第141話 ミスリルの弾丸

――ゴイルが立ち去った後、ダリル商会には大勢の小髭族の鍛冶師が専属契約を交わしており、その中でも腕が最も優れているのは「ムクチ」という男だった。名前の通りに無口な老人だが、言われた仕事は必ず果たす優秀な鍛冶師だった。



「……つまり、ミスリルをこいつと同じ形に作り出せばいいんだな?」

「はい、あの大丈夫ですか?仕事が忙しいなら後回しでもいいんですけど……」

「問題ない、明日までには仕上げてやる」



レナはムクチに魔銃の弾丸を渡した後、とりあえずは「6個」のミスリルの弾丸の製作を依頼する。ミスリルは加工に難しい素材であり、しかも弾丸程の小ささに加工するとなると時間が掛かりそうに思われたが、ムクチならば明日の朝までには仕上げる事ができるという。


彼の工房は屋敷の地下に存在し、元々はダリルが仕事場として利用した場所だが、現在はムクチだけが管理している。


彼は流れ者の鍛冶師で最近になって王都へ訪れた小髭族であり、カーネ商会とは一切接触していない。そのためにダリルも彼の事を一番に信用して屋敷の地下の工房の管理を任せていた。



「明日の朝にここへ来い、それまでには用意してやる」

「はい、ありがとうございます」

「礼はいらん」



ぶっきらぼうに答えるとムクチは作業に集中し、まずは弾丸の形状を調べた後、魔銃の方も調べ尽くす。単純に弾丸の形状をしたミスリルを加工すればいいだけの話ではなく、重量なども計算するために魔銃も預かる。


レナは彼に任せて自分の部屋に戻り、ここでやっと本日の目的を果たしていない事を思い出す。今日は5人目の決闘の選手を探し出すために大迷宮へ向かったにも関わらず、結局は盗賊の一件でアルトが推薦した生徒に合えなかった。



(しまったな……日中は学校があるし、また放課後に行くしかないか……そういえばダリルさんからまた大迷宮でミスリル鉱石を回収するように言われていたし、ついでに大迷宮に立ち寄ろうかな)



明日はミナとコネコとついでにデブリを誘い、大迷宮へ挑むことを決めてレナは就寝する――





――翌日の早朝、約束通りにレナはムクチの元へ訪れると、彼は夜通しで作業を行っていたのか工房には熱気が充満しており、汗を流しながら作業を行っていた。レナが工房に入って来た事を知ると、ムクチは机の上を指差す。



「用意出来たぞ。そこに置いてある、勝手に取っていけ」

「これは……凄い、本当に出来上がってる!!」



机の上には魔銃とミスリル製の弾丸が丁度6発分だけ置かれており、しかも腰に装着させるための「ホルスター」のような革製のベルトまで用意されていた。


どうやら魔銃を持ち運ぶ際に不便が内容にムクチが気を遣って作ってくれたらしく、レナは礼を告げる。



「ムクチさん、ありがとうございました」

「…………」



ムクチはレナの言葉を聞いても振り返りもせず、代わりに鉄槌を握り締めた片腕を上げる動作を行う。そんなムクチの行動にレナは苦笑いを浮かべるが、有難くホルスターを装着して魔銃を収めると、弾丸を固定するための穴も用意している事に気付き、弾丸も同時にベルトに固定を行う。


これで遠距離の攻撃を行う武器が増えたが、魔銃を装備するとなると銀玉を利用したスリングショットの方はこの際に取り外す事にした。今後は飛び道具に関しては魔銃をメインし、時と場合によってはスイングショットも使用する事を決める。



(銀玉だと威力の方が魔物と戦う時に不安があったんだよな……けど、この魔銃なら十分に戦えるはず!!)



スイングショットはゴブリンや一角兎などの力の弱い相手ならば十分な活躍を果たすが、ボアの赤毛熊のような分厚い毛皮に覆われた魔物や、ゴーレムのように全身に硬い外殻で覆われた魔物には相性が悪い。


その点に関しては魔銃の方が威力も高く、しかもスイングショットのようにわざわざ発射する際にいちいちゴムを引っ張る必要もない。反面に攻撃回数がスリングショットと比べると減ってしまい、6発しか攻撃が出来ないという欠点もあるが、その場合は弾丸を即座に回収すれば問題はない。



(けど、これを決闘で使えるのかな……下手をしたら相手を殺すかもしれないし、一応は先生に相談するか)



魔銃から発射される弾丸に関してはスリングショットの銀玉とは異なり、あまりにも弾速が早すぎてレナの意思では軌道を変更させる事は出来ない。威力と速度が強化された分、攻撃の命中精度は落ちてしまった。魔銃を完璧に使いこなせるようには訓練も必要であり、しばらくの間はレナも魔銃を扱いこなすために学校に向かう前に訓練を行う事を決めた。


工房を後にしたレナは朝食が用意されているはずの食堂へ向かおうとした時、窓の外に視線を向けるとコネコが裏庭に存在する事に気付き、彼女は両手に木造製の短剣を構えた状態で立っていた。どうやら戦闘訓練をしているらしく、彼女の前には木造製の人形が存在した。

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