関わらずに魔術師は意識を集中させて杖先に電流を迸らせる。



「もういい!!お前等ごと死んじまえっ!!」

「なっ!?や、止めなさい!!」

「ぐえっ……に、逃げろコネ……!!」



ダルテを庇う様にコネは彼の傍に寄り添うと、それを見たレナは魔術師の足元に視線を向け、魔法を発動される前に掌を地面に押し付けて付与魔法を発動させる。



「させるかっ!!」

「ボル……ぎゃああっ!?」



魔術師の小杖から電流が放たれる刹那、地面が盛り上がると拳の形をした土砂の塊が魔術師の股間に衝突して路地に悲鳴が響く。急所を打ち抜かれた魔術師はその場で股間を抑えて座り込み、その様子を確認したレナは安堵した表情を浮かべる。


コネとダルテは魔術師が膝を付いた様子を見て唖然とするが、すぐにレナが自分達を救ってくれたことに気付き、振り返るとそこには魔銃を構えるレナの姿があった。



「動かないでください、少しでも動いたら撃ちます」

「な、なんだそれは……」

「ダルテ、黙って!!何か嫌な予感がするわ……きっと、危険な武器よ」



魔銃を初めて見たダルテは訝しげな表情を浮かべるが、獣人であるコネは本能的にレナの所持する魔銃の危険性を感じ取り、慌てて両手を上げる。その様子を見てレナは魔銃を構えたまま質問を行う。



「貴方達は盗賊ギルドの人間ですか?狙いは俺の命?」

「ち、違うわ……私とダルテは盗賊じゃない、傭兵よ」

「傭兵?」

「はあっ……俺達は依頼主にお前を捕まえるように言われてきたんだよ」



観念したかのようにダルテはコネに肩を貸してもらって立ち上がると、自分達が傭兵である事を話す。しかし、どうして傭兵がこのような人攫いの真似を行おうとしたのか気になったレナは魔銃を向けたまま次の質問に入る。



「どうして傭兵がこんな真似を?依頼人は誰ですか?」

「生憎だが、俺達に依頼した奴はただの仲介役だ。その男も依頼人に頼まれて用件だけを伝えるように言われてきたらしい。だから、何処の誰がお前さんを連れてくるように言い出したのかは知らない」

「あ、あんたには悪いけど、こっちも色々と事情があるのよ!!あんたを捕まえれば依頼人は金貨20枚も払うと約束してくれたのよ!!だから、大人しく捕まりなさい!!」

「嫌だといったら?」

「……仕方ない、コネ。俺達の負けだ。今回は諦めるぞ」



レナの言葉を聞いてダルテは諦めた表情を浮かべ、この状況では逆転は不可能だと判断して素直に敗北を認めた。

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