第125話 魔法科と騎士科の対立

――学園長室を離れた後、レナは廊下を歩いていると天井の方から気配を感じて振り向くと、そこには自分に目掛けて落下するコネコの姿が存在した。



「兄ちゃん!!」

「うわっ!?コネコ!?何でここに!?」

「へへっ……兄ちゃんが気になって実は付いてきたんだ」



コネコはレナの背中に抱き着くと笑顔を浮かべ、そんな彼女に呆れた表情を浮かべながらもレナはコネコを下ろす。


何だかんだで一緒に暮らすようになってから二人は本当の兄妹のように仲が深まり、心臓に悪い登場の仕方をしてきたコネコに対してレナは困った表情を浮かべながらも頭を撫でて許す。



「気になって付いてきたという事は、もしかして学園長室の会話も聞いてたの?」

「まあね。暗殺者の聴覚なら扉に耳を押し当てるだけで何を話しているのかばっちり聞こえたぜ!!」

「そんな能力も持っていたのか……」



どうやら学園長室の会話を盗み聞きしていたらしく、コネコはレナの後に続きながら先ほどのカーネの話を尋ねる。



「なあなあ、どうして急にカーネのおっさんが兄ちゃんの所に現れたんだろうな?会長というぐらいだから偉い人間なんだろ?そういう奴等って他の人間を使って呼び出すんじゃないの?」

「いや、実は何度かカーネ商会の人から勧誘は受けてたんだよ。でも、毎回上手く誤魔化して断ってたんだけど、今回はカーネさんが学園長に用事があったみだいだからそのついでに俺を呼び出したんだと思う」

「何だ、ついでか……けど、やっぱり兄ちゃんはカーネ商会なんかに行かないんだよな」

「まあね、ダリルさんを裏切るような事はしたくないし……それにあんな卑怯な方法でダリルさんを嵌めようとした人間の所なんかに行かないよ」

「だよな~」



レナの言葉を聞いてコネコは安心した表情を浮かべ、もしもレナがカーネ商会の元へ向かうと言い出したらどうしようかと思ったが、きっぱりとレナが拒否の言葉を口にすると安堵する。


コネコの方もダリルに対しては色々と面倒を見て貰っているので恩を感じており、何よりもレナがカーネなんかに従わないという言葉に安心した。だが、気になる事があるとすればカーネがあれでレナを諦めるとは思えない事だった。



「兄ちゃん、あいつ兄ちゃんが帰った後に盗賊ギルドの連中をけしかけるみたいな事を呟いてたぜ……これからは気を付けた方がいいかも知れない」

「盗賊ギルドというと……確か、裏町区を支配する組織の事だっけ?」

「そうそう、盗賊ギルドの奴等はマジで危ないらしいぜ?あたしも噂しか聞いた事がないけど、依頼を受ければどんな事でもするとか……例えば、暗殺とか」

「そっか……なら、ダリルさんに相談しよう」



カーネ商会が盗賊ギルドと繋がっているという噂は耳にしており、コネコの言う通りにもしもカーネが盗賊ギルドを動かしてレナに危害を加える可能性がある以上、用心しなければならない。


その後、レナはコネコと雑談を行いがら歩いていると、不意に裏庭の方へ通りがかると、十数名の生徒が集まっている事に気付く。


授業中にも関わらずに裏庭に人が集まっている事に不思議に思った二人は近づくと、どうやら二人の生徒が激しく口論をしており、その様子を見に来た野次馬が集まっているらしい。



「何だと、もう一回言ってみろ!!僕たちを何だと思っている!?」

「ああ、何度でも言ってやるよ!!騎士科の生徒が魔法科の生徒に逆らうんじゃないっ!!ここは魔法学園だ、だからこそ魔法が扱える魔術師が優遇されるべきなんだ!!」



どうやらレナと同世代と思われる生徒2人が言い争っているらしく、その様子を周囲の生徒たちは困ったように見ていた。一体何を言い争っているのかとレナは疑問を抱くと、野次馬の中に見知った顔がいる事に気付く。



「ミナ?」

「あ、レナ君!!それにコネコちゃんも……二人も声が聞こえてここに来たの?」

「まあ、そんな感じかな……どういう状況?」

「えっと、僕もここに来たばかりでよく分からないんだけど……なんだか魔法科の生徒の態度が気に入らない騎士科の生徒が文句を言ってるみたいだよ」

「何だ何だ?喧嘩か?面白そうだな~」



ミナの言葉を聞いてコネコはレナの背中に抱き着き、二人の生徒の様子を伺う。言い争いを行う魔法科の生徒は貴族らしく、制服に豪勢な刺繍を施していた。ちなみにこの学園の学生服は改造が許可されており、家柄が裕福な生徒の場合は金を出して制服に刺繍など行う事は珍しくはない。


騎士科の生徒の方はレナも何度か話したことがある「デブリ」という少年であり、彼は「力士」と呼ばれる特別な称号を持ち、格闘家や剣闘士と同系統の職業の一種である。外見は太っているように見えるが、実は脂肪と筋肉を兼ね合わせた重量級の戦士であり、その腕力と防御力は計り知れない。



「このっ!!言わせておけば……僕達、騎士科の生徒がどれほどの苦労をしてこの魔法学園に入ったと思うんだ!!お前達、魔法科の生徒なんて簡単な検査を受けただけで入学した癖に!!」

「ふん!!お前等と僕等は出来が違うんだよ!!知ってるか?戦場で最も役立つのはお前等のような戦闘職の人間じゃなく、強力な魔法を扱える魔法職の人間なんだよ!!戦場では戦闘職の人間は僕達の盾役程度にしか役に立たない、つまりは捨て駒なんだよ!!」

「何ぃっ!?僕達を何だと思ってる!!お前等の方こそ、僕たちが守らなければ何も出来ない弱虫じゃないか!!」

「何だとっ!?上等だ、決闘するか!?」

「お辞めなさい!!一体、何の騒ぎですか!?」



裏庭にて喧嘩する二人の生徒の声を聞きつけたのか、やっと教師が現れて喧嘩の仲裁を行う。

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