第128話 アルトの推薦
「アルト王子様」
「アルトでいいよ、同級生だろう?敬語もいらないよ」
「じゃあ、アルト君と呼びます。アルト君は決闘に出場してほしいと言えばしてくれる?」
「決闘……ああ、魔法科の生徒との決闘か。悪いけど、それは難しいかな。僕が決闘に出場する場合、色々と面倒な事になると思う。僕が王子という立場上、魔法科の生徒が騒ぎ立てるかもしれない」
「え、なんでだよ?」
「なんでも何もあるか!!相手は王子様だぞ!?もしも怪我でもさせたらどうなる事か……」
「そう、このデブリ君のように僕が王子だと意識して気を遣う生徒が出てくるだろうね」
アルトは王子という立場上、この国では大切な存在である。そんな相手にもしも怪我をさせた場合、彼を取り巻く者達が黙っているはずがない。アルトとしてはこの学園に入学した以上は一生徒として扱ってほしいが、残念ながらそんな彼の願いはかなうことはない。
魔法学園に入学しようとアルトは第二王子という立場は変わらず、常に周囲の生徒は彼に気を遣う。中には王子というだけで敬われるアルトの存在を妬む人間もいるだろう。そんな彼が決闘の選手として参加した場合、魔法科の生徒は抗議するだろう。王子を相手に自分達が本気で戦えるはずがないと。
「今回の決闘の真意は学園長は魔法科と騎士科の生徒を戦わせて優劣を決めるのではなく、お互いの立場を実感させるために取り計らったと思う。だけど、僕が参加するとなると学園長の考えが上手くいかないと思うんだ」
「学園長の真意?それって……」
「その辺に関しては僕からは何も言えない。だけど、君たちに協力してくれそうな子なら一人だけ心当たりがあるよ」
「えっ!?本当ですか!?」
アルト王子は自分が出場出来ない代わりに決闘に参加してくれそうな人物を推薦する。その人間の名前はレナ達は聞きなれない生徒だった――
――放課後、授業を終えたレナ、ミナ、コネコ、デブリの4人は共に学園を後にすると、アルト王子が推薦してくれた人物の家に向かう。その人物はレナ達と同じく魔法学園の生徒ではあるが、家庭の事情で普段は滅多に学園に顔を出さないという。
アルト王子の情報によると、その生徒は毎日の様に大迷宮へ入り浸っているらしく、大迷宮で待ち伏せしていれば会えると考えられた。レナ達はアルト王子の言葉を信じて大迷宮に繋がる広場へ向かう。
「アルト王子の言っていた人が決闘に出てくれるといいね」
「話を聞く限りだと結構凄い子みたいだけど……そんな子が居たなんて全然知らなかったな」
「滅多に学園に顔を出さない奴なんだろ?なら知らなくても仕方ないんじゃねえの」
「大迷宮か……僕は行くのは初めてだな。どうなんだ?」
「結構、頻繁に行ってるよ」
雑談を行いながらレナ達は街道を歩いていると、不意にコネコが立ち止まり、猫耳のような癖っ毛をぴくぴくと動かして鋭い目つきで振り返る。そんな彼女の反応に疑問を抱いたデブリが問う。
「おい、どうしたんだ?急に立ち止まって……」
「しっ……さっきから誰かに尾行されてる。しかも、人数は一人や二人じゃない」
「何だって!?」
「だから静かにしろって!!声が大きい!!」
「コネコちゃんも大きいよ……」
コネコの言葉にデブリは慌てふためき、レナとミナも警戒心を高める。暗殺者であるコネコは普通の人間よりも感覚が鋭いので気のせいとは思えず、彼女が言うのならば尾行されているというのであれば疑う余地はない。
「正確な人数は分かる?」
「多分、4人か5人ぐらい……それに中には称号持ちの人間もいる」
「ど、どうしてそこまでわかるんだ?」
「尾行している奴等の中で気配がやたらと強い奴がいる。称号を持つ人間の気配は独特だからな……相当に厄介な奴だと思う」
「でも、どうして尾行されてるんだろう……私達、何もしてないよね?」
「いや……俺は心当たりがある」
レナは昼間に顔を合わせたカーネの事を思い出し、彼の商会の専属冒険者になる事を断った際、立ち去り際に垣間見たカーネの顔を思い出す。自分の提案を受け容れなかったレナに対してカーネは明らかに機嫌を損ねていた。
もしもカーネがレナを狙って人を雇い、彼を攫おうとしているのならば他の人間は巻き込めず、レナは3人に先に行くように促す。
「悪いけど、皆は先に行っててくれる?尾行している奴等はきっと俺が狙いだと思うから、何とかしてくる」
「何とかするって……何をする気だ?」
「大丈夫、ちょっと話をしてくるだけだよ」
レナは自分のカバンから袋を取り出し、用心のために闘拳と籠手を装着する。その様子を見てコネコとミナはお互いの顔を見て頷き、自分達も同行する事を告げた。
「兄ちゃん、あたし達も一緒に行くぜ」
「そうだよ、友達なら助け合わないとね!!」
「二人とも……分かった。けど、無理はしないでね」
「ええっ!?ちょ、ちょっと待て!!それだと僕だけが先に行く事になるだろ!?ああ、もう……分かったよ!!それなら僕も行くぞ!!」
二人の同行を承諾したレナに対して慌ててデブリは引き留め、仕方なく彼はため息を吐きながら自分も同行する事を宣言する。
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