第130話 力士の称号
「どすこいっ!!」
「な、何だこのガキ!?」
「止まらねえっ!?」
「嘘だろ、おいっ!?」
突っ込んできたデブリに対して4人の下っ端は抑え込もうとしたが、あまりの彼の怪力によって逆に押し返され、全員がひっくり返されてしまう。圧倒的な力を見せつけたデブリは鼻息を鳴らすと、男達に掌底を食らわせる。
「突っ張り!!」
「ぎゃあっ!?」
「いでぇっ!?」
「ぐはぁっ!?」
「はぐぅっ!?」
「お、お前等!?何やってんだ、そんなガキ一人に……あいだぁっ!?」
「おおっ……力士の兄ちゃん、意外と強いんだな」
次々と顔面に掌底を叩き込まれた男達は倒れ込み、最後にカマセも殴り飛ばすとデブリの動きは止まり、ゆっくりと腕を下ろす。時間にしては10秒も経過しないうちに5人の大人を倒したデブリは満足そうに頷く。
「ふうっ……どうだ?これが力士の力だ!!」
「すご~い……」
「本当に一人で倒しちゃったよ」
「やるな、力士の兄ちゃん。力だけならうちの兄ちゃんと張り合えるんじゃないか?」
デブリの元にレナ達は駆けつけると、地面に気絶している5人組を見下ろし、彼等をどうするべきか悩む。普通に考えればこのまま警備兵に突き出すのが一番だろうが、気になる事があるとすれば以前に警備兵に捕まったはずのカマセがここにいるのかである。
レナは彼等の持ち物を漁ると、案の定というべきか人攫い用と思われる縄を所持しており、それを利用して全員の拘束を行うと気絶しているカマセの頬を叩く。
「デブリ君、こいつに気付けの一発をお願い」
「任せろ、だっしゃあっ!!」
「ぶほぉっ!?」
「あ、起きた……」
デブリが強烈な掌底を繰り出すと気絶していたカマセは目を覚まし、一体何が起きたのか理解できない風に首を見渡し、自分達を見下ろすレナ達の存在に気付く。
そして自分を気絶させたデブリの顔を見て悲鳴を上げて逃げようとしたが、縄で縛られているので逃げられない。
気絶している間に身体を拘束されている事に気付いたカマセは恐怖の表情を浮かべ、そんな彼にコネコはわざとらしくカマセが所持していた小杖を見せつける。
「おっさん、あんたまだこんな道具に頼ってんのか?ちゃんとした魔術師ならもっと良い杖を買った方が良いいと思うぞ?」
「う、うるせえっ!!このガキ、また俺の杖を……」
「立場が分かってないのかな?おじさん、これから自分がどうなるのか僕達の機嫌次第だって事を忘れないでよね」
「うっ……」
コネコに怒鳴りつけてきたカマセにミナは槍の刃先を向けると、彼はしおらしく縮こまり、そんなカマセに対してレナは質問を行う。
「確か、カマセと言いましたよね?どうして貴方、ここに居るんですか?警備兵に捕まって牢屋送りにされたはずじゃないんですか?」
「……脱走したんだよ。仲間が俺を助けてくれた?」
「えっ!?この弱っちい男達か?」
「そいつらじゃねえよ……俺は盗賊ギルドに所属している。だから、同じギルドの連中に助けてもらったんだよ」
「盗賊ギルドというと……裏街区に存在する?」
「そうさ、よく知っているな……言っておくが、俺に手を出したら盗賊ギルドの奴等が黙っていないぞ」
「うわ、情けない台詞だな……そんな脅しにあたし達がびびると思ってんの?」
「う、うるせえっ!!てめえらこそ理解しているのか!?盗賊ギルドを敵に回してこの王都で生きていけると思うなよ!!」
「笑わせないでいよ。盗賊を怖がっていたら冒険者なんてやってられないよ」
盗賊ギルドの名前を出してレナ達に脅しをかけようとしたカマセだが、年齢は若くともレナも冒険者としてこれまでに幾度も修羅場をくぐり抜けてきた。
今更ただの盗賊など恐れはせず、本題に入るためにカマセに単刀直入に自分たちを襲ってきた理由を問い質す。
「カマセ、どうして俺たちを狙った?誰に命令されて俺たちの尾行をしていた?」「へっ……そんな事、答えると思うか?」
「またきつい一発を貰いたいの?」
「どすこいっ!!」
「…………お、脅されても答えねえよ!!」
デブリが突っ張りの素振りを行うとカマセは少しの間だけ考えた素振りを行うが、結局は依頼人の情報は渡さない。だが、そんな彼に対してレナは依頼人の心当たりを告げる。
「どうせ依頼してきたのはカーネ商会でしょ?内容は……俺を誘拐するようにとか?」
「なっ!?」
「おっ、図星みたいだぞ兄ちゃん」
「やっぱりカーネ商会だったんだ……」
カーネ商会の名前を出すとカマセは目を見開き、その反応を見たレナ達は今回の彼等の行動がカーネ商会の策略だと理解する。大方、カーネ商会が自分達の商売敵であるダリル商会に協力するレナの存在を邪魔に思い、彼を誘拐するようにカマセを派遣したのだろう。
恐らくはカーネ商会はカマセが所属する盗賊ギルドに依頼を行い、レナを誘拐して連れてくるように指示を出した。あるいはレナの始末を頼んだ可能性が高い。大量のミスリル鉱石を確保出来るレナの存在は、これまで王都のミスリルの流通を独占していたカーネ商会にとっては邪魔者でしかなく、強硬手段に出たとしか考えられなかった。
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