第120話 ムノーの後悔……そして魔法学園へ

「その少年を調べてみた所、どういう事か彼は騎士科の生徒ではあるが「付与魔術師」の称号を持つらしい。何度か確認し、儂自身も試験官を行ったゴロウから直接話を聞いたが、これはどういう事か分かるか?」

「ふ、付与魔術師ですと!?まさか、あの小僧が……」

「やはり、心当たりがあったか」



ムノーは自分の失言に咄嗟に口を抑えるが、その様子を見て大魔導士の老人は更に瞳を鋭くさせ、ある資料を取り出す。



「これはお前が複数名の魔法学園の入学希望者の推薦を外した子供達の資料だ。どうやらお主は魔法学園の学園長でもある儂の許可も得ず、勝手な判断で我々の方から勧誘した生徒の数名の入学の推薦を取り消したようだな」

「そ、それは……」

「言い訳は聞かぬ!!すでにお前が不正を行ったという証拠は掴んでいる!!」

「ぐうっ……」



まさか自分の行動が知られているとは思わなかったムノーは顔色を青くしてその場で伏せる。どうにか大魔導士の怒りを抑えるため、彼は必死に取り繕う。



「ですが、どうかお話をお聞きください!!その者達は適性検査の段階で魔法の属性があまりにも少なく、先に告げた少年に至っては地属性しか取り柄のない魔術師なのです!!そんな物を我が魔法学園に入学した所で大成するはずがありません!!」

「その判断を決めるのは貴様ではない!!独断で将来有望な子供達を追い払うとは……適性検査で分かるのはあくまでも扱える属性のみだ。その人間がどの程度の魔法を極められるのかまでは分からん。属性が少ないから魔術師としては出来損ないという考え方は止めろと儂は何度言った!?貴様はその年齢に達するまでに儂が何度注意した!?」

「ううっ……」



大魔導士は決して属性が多く扱える魔術師が優秀だとは考えておらず、自分勝手な理由で生徒の入学の推薦を取り消したムノーを叱りつける。彼の行動は明らかに度が過ぎており、見逃すことなど出来なかった。


ムノーの行いの中で最も許せないのは自分の許可も得ずにこちらが側が招集した魔法学園の入学希望者を勝手な判断で追い出した事であり、その彼の後始末のために大魔導士は既に入学を拒否された人間から話を伺っている事を告げる。



「言っておくが、お前が推薦を取り消そうとした子供達は既に儂の方で入学を認めておる。しかもお前は属性が少ないにも関わらず、合格させている生徒もいるそうだな。そして、その生徒の親が貴族でお前に賄賂を渡していたという報告も上がっているぞ」

「えっ!?」



ムノーは大魔導士の言葉に顔を上げ、慌てて何か言おうとしたが、事実なだけに何も言い返せずに口をパクパクと動かす事しか出来ない。その態度を見て大魔導士は深いため息を吐き出し、話を戻す。



「その件については後で話すとして、今は件の少年の事だ。ゴロウに問い合わせた所、どうやらその少年は地属性の付与魔法しか扱えないが、最近になって大迷宮で挑み、無数のロックゴーレムを倒してミスリル鉱石を手に入れたそうだ」

「そんな馬鹿な!?たかが付与魔術師がロックゴーレムを倒せる程の魔法を扱えるなど有り得ません!!」

「だが、事実だ。彼に同行した2名の生徒からも言質を取り、実際に回収したというミスリル鉱石の確認も行っている」

「あ、有り得ん……何かに間違いでは?」

「お前は儂の言葉を疑う気か?」



自分が推薦を取り消した少年がまさかロックゴーレムを倒せる程の実力を所有していたという事実にムノーは信じられず、砲撃魔法も扱えない付与魔術師が一流の魔術師でも手こずるロックゴーレムを倒したなど信じられるはずがない。それでもレナがロックゴーレムを撃破して大量のミスリル鉱石をダリル商会に委託したという事実は覆られず、大魔導士は危うくレナを推薦の取り消して彼を追放しようとしたムノーに怒りを抱く。



「お前が信じようと信じまいと彼がロックゴーレムを倒せる程の優秀な魔術師である事に変わりはない。それほど大器をお前は誤った判断で魔法学園の入学を阻止しようとしたな」

「だ、大魔導士!!どうか私の話を……」

「聞かぬ!!危うく、お前のせいで優秀な魔術師を失う所だった!!此度の件以外にもお前の悪行の証拠は届いておる、本日を以て貴様は魔導士の位の剥奪を言い渡す!!もう貴様はヒトノ国の魔術師ですらない!!」

「そんな!?」



何十年も務めてやっと手に入れた魔導士の位を失う事にムノーは絶望し、どうにか大魔導士に取り繕うとしたが、即座に扉の外から兵士が現れてムノーを連行した。



「ムノー!!貴様はもう魔導士ではない、我々と共に来てもらうぞ!!」

「貴様に貸し与えていた装備も没収する!!さあ、こちらに来い!!」

「お待ちください大魔導士!!どうか、どうか話をっ――!?」



ムノーは必死に抵抗するが、杖を取り上げられた時点で魔法は扱えず、彼はそのまま外へ連れ出される。その様子を見届けた大魔導士はため息を吐き出し、昔はあのような男ではなかったと嘆く。



「付与魔術師、か。どんな子供なのか気になるのう」



大魔導士にして魔法学園の学園長でもある老人は資料に視線を向け、魔法科への入学を取り消されたにも関わらずに自力で騎士科の生徒へ入学を果たしたという生徒に強い興味を抱く――







――それからさらに数日後、魔法学園の騎士科の制服を着込んだレナ、コネコ、ミナの3人はこれから自分が通う事になる魔法学園の門の前で立ち尽くす。周囲に魔法学園の生徒が集まっており、中には小さな子供存在した。



「ここが魔法学園か……ちょっと変わった建物だね」

「今日から僕達が通う場所なんだね」

「へへっ……ちょっとわくわくするな」



レナは遂に自分達が魔法学園の生徒として入学する事を実感し、今日から騎士科の生徒として通う事を自覚する。数日程前、ゴロウが訪れて魔法科の転科の話がレナに届いたが、本来の予定通りにレナは「騎士科」への入学を希望した。



(魔法科へ入ったところで俺以外に付与魔術師の称号を持つ人はいないみたいだし……それなら騎士科で身体を鍛え乍ら今まで通りに魔法を研究すればいい。それに……この二人と離れるのも嫌だしな)



魔法科への入学ではなく、騎士科への入学を決めたレナはコネコとミナに手を伸ばす。その行動に二人は不思議そうな表情を浮かべるが、すぐに口元に笑みを浮かべて掌を握りなおす。



「ミナ、コネコ……今日から一緒に頑張ろう」

「うん、そうだね。ずっと一緒に頑張ろうね!!」

「こういうのはちょっと気恥ずかしいけど……でも、兄ちゃんと姉ちゃんとなら何処でも一緒に付いて行くよ」



ミナはしっかりと握りなおし、コネコも恥ずかしそうに握り返すと、3人は手を繋いだまま魔法学園の門を潜り抜けた――







――この後に「魔拳士」「槍将」「韋駄天」と呼ばれる異名を持つ3人の英雄が生まれる事になるが、今の時点では誰も彼等の存在が誕生する事を予測できなかった。

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