第123話 勧誘

「あの……どうして学園長室にカーネさんが?外部から来た人は普通は応接室に通されるんじゃ……」

「何、この後にこの学園の学園長とも会う約束をしていてね。ちょっとばかり私の方が早く来たようなので、この際に君の用事も終わらせようと思ってさっきの彼に呼び出してきてもらったんだ」

「え、学園長もここに来るんですか?」

「まあ、それよりもだ。まずは私の話を聞いてくれないか?」



大魔導士が魔法学園へ訪れるという話にレナは驚くが、カーネにとってはそんな事はどうでもいいのか本題へ入る。彼がここへ訪れた目的の半分はレナに会うためであった。



「単刀直入に尋ねるが、レナ君はダリル商会の専属冒険者という話は本当かね?」

「え?ああ、一応は……」

「それは不味いね、君のような将来有望で優秀な冒険者があのような商会の元で専属契約を交わすというのは……」



現在のレナはダリル商会の元で世話になっており、表向きはダリル商会と契約を交わした冒険者として働いている。その事がカーネにとっては何かと不都合らしく、彼は少し眉をしかめながらレナに語り掛けた。



「レナ君、君は最近訪れたばかりで知らないのかもしれないが、本来はこの王都の全ての商会を取り仕切っているのはカーネ商会なのだよ。王都で商売を行う以上、全ての商会はカーネ商会の指示で動かなければならない。ところが、君の働いている商会は違う」

「はあっ……」

「部から訪れた新参者の癖にカーネ商会への勧誘を断り、それどころかカーネ商会に対抗するかのようにミスリルの取引を盛んに行っている。知っての通り、この王都では大量のミスリルを生産し、世界中へ輸出している。そのお陰でこの王都は経済を保っているといっても過言ではない」

「あの、すいません。結局、俺に何の用事なんですか?」



話が長くなってきたのでレナは率直に尋ねると、カーネは話を中断されて少々不機嫌そうな表情を浮かべた。


レナとしては自分が世話になっているダリルを陥れようとした張本人を前にして一刻も早くここから立ち去りたいと考えていた。



「ふむ、回りくどい話は止めろという事か。では、率直に言おう。ダリル商会との契約を切り、うちの商会の専属冒険者として働いてくれ。報酬はダリル商会の10倍は出そう。なんだったら、冒険者ギルドに掛け合って等級を昇格させても構わないぞ?」

「……それは引き抜き、という事ですか?」

「その通りだよ。現在、ダリル商会が流通させているミスリルを調達しているのは君のお陰である事は既に調査済みだ。どのような方法を使っているのか知らないが、君が大量のゴーレムを狩り、ミスリル鉱石を確保しているという情報は掴んでいる」



カーネの目つきが変わり、尊大な態度でレナにダリル商会を離れ、自分の商会で働くように促す。堂々と引き抜きを認めるカーネに対してレナは黙り込む。




――実はダリル商会が扱っているミスリルの素材のミスリル鉱石をレナが調達しているという話は既に噂で知れ渡っており、何度か同じような勧誘をレナは他の商会からも受けている。


ダリル商会は最近になって大量のミスリルを入手したという情報は既に知れ渡っており、これまでダリル商会を冷遇していた冒険者ギルドも鍛冶師たちも手の平を返して媚びへつらうようになった。それだけにミスリルは大きな価値を持ち、重要な品物である。


魔法金属のミスリルで構成された武器や道具は性能が高くて重宝されるため、それを求める人間は多い。そのお陰で一か月前までは廃業の危機に陥っていたダリル商会も現在では新しい屋敷を建設するほどの財力を得ていた。




だが、現在のダリル商会の収入源であるミスリルの調達に関しては実はレナが大迷宮へ挑み、地属性の付与魔法を利用してゴーレムの体内からミスリル鉱石を回収しているという情報を掴んだカーネは自ら魔法学園へ乗り込み、レナを呼び出す。



「あのような先の無い商会へ働くよりも、我がカーネ商会へ契約を結べば今以上の生活を約束しよう。聞くところによると、ダリル商会の元で君は世話になっているらしいが、危険な大迷宮へ挑まされ、苦労して持ち帰ったミスリル鉱石は全て奪われているにも関わらずに君は雑用の仕事までやらされているというではないかね?」

「えっと……まあ、そうですね」

「何と嘆かわしい……ミスリル鉱石を調達する貴重な人材を雑用代わりに扱うとは!!恩知らずにも程がある!!さあ、勇気をもってダリル商会と縁を切り、我が商会へ働くことを決意するんだ!!契約書の方は事前にここに用意してある!!」



大げさな態度を取りながらカーネは机の上にカーネ商会の専属冒険者として働く旨が記載された契約書を取り出し、レナに差しだす。


内容の方を確認するとダリル商会でレナが専属冒険者として受け取っている金額の丁度10倍程度の値段が記され、さらにカーネ商会以外の商会からの依頼を受け容れないという条件も記されていた。


契約期間は3年と記され、この契約書に署名すればレナは3年間はカーネ商会以外の商会とは契約を結ぶ事は出来ない。一応は契約書を全て読み取ったレナは頭を掻きながらどのように反応すればいいのか分からず、とりあえずはカーネに自分の意思を伝える。

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