第119話 鍛冶師の謝罪

――ダリル商会が大量のミスリル鉱石を入手したという噂は瞬く間に広まり、商会には連日に鉱石を求める者達が訪れるようになった。


訪れた者の中には工業区の小髭族の鍛冶師の姿も多数存在し、彼等はこれまでの非礼を謝罪してどうかミスリル鉱石の輸入を頼み込む。



「頼む!!どうか鉱石を譲ってくれ!!今月のノルマが厳しいんだ!!」

「カーネ商会の奴等に頼まれてあんた等の仕事は引き受けないようにしてたが、もう奴等とは縁を切る!!だからどうかここへ雇ってくれ!!」

「この間の事で怒っているのならどうか幾らでも殴ってくれ!!だから、ほんの少しでもいいから内にも鉱石を輸入してくれないか!?」

「お、落ち着いてくれよ!!とりあえず、店の前で土下座は止めてくれ!!」



大勢の小髭族の鍛冶師が連日のようにダリル商会へ乗り込み、ミスリル鉱石を求める。彼等はカーネ商会と契約をしていたが、最近では冒険者が持ち込まむミスリル鉱石が減った事で仕事も満足に行えず、カーネ商会が課しているノルマを達成する事も難しかった。


カーネ商会と契約を結んだ鍛冶屋は多大な支援を受けられると思われがちだが、実際の所は彼等は月に一定量の加工済みのミスリルをカーネ商会に提供するように指示されており、彼等が作り出したミスリルはカーネ商会を通して冒険者ギルドやヒトノ国へ横流しされていた。


カーネ商会はここまで大規模な商会へ成長したのはミスリルの恩恵のお陰であり、彼等はミスリルを利用して更なる発展のために契約している鍛冶師たちにミスリルの提供を義務付ける。しかし、最近ではミスリル鉱石が得られていた鉱山が激減し、更に大迷宮でロックゴーレムに挑んでミスリル鉱石を入手しようとする冒険者の数も減ったため、鍛冶師たちは窮地に立たされていた。



『ミスリルが手に入らないのは俺達のせいじゃない!!いくら俺達が腕が良くても素材がないとミスリルなんて加工出来るはずがないのにカーネ商会の奴等、毎月無理難題を押し付けやがって……!!』

『決めた!!俺はもう金輪際カーネ商会の依頼は引き受けない!!契約だって解除してやる!!』

『最近だと、ダリル商会というのが大量のミスリル鉱石を確保したらしい。俺はそこで雇い入れて貰うぞ!!』



工業区の鍛冶師の殆どはカーネ商会と契約を結んでいたが、ダリル商会が大量のミスリル鉱石を確保し、更にそのミスリル鉱石を入手した冒険者を抱えているという話を聞きつけた鍛冶師たちはダリルに頼み込んで自分達を雇い入れるように願う。



「参ったな……今の俺の商会ではこれだけの人数なんて雇えないぞ」

「別にいいんじゃねえのか?俺も何時までもここに居るわけにはいかないからな、それにこいつらを雇い入れた方がミスリルの加工も捗るのは間違いないんだ」



ダリルは大勢の小髭族の鍛冶師を見て困り果てるが、そんな彼に同じく小髭族のゴイルが口出しする。現在のダリル商会のミスリルの加工は彼一人が行っているが、そもそもダリルはイチノ街で店を経営しているため、いつまでもここで働くわけにはいかなかった。


ゴイルとしてもダリルがカーネ商会に因縁を付けられている事を聞いていたため、このまま立ち去るのも後味が悪いため、殺到してきた鍛冶師たちに彼に協力するように促す。



「おい、お前等!!ここで働くなら今すぐにカーネ商会と契約を切ってこい!!二重契約なんて許さねえからな!!カーネ商会とはもう手を組まないという奴だけ来い!!」

「お、おいゴイル……」

「おおっ!!」

「分かった、すぐに契約を解除してくる!!」



ゴイルの言葉に駆けつけてきた鍛冶師の半数が立ち上がり、早速契約解除のために動く。残りの者達はカーネ商会と縁を切る事に迷いが生じたのか結局は何も言わずに立ち去る。その様子を見てゴイルはダリルの肩を叩く。



「これからお前さんは大変だな。小髭族は頑固者が多いからな……上手く奴等を扱えよ」

「勘弁してくれよ……」



ダリルは深々とため息を吐き出し、同時にこれで本格的にカーネ商会と敵対する事を意識して気を引き締め治す――





――その一方でヒトノ国の魔導士である「ムノー」は自分の上司であり、同時に魔導士の頂点に立つ「大魔導士」の呼び出しを受けていた。


大魔導士の外見は人間ではあるが小髭族のように長い顎髭を生やし、白髪の髪の毛を地面にまで垂らす程に長かった。年齢は既に100才を超えているが、未だに現役の魔術師として国を支え続ける功臣として国王からの信頼も厚い老人だった。



「ムノーよ……儂がここへお前を呼び出した理由が分かるか?」

「い、いえ……あの、私は何か粗相をしたのでしょうか?」



流石のムノーも自分の上司である大魔導士からの呼び出しを受けて冷や汗を流し、何十年もの付き合いではあるがムノーにとっては目の前に立つ老人は畏怖の対象だった。


普段は傍若無人な態度を取るムノーではあるが、大魔導士を相手にする時は親に叱りつけられる小さな子供のように委縮してしまう。



「うむ、実は妙な噂を耳にしてな。最近、大迷宮で大量のロックゴーレムの討伐を果たしたという少年の噂を聞きつけたのだ。真偽を確かめた所、なんと彼は我が魔法学園の騎士科の生徒として入学が決まっているらしいではないか」

「は、はい?」



突拍子もない大魔導士の言葉にムノーは驚愕し、この状況で世間話を行うつもりなのかと思ったが、大魔導士は鋭い視線でムノーを睨みつけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る