第122話 カーネ商会の会長
――訓練を終えた後、レナ達は今度は座学の授業を受ける。最も座学に関してはそれぞれの職業ごとに教室が異なり、槍騎士であるミナは騎士職の教師の元で勉強を行う。
但し、希少職である暗殺者や付与魔術師のレナの場合は担当教師が存在せず、二人の場合は自由にどの職業の教師の授業も受けられる。
「兄ちゃん、今日は何処の教師の所に行くんだ?」
「う~ん……」
「ねえ、決まってないなら二人とも僕と一緒の授業を受けようよ」
レナ達は雑談を行いながら次の準備を行っている途中、教室の中に慌ただしく騎士職の授業を担当する教師が入り、レナの姿を発見して教師は声を掛けてきた。
「レナ君!!ここに居たのか、すぐに来てくれ!!」
「先生?どうしたんですか?」
「いいから早く来てくれ!!他の者はすぐに次の準備を行う様に!!」
「何だ何だ?兄ちゃん、何かやらかしたのか?」
教師の名指しの指名にコネコは面白そうにレナに顔を向けるが、当のレナ本人は特に教師に呼びつけられるような問題を起こした覚えはなく、不思議に思いながらも教室の外へ出る。
「二人は先に行ってて、用事を済ませたら俺も行くから」
「うん、分かった」
「…………」
レナの言葉にミナは頷き、コネコは何故か黙ったまま見送る。呼び出しに来た教師の後にレナは続き、一体何の用事なのかを尋ねた。
「何かあったんですか?」
「いいから、学園長室へ急ぐんだ!!詳しい話はそこでする!!」
「学園長室?」
魔法学園の学園長を務めるのはこの国の大魔導士を務める「マドウ」という老人だが、彼は本業の方が忙しく、滅多に学園には姿を現せない。レナも新入生の入学式の時に壇上に立つ彼を一度見かけただけで顔を合わせた事はない。
学園長室に呼び出しという事はマドウが自分を呼び出したのかと思ったが、それならそれでレナはどうしてマドウに呼び出される理由が分からない。特に彼とは接点はなく、そもそも一生徒を名指しで呼び出すなど気になる事ばかりだった。
「よし、ここだ。いいか、失礼の無いように対応するんだぞ?」
「はあっ……あの、学園長と会うんですか?」
「いや、違う。ある意味では学園長と同じぐらいに凄い人だがな……失礼します!!ご希望の生徒を連れてきました!!」
『おお、入りたまえ』
教師は緊張した面持ちでノックを行うと、扉の中から男性の声が響き、その声を聞いたレナは疑問を抱く。入学式の時に耳にした学園長の声音とは異なり、不思議に思いながらも教師と共に学園長へと入り込む。
――部屋の中に存在したのは年齢は40代前半ほどの中年男性であり、かなり肥え太っていた。だが、身長はかなり高く、2メートル近い。さらに両手には合成な装飾が施された指輪をいくつも装着していた。
学園長とは外見が全く異なる男性が待ち構えていた事にレナは疑問を抱くが、彼をここまで案内した教師は目の前の男性に媚びへつらうように頭を下げる。
「ほら、頭を下げるんだ!!この御方は我が魔法学園に多額の援助を行っているカーネ商会の会長、カーネさんだ!!」
「カーネ……会長?」
「ああ、良いよい。そういうのはいいから早くここに座りなさい」
カーネ商会の会長と紹介された男性は笑顔を浮かべながらソファに座り込み、自分の部屋でもないのに我が物顔でレナにも同じように対面のソファへ座るように促す。どうしてカーネ商会の会長が自分を呼び出したのかとレナは疑問を抱きながらも言われるがままに座り込む。
「では会長、失礼します!!何かありましたらベルを鳴らしてお呼び下さい」
「うむ、君の顔はよく覚えておこう。では行きたまえ」
「あ、ありがとうございます!!」
教師はカーネの言葉を聞いて即座に立去り、その態度にレナは呆れた表情を浮かべると、カーネはわざとらしくため息を吐き出す。
「やっとうるさい男が去って君と話せるようになったね。では、改めて自己紹介しよう。私がこの王都の商業を取り仕切っているカーネ商会の会長、カーネだ」
「……魔法学園騎士科所属、レナと申します」
「はっはっはっ、君の事はよく知っているよ。君の噂は私の元へも届いているからね」
カーネの自己紹介を聞いてレナも一応は名乗ると、カーネは朗らかな笑みを浮かべながらレナと向き合う。流石に会長を務めるだけあって普通の人間とは異なる雰囲気を持ち、言葉遣いは優しいが、その目元はまるでレナを見定めているかのように鋭い。
自分を見つめてくるカーネに対してレナは嫌悪感を感じながらも表面上は冷静さを装い、いったい彼が自分に何の用事があって呼び出したのかを考える。
(この人がダリルさんの商会を潰そうとしたカーネ商会の会長か……どうして急に俺を呼び出したんだ?)
レナはカーネの目的が分からず、わざわざ魔法学園に訪れてレナに会いに来たという時点で嫌な予感を覚えた。もしかしたらダリル商会に関連する用事だとした場合、迂闊に返答を誤ると後々に面倒な事態になりそうだった。
カーネに動揺を悟られないようにレナは無表情を保ち、まずはカーネが学園に訪れた理由を尋ねる前に、どうして学園長室で彼と応対する事になったのかを問う。
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