第115話 サブマスターとの交渉

――翌日の夕方、冒険者ギルドの方でサブマスターの元に慌てた様子の受付嬢が駆け込む。彼女は昨日にレナを白銀級の冒険者である事を疑った受付嬢であり、そんな彼女はサブマスターのルインの元へ顔を青くさせて駆け込む。



「る、ルイン様!!大変です!!」

「おい、どうしたんだ?それとギルドに居る間はサブマスターと呼べ。他の誰かに見つかったらどうする?」

「あ、も、申し訳ありません……」



ルインは駆け込んできた受付嬢のイミヤという女性を抱きしめて落ち着かせ、二人は周囲には内緒で関係を築いていた。


最もルインは既に結婚しているので不倫になってしまうが、彼は複数人の女性と関係を持ち、イミヤもその一人にしか過ぎない。


業務中にも関わらずに自分の元へやってきたイミヤに対し、ルインは表面上は優しく接しながらも他の者に気付かれたらどうするつもりだと内心苛立つが、まずは彼女を落ち着かせて事情を尋ねる。



「一体どうしたんだ?何か揉め事か?」

「そ、それが……また、あの冒険者が来たんです!!子供の癖に生意気な子が!!」

「あの冒険者……ああ、あいつか」



イミヤの話を聞いてルインの脳裏にレナの顔が思い浮かび、男にしておくには勿体ない顔つきだったのでよく覚えていたが、今日もこちらへ訪れたという話に疑問を抱く。


すぐに彼は昨日に冒険者達から彼がミスリル鉱石を大迷宮から持ち帰ってきたという報告を思い出し、笑みを浮かべた。



(なるほど、大方ミスリル鉱石を入手した物はいいが、俺の指図で工場区の鍛冶師たちが仕事を引き受けない事に文句を言いに来たんだな。ガキが……そんな事を訴えても相手にすると思うのか?)



レナが訪れた理由が冒険者ギルドに対する苦情だと判断したルインは自分が応対するのも面倒のため、抱きしめたまま離れないイミヤに命じる。



「あんな子供、適当にあしらって帰らせればいいだろう?ほら、仕事に戻るんだ」

「そ、それがそういうわけにもいかないんです……あの子供、とんでもない物を持ち込んできて」

「とんでもない物?まさか、ミスリル鉱石でも買い取ってくれるように言ってきたのか?」



イミヤの言葉にルインは首を傾げ、何処の鍛冶屋も加工をしてくれないのでミスリル鉱石の売却を決めて冒険者ギルドへ訪れたのかと予想する。


確かに冒険者ギルドの方もミスリルが不足しているのでミスリル鉱石の高額な買い取りは行っているが、イミヤとしてはレナ達が持ち込んだミスリル鉱石を買い取るつもりはない。そんな事をすればカーネ商会に目を付けられてしまう。



(なるほど、大方契約上の罰金を支払うために金を稼ぎにやって来たのか。確か奴等の手持ちは20キロのミスリルと昨日に入手したミスリル鉱石、これだけを売り払えば確かに罰金程度の金は稼げるだろう。だが、カーネ商会と約束した手前、そんな物を買い取れるか)



ルインはダリル商会を潰そうとしているカーネ商会の会長と親密な間柄のため、彼の願いを聞き入れて冒険者ギルドの冒険者達を利用してダリル商会へ嫌がらせ行為を繰り返していた。もしもこの状況下でダリル商会に金を支払うような行動を行えばカーネ商会を裏切る事になり、ルインの立場が危うい。


この王都の冒険者ギルドもカーネ商会から支援を受けており、ここでカーネ商会を敵に回す行為をすればギルドの維持も難しい。それどころかルインは解雇どころか下手をしたら暗殺者を仕向けられる可能性もあった。



(小僧が、調子に乗るなよ。よし、俺直々に追い払ってやるか)



不安な表情のまま離れないイミヤを引き剥がし、やはりルインは自分で追い払うために一階の受付口で待ち構えているであろうレナ達の元へ向かう――





――数分後、ルインは顔を青くさせて受付の前で待ち構えるレナ達と向き合う。一体何があったのか、レナ達全員が泥だらけで汚れてはいたが、3人の傍には大きな木箱がいくつも積まれていた。中身は青色に光り輝く鉱石が大量に存在し、それを他の冒険者達が驚いた表情で見ていた。



「ええっと……もう一度、尋ねてもいいでしょうか?」

「ミスリル鉱石を買い取ってください。これだけの量があればミスリルを50キロは加工出来るはずです。ちなみにゴイルという鍛冶師からの証明書も有ります。買い取り金額は金貨200枚でお願いします」

「金貨200枚!?」

「ミスリルが50キロ分のミスリル鉱石だと……!?」



大量のミスリル鉱石を差し出してくるレナに対し、ルインは内心では歯を食いしばりながらもレナが提出した証明書を受け取る。


何処の鍛冶師に書いて貰ったのかは不明だが、この証明書はミスリル鉱石から得られる加工後のミスリルの量を記されており、正真正銘50キロと記された証明書を目にしてルインは冷や汗が止まらない。



(このガキ……!!どうやってこれだけのミスリル鉱石を手に入れた!?)



昨日の時点では冒険者の話によるとレナ達が手に入れたミスリル鉱石はせいぜい10キロ程度のミスリルを加工出来る程度の量だと聞いていたが、今回持ち込まれた量はその5倍の量だった。

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