第107話 帰還

「兄ちゃん、それどうやって使うんだ?」

「えっと、確か強い光に当てた状態で呪文を唱えれば魔法陣が現れて帰れるはずだけど……」



転移石を使用するためにレナは空を見上げ、転移石を掲げると太陽の光を浴びた事で魔法陣のような文様が表面に浮き上がり、呪文を唱えた。



帰還ワープ!!」

「おおっ!?」

「わあっ!?」

『プギィッ!?』



呪文を告げた瞬間、レナ達の足元に5メートル程の大きさの魔法陣が出現し、数秒後に魔法陣が光り輝いてこの世界へ転移した時のようにレナ達の身体が光の柱へと飲み込まれてやがて完全に消え去ってしまう。


その光景を目撃したボアの大群は突進を仕掛けるが、魔法陣に辿り着いた頃には既にレナ達の姿は存在せず、大量のボアが速度を落とせずに岩山の岩壁に衝突してしまう――





――転移石を使用したレナ達は体感的に数秒程視界が真っ白に染まるが、やがて意識を取り戻すと自分達が何時の間にか街の広場に戻っている事に気付く。足元には茶色の魔法陣が点滅しているため、どうやら無事に戻ってこれたらしい。



「戻った……のかな?」

「凄い……まさか本当に一瞬で戻れたね」

「うへぇっ……魔法って何でもありだな」

「おお、坊主共。もう戻って来たのか?収穫は……うおっ!?な、何だそれ!?」



魔法陣の上に立ち尽くすレナ達に先ほどの露天商が声を掛けると、彼はレナが片腕で抱えているミスリル鉱石に気付き、目を見開く。



「お、おい!!お前等、その持っているのはミスリル鉱石か!?」

「何だって!?」

「ミスリルだと!?」

「え、あの……」



露天商の言葉に魔法陣に乗り込もうとした冒険者だけではなく、兵士達も驚愕の表情を浮かべてレナの元へ視線を向け、大勢の人間がレナ達の元へ駆け寄り、彼等が所有しているミスリル鉱石を覗き込む。



「し、信じられん!!これは間違いなく、本物のミスリル鉱石だ!!」

「おい、何処でこれを拾ってきたんだ!?」

「いや、それよりもそれを俺に打ってくれ!!金は払う!!金貨30枚でどうだ!?」

「馬鹿野郎!!そんなはした金で売るわけないだろ!!俺は金貨50枚だ!!」

「頼む、ひとかけらでもいいから分けてくれ!!この通りだ!!」

「あ、あの……」

「何だよ、近づくんじゃねえよ!?これはあたし達のだぞ!?」



血眼になってミスリル鉱石を求めようとしてくる冒険者達にレナ達は戸惑い、中には既に金が入った小袋を差し出してミスリル鉱石を買い取ろうとする者も居た。彼等の反応から察するにミスリル鉱石がどれだけの価値があるのかを嫌でも思い知らされる


だが、このミスリル鉱石はダリルに渡す約束をしているため、なんと言われようとこのミスリル鉱石は渡せない事をレナは説明した。



「すいません、このミスリル鉱石は他の人に渡す約束をしているんです。俺達はダリル商会のダリルさんに依頼されてミスリル鉱石を回収してきました」

「ダリル商会だと!?」

「ああ、一年ぐらい前から王都で商売を始めた商会か……」

「でも、あそこって潰れたんじゃないのか?確か、カーネ商会に目を付けられたんじゃ……」

「おい、お前達!!そこで居座られると魔法陣が使えないだろう!!早くそこを退け!!」



魔法陣の前に集まった人だかりに兵士が怒鳴り散らすと、レナ達を除く全員が渋々とした表情で引き下がり、その様子を見た兵士はため息を吐きながらもレナ達に声を掛ける。



「君達もいつまでもここにいないで早く行った方が良い。それと、ミスリル鉱石は隠しておいた方が良いぞ。今の王都は昔よりも鉱石の価値が高くなったからな……」

「あ、すいません!!すぐに出ていきます!!」

「兄ちゃん、早く行こうぜ!!他の奴等が追ってくる前に!!」

「そうだね、僕も急いだ方が良いと思う」

「待ってくれ!!頼む、うちにもミスリル鉱石を分けてくれ!!」

「金ならある!!どうか少しだけでも……いや、早っ!?」

「何だあの子供達!?めっちゃ足が早いじゃねえかっ!!」



兵士の言葉に従ってレナはミスリル鉱石を抱えたまま広場を離れ、コネコとミナと共にダリルが待つ商会の建物へ向かう。だが、その様子を見て居た他の冒険者達が慌てて追いかけてきた。


追いかけられるのも面倒なのでレナ達は全速力で駆け出すと冒険者達は追いつく事が出来ず、そのまま距離を離す。


全ての職業の中でも速度に秀でた「暗殺者」身体能力は高い「槍騎士」付与魔法の力で重力を操作して加速できる「付与魔術師」のレナに追いつける人間は早々おらず、3人は冒険者達を振り切ってダリルの元へ向かう。



「……ダリル商会だと?まさか、あいつら……ルインさんに伝えるか?」

「ああ、そうした方が良いだろうな……ダリル商会の奴等め、一体何処のギルドの冒険者と契約しやがった?」

「あのガキ達はどうやら魔法学園の生徒のようだが……制服を着ていない辺り、最近入った奴等なのか?」

「そんな事はどうでもいい!!俺はルインさんの所へ行くぞ!!」



しかし、その3人の様子を見ていた冒険者の一部が急いで冒険者ギルドの方へ向かい、レナ達が大迷宮から生還してミスリル鉱石を回収した事をサブマスターのルインに伝えるために駆け出す。

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