第140話 魔銃の弾丸の製作

――レナは屋敷に戻った後、手紙を発見して事情を知ったダリル達が慌てて迎え入れ、彼が無事であったことを喜ぶ一方で一人で勝手に無茶なことをした事を叱りつける。結果的にはリッパーの脅迫状はただの罠だったらしく、コネコによるとナオもデブリも無事だったという。


ダリル達の事を心配させた事は悪いと思っているが、結果的には誰も捕まっていなかった事にレナは安堵した。そして何が起きたのかを話し、リッパーがアルトに止めを刺されて死んだ事を話す。その話を聞いてコネコもミナも驚いたが、ダリルは納得した様に頷く。



「そうか……あの王子がやったのか」

「……ダリルさんは驚かないんですか?」

「いや、アルト王子の噂はよく耳にしていたからな。お前等はあの王子の噂を知らないのか?」

「何だよ噂って……あの兄ちゃん、そんなにやばい奴なのか?」

「馬鹿!!あの王子様はこの街の住民にどれだけ人気があると思っているんだ!!あの人はな、毎日のように夜の見回りを行って街の治安を守っているんだよ」

「え?でも、それって警備兵の仕事じゃ……」



王子であるアルトが王都の見回りを行い、治安を維持しているという話を聞かされて3人は戸惑い、普通は警備兵が行う仕事をどうして一国の王子であるアルトが行っているのか不思議に思う。



「王子様って、国にとっては凄い重要な人なのにどうして見回りなんて危険な事をしているんですか?」

「そこまでは俺も知らねえよ。だが、どんな理由があろうとアルト王子はこの街の住民のために日夜活動しているんだ。アルト王子に救われた人間は多いんだぞ?」

「なんでダリルのおっさんはそんなにアルトの兄ちゃんを気遣うんだよ?」

「それはな、実は俺も前にアルト王子に救われた事があるんだ」

「アルト王子に?」



ダリルも過去にアルトに命を救われた事があるらしく、まだレナ達がこの王都へ訪れる前の日に時は遡る。彼はカーネ商会と冒険者ギルドの策略で危うく商会の解散の危機に陥り、従業員全員に退職金を支払って自分も逃げ出そうとしていた。


しかし、屋敷から抜け出したとき、カーネ商会に雇われた冒険者に路地に引き込まれて襲われたという。彼は必死に逃げ出そうとしたが、冒険者は数人がかりで暴行を加えようとした。それを止めたのがアルトらしい。


アルトはダリルを救い出すと冒険者達と「穏便」に話し合いを行い、無暗な暴力は止めるように説得した。結局は冒険者はその場から引き下がったが、アルトはダリルを屋敷まで送り届けるとそのまま立ち去ったという。



「俺の事を救ったのはお前達だが、その前に俺の命を救ってくれたのはアルト王子なんだよ……俺はあの人ならいい王様になれると思う」

「アルト君がダリルさんを救っていたなんて……」

「あの兄ちゃん、良い奴だったのか」

「う~ん……悪い人じゃないと思うけど、僕はちょっと怖いと思うな」

「怖い?どうして?」

「何となくだけど……ちょっと近寄りがたいというか、少し苦手かな」



ダリルの話を聞いてコネコは感心するが、ミナの方は何か気にかかるのかアルトの事に対しては苦手意識を持っているらしく、レナもその気持ちは分からなくはなかった。学園で会ったアルトと、路地裏で遭遇したアルトは雰囲気が全く異なり、まるで別人のように思えた。


しかし、だからといってアルトが善人である事は間違いなく、そうでなければダリルもレナの命も救うはずがない。だが、相手が犯罪者とはいえ、リッパーを仕留めるときに何の躊躇もなく殺したアルトの姿を思い出してレナは少し怖いと思う。



(自分の命を狙う相手には容赦するな、か……)



アルトの言葉を思い出したレナは机の上に乗せた魔銃に視線を向け、そういえばリッパーの肩にめり込んだ魔銃の弾丸の回収を行う事を忘れていた。だが、あの弾丸は只の鉄の塊にしか過ぎず、他の人間に回収した所で使い道はない。



(この魔銃と俺の地属性の付与魔法は凄く相性がいいな。あんなに速く動けるリッパーが反応できない程の速度で攻撃できるなんて……けど、やっぱり普通の金属の弾丸だと何回も使えないか)



回収しておいた弾丸の方に視線を向けると、レナの付与魔法の影響を受けて弾丸の形がひしゃげてしまい、普通の金属ではやはり今のレナの付与魔法には負荷が大きすぎて耐え切れないらしい。


魔銃で攻撃を行う時、レナは事前に弾丸に付与魔法を施す必要があり、まずは弾丸に重力を加えさせて発砲時に一気に加速させて打ち込む。この際に魔銃に装着された地属性の魔石の効果で弾丸に付与されたレナの魔力が強化され、より威力が上昇する。


但し、この方法だと弾丸に大きな負荷が掛かり、発砲する度に弾丸の形が歪に変化してしまう。弾丸を普通の金属以上の硬度や魔法の耐性を持つ金属で加工すれば壊れる事はなくなり、そうなるとレナに心当たりがあるのは「ミスリル」しか存在しなかった。

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