第134話 地属性の魔石
「うう、もうお終いだ……私は明日には店を失い、路上で生活するしかないのか……」
「そんな恨めしそうな目で見られてもミスリルはやらねえよ!!ほら、とっとと帰りな!!」
「そ、そんな……」
ダリルの言葉に男性はへたれ込み、返された魔銃を地面に落とす。それを見たレナは魔銃を拾い上げると、装着されている風属性の魔石に視線を向けてある疑問を抱く。
「あの、この魔銃に風属性以外の魔石を装着した場合はどうなるんですか?」
「え?ああ、例えば水属性の魔石を装着した場合は水鉄砲のように水を出します。まあ、勢いが弱すぎてちょろちょろと流れるだけですが……ちなみに火属性の場合はマッチの火ぐらいの炎が出ます。煙草を付けるときによく使いましたね」
「それ、炎じゃねえよ。ただの火だろ……」
「でも、一応は他の属性の魔石も使えるんですね?」
「おいおい、レナ。そんな物をどうする気だお前?まさか、欲しいとか言い出すつもりじゃないだろうな……」
魔銃を眺めるレナに対してダリルは呆れた表情を浮かべ、こんな玩具のような魔道具に本当にミスリルを渡して購入するつなのかと不安を抱く。そして彼の不安は的中し、魔銃を握り締めたレナはダリルに相談する。
「ダリルさん、これ俺が買い取ります」
「おいおい、嘘だろ!?本気か!?」
「え!?本当ですか!?」
「兄ちゃん、こんな玩具が欲しいのか!?」
「これ、買います。ミスリルは俺が用意します」
「あ、ありがとうございます!!ありがとうございます!!」
レナの言葉に落ち込んでいた男性は顔を上げ、ダリルとコネコはレナが本気で言っているのかと驚くが、魔銃を手にしたレナは頷く。それを聞いたショウは涙を浮かべて感謝の言葉を並べて頭を下げ、ダリルとコネコは人の好すぎるレナに呆れてしまう。
しかし、レナが魔銃を買い取ったのにはちゃんと理由があり、彼の魔術師としての勘がこの魔銃と付与魔法の相性が良いのではないかと告げていた。
――ダリルの反対を押し切って魔銃を購入したレナは屋敷の自分の部屋の中に戻り、魔銃に装着されていた風属性の魔石を取り外し、魔銃に装填されていた「弾丸」を取り出して調べる。
「へえ、変わった形をした金属だな……素材は鋼鉄かな?魔法金属ではなさそうだけど……」
弾丸を調べ終えたレナは今度は魔銃の方に視線を向け、試しにシリンダーの中に弾丸を装填し、引き金を引く。だが、風属性の魔石を取り外した状態では弾丸は発射されず、弾丸が射出される様子はない。
この魔銃はリボルバー式の拳銃と構造が似てはいるが、撃鉄の部分は存在せず、魔石の力を利用して弾丸を射出する構造になっている。勿論、この世界の人間であるレナは本物の拳銃の構造など知るはずがないが、魔銃の解析を行う事でどのような原理で弾丸が発射されているのかを調べる。
(なるほど、弾丸を打ち込むときは風属性の魔石の力で内部に風圧を送り込んで、このシリンダーとかいう容器の中に装填された弾丸を打ち込むのか。けど、速度の割には威力が弱いのは弾丸の方に原因があるのかもしれない)
レナは弾丸を持ち上げると異様に軽い事に気付き、指を叩いて中身が空洞である事を見抜く。どうやら風の力で押しだされるとき、軽量の方が吹き飛びやすいので弾丸が軽量化されているらしい。しかし、軽くなった分だけ威力が落ちてしまい、攻撃速度の割には威力が弱いのだろう。
魔銃から放たれる弾丸は風の力だけで押し出しているだけに過ぎず、理論を理解すれば本当に玩具のような武器であるが、もう少し工夫を加えれば強力な武器に変化しそうだった。
(風属性の魔石の場合は風圧、水属性の魔石なら水、火属性の魔石なら火を生み出す……だったら、土属性の魔石の場合はどうなるんだ?)
魔銃を握り締めたレナは机の引き出しの中から「地属性の魔石」を取り出す。こちらは以前にミスリル鉱石の回収のために大迷宮へ訪れた時、商人から購入した代物である。市中ではあまり見かけられず、手に入れるのに苦労した。
ちなみに一般的に人気が高いのは火属性と水属性の魔石であり、こちらの魔石は一般人もよく購入を行う。この世界では魔石を材料に火や水を生み出す道具が存在し、人々の生活の支えるために魔石は必要不可欠な物である。
しかし、地属性の魔石に関しては使い道が殆ど存在せず、せいぜい魔石を細かく砕く事で田畑の肥料に利用される程度しか使い道が存在しない。しかも頑丈な魔石を粉微塵に砕く労力を考えると、普通の肥料を利用した方が早いという理由で土属性の魔石は最も人気が低い。
(土属性の魔石を装着して、俺の付与魔法の強化して今まで以上に重力の強化を行えるかもしれない。もしも弾丸に付与した重力が強化されるとしたら……)
だが、地属性の魔法の本質が「重力」だと知っているレナは魔銃に魔石を装着させると、弾丸に事前に付与魔法を施してシリンダーに装填を行う。この状態で引き金を引いた場合はどうなるのか気になったレナは部屋の中で魔銃を構えようとした時、唐突に部屋の窓が割れる。
「何だっ!?」
まだ魔銃を発砲していないにも関わらずに唐突に割れた窓を見てレナは驚き、何事かと視線を向けると、割れた窓の向かい側の壁に矢が突き刺さっている事に気付く。どうやら何者かがレナの部屋の窓に矢を撃ち込んだらしい。
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