第133話 玩具?

「お願いしますダリルさん!!どうか、どうかこの魔道具とミスリルを10キロ!!いや、せめて5キロと交換してください!!我が家に伝わる代々の家宝なんです!!」

「そういわれてもな……こんな物を出されても困るんだよ」

「なんだなんだ?どうしたんだよダリルのおっちゃん?」

「何かあったんですか?」



屋敷の前には困り顔のダリルと彼の前で必死に頭を下げる男性が存在し、レナもコネコも知らない顔なのでダリル商会に訪れた客らしい。


ミスリルを取り扱うようになってからは商会に訪れる客も増えてきたので、別に知らない人間が訪れる事自体は珍しくはないのだが、どうも様子がおかしい。二人が帰ってきたのでダリルは頭を掻きながら男性との会話を切り上げようとした。



「おう、二人ともお帰り。悪いけどジュウさん、ミスリルは相場の金額でしか売れないんだよ。その家宝とやらいらないから帰ってくれ」

「そんな!?お願いします、どうかお売りください!!でないとうちの店はが……!!」

「同情はするけどよ、そもそもあんたが不倫して奥さんの慰謝料が払えきれないから店を売却するしかないんだろ?悪いが、うちとしても人助けのためにミスリルは易々とは渡せねえよ。こっちも商売だからな」

「お願いします、どうかお売りください!!これは本当に貴重な魔道具なんです!!」

「何だこのおっさん、一体何があったんだ?」



ダリルの足にしがみついて離れようとしない情けない男性の姿にコネコは呆れた表情を浮かべると、面倒そうにダリルは説明を行う。



「いや、このお客さんが貴重な魔道具と引き換えにミスリルを渡して欲しいとさっきから言い張ってるんだよ。別にうちも物々交換を禁止しているわけじゃないからな、本当に役立ちそうな魔道具ならミスリルと交換してやらないでもないんだが……その魔道具というのがな」

「どんな魔道具なんですか?」

「それがはっきり言って、子供の玩具ぐらいの使い道しかないんだよ」

「な、なんて事を!!これは我が家の家宝ですよ!?」



男性はダリルの言葉に激高し、包みを解いて持ち込んだ中身を取り出す。男性が取り出したのは「拳銃」の形をした魔道具であり、その珍しい形状にレナとコネコは興味を抱く。


ちなみにこの世界には銃器の類は存在せず、そもそも火薬自体が存在しない。この世界では燃焼に扱う時は火属性の魔石を使うのが当たり前のため、銃器の弾丸に必要な火薬その物が作り出される事がない。



「ん?なんだこれ?なんかちょっと格好いいな」

「これがその家宝なんですか?」

「よくぞお聞きになりました!!これは「魔銃」と呼ばれる魔道具です!!我が家は実は3代前までは鍛冶屋を務めておりまして、この魔道具は私の曾祖父が作り出した世界に一つしかない武器なのです!!」

「はあっ……」



レナとコネコの言葉に機嫌を取り戻したのか男性は誇らしげに魔道具の説明を行い、ダリルは面倒そうな表情を浮かべた。やっと断れると思ったのだが、コネコは魔銃の形状を見て子供らしく興味を抱いたらしく、詳しい話を聞く。



「いいですか?この魔銃は風属性の魔石の力を利用して、この「弾丸」という金属製の筒を射出します!!しかも撃ち込まれた弾丸の速度は凄まじく、目では終えない速さです!!」

「え?それって凄くないですか?」



男性の言葉によると魔銃は撃鉄部分に存在する場所に加工した風属性の魔石をはめ込むことで、風の力を利用して弾丸と呼ばれる金属の塊を射出して相手をこうげきする事が出来るという。


話を聞く限りでは撃ち込まれた弾丸は常人では目で捉えきれず、弾丸に関しても特別な金属で構成されているらしい。そこまでは地球で扱われている銃器と同じなのだが、正確に言えばエアガンに性質が近い。



「この魔銃は本当に素晴らしいのです!!何しろ目にも止まらぬ速度で攻撃を行える武器ですよ!?最早、弓矢とは比べ物になりませんな!!」

「聞くだけだと本当に凄い武器に思えるけど、どうしてダリルさんはこれが玩具だと思ったんですか?」

「……確かに最初は俺も凄い魔道具だと思ったが、こいつの威力が問題なんだよ。おい、ちょっと借りるぞ」

「あっ!?な、何をするんですか!?」



ダリルは男性から魔銃を取り上げると、そのまま弾丸を装填して自分の屋敷の窓に向けて銃口を構える。その行動にレナ達は驚くが、ダリルはしっかりと狙いを定めて引きに指を伸ばす。



「いいか、よく見とけよ……そりゃっ」



気の抜けた掛け声と共にダリルが指を引くと、魔銃に装着された風属性の魔石が輝き、銃口から弾丸が発射された。確かにレナの動体視力では捉えきれない程の速度で弾丸が発射され、屋敷の窓へ衝突した。




――カツンッ!!




だが、弾丸は硝子に衝突した途端に弾かれ、窓の表面に少し傷がついた程度である。確かにダリルの言う通りに子供の玩具程度の性能しか存在せず、せいぜい銀玉鉄砲程度の威力しか存在しない。


ダリルは落ちた弾丸を拾い上げると、魔銃を男性の方に放り投げ、何ともいえない表情を浮かべてレナとコネコに振り返る。



「なっ?この玩具をミスリル10キロと変えろと言われてお前等、納得できるか?」

『……できない』

「そ、そんなぁっ……」



レナとコネコはダリルの言葉に納得し、魔銃を抱えた男性は力が抜けたように膝を崩す。確かに弾丸の攻撃速度は優れているが、反面にあまりに威力が弱すぎて魔物の戦闘には役立つ可能性は間違いなくゼロだった。

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