第106話 ミスリル鉱石の回収

「大人しく、しろ!!」

「ゴァアッ……!?」



レナはロックゴーレムの岩石を操作して地面へと伏せさせると、動けないように拘束する。付与魔法の効果が発動している間はロックゴーレムは逆らう事も出来ず、どれほどの怪力を誇ろうと逆らう事は出来ない。


地属性の付与魔法は重力操作だけではなく、土、砂、岩石の類を変形・操作出来る性質を利用してロックゴーレムを拘束したレナは地上へと降り立つ。掌を離しても付与魔法の効果は解除されず、一度物体に付与させた魔法は効果時間を終えるまではレナの自由に操作出来た。



(やっぱり、ロックゴーレムの場合は普通の生物じゃないから俺の付与魔法で操作する事が出来るのか……)



無機物以外の物体、つまりは生物に付与魔法を試した場合、原理は不明だが魔法の効果は発揮しない事はレナも承知済みである。付与魔法の効果を施せるのはあくまでも生物以外の物体に限られ、人間に使用したとしても効果は発揮しない。


但し、身に着けている衣服などの装備品に関しては別の為、相手の装備に付与魔法を施す事は出来る。最もレナの場合は自分の装備品以外に付与魔法を施す事は少なく、これまでに人間相手に付与魔法を仕掛けた事は殆どない。



(こいつも生物のように見えるけど、肉体を構成している岩石は無機物だから操れるのか……ん?でも、胸元の部分に妙な感じがする。もしかして、これがミスリル鉱石なのか?)



ロックゴーレムの肉体を操作していると、胸元の部分に違和感を覚えたレナはロックゴーレムを仰向けの状態にさせると、その上に乗り込んで胸元の様子を確認する。



「ゴオオオッ……!!」

「うるさい、静かにしろ!!」

「ゴウッ!?」



鳴き声を漏らすロックゴーレムに対してレナは顎の部分を操作して口を閉じさせると、胸元に視線を向けてこの奥に何かが存在する事に気付く。レナはロックゴーレムの両腕に視線を向け、胸元から降り立つとロックゴーレムの両腕を操作して胸元へ攻撃を行う。


ロックゴーレムは自らの両腕で胸元を叩きつけ、やがて亀裂を生まれた。そのままレナはロックゴーレム自身に自分の両腕を何度も胸板を叩かせ、やがて拳に罅割れが生じる頃には胸元に大きな亀裂が誕生した。



「これは……やっぱり!!」



亀裂の隙間から青色の光が零れている事に気付いたレナは歓喜の声を上げ、亀裂の隙間を広げるために何度もロックゴーレムの両腕を操作させ、胸元を強制的に叩き割る。



「出てこい!!」

「ッ――!!」



ロックゴーレムの胸元が完全に砕け散ると、内部に収まっていた青色の光を放つ鉱石が露わとなり、その直後にロックゴーレムの目元の部分の赤色の光が消え去る。完全に事切れたのかレナの付与魔法が解除されてもロックゴーレムは動き出す様子もなく、胸元にレナが乗り込んでも反応を示さない。


完全に動かなくなったロックゴーレムを確認すると、レナは額の汗を拭う。流石にロックゴーレムほどの巨体を付与魔法で操作するのはきつかったが、ある意味では今まで戦ってきた魔物の中で最も相性が良かった敵と言えた。



「死んだ?という事はやっぱりこれが……」

「兄ちゃん!!これ、どうなってんだ!?」

「大丈夫なの!?」



コネコとミナも駆けつけ、どうやらミナの方も調子を取り戻したらしく、二人は胸元が破壊されたロックゴーレムの死骸を確認して驚愕した。



「こ、これ……兄ちゃんが一人でやったのか?凄い……!!」

「し、信じられない……こんな化物を一人で倒すなんて」

「相性が良かっただけだよ。それより、この大きな鉱石を運び出すのを手伝ってよ」



単独でロックゴーレムの討伐を果たしたレナにコネコとミナは戸惑うが、そんな二人の反応を気にせずにレナはロックゴーレムの露出した鉱石を回収するために手を伸ばす。普通の人間ならば岩石から鉱石を掘り出すのに苦労するだろうが、レナの場合はツルハシに付与魔法を施し、一気に鉱石を掘り出す。


ツルハシを何度か叩き込むと無事に「ミスリル鉱石」と呼ばれる青色の鉱石を取り出す事に成功し、この鉱石を加工すればミスリルと呼ばれる魔法金属が出来上がる。


しかもレナ達が倒したロックゴーレムが大きいかったか、内部に存在した鉱石も予想以上の質量が大きく、どうにかレナが付与魔法の力で鉱石を持ち上げる事に成功する。



「やった!!けど……思っていたより随分と重いな。だけど、これぐらいの量があればきっと大丈夫かな」

「兄ちゃん、よくそんなの持てるな……凄い怪力だ」

「レナ君、意外と力持ちなんだね」

「いや、これは重力を操作しているだけで……」



小さな岩程の大きさを誇るミスリルを持ち上げたレナにコネコとミナは感心した表情を浮かべるが、レナは付与魔法を利用して鉱石の重量を軽減させている事を説明しようとしたが、不意に遠くの方からボアと思われる鳴き声が響いてきた。



――プギィイイイッ!!



どうやら仲間がはぐれた事に気付いた先ほどのボアの大群が引き返して来たらしく、この状況で鉢合わせするのは面倒な事になりそうだと判断したレナは魔法腕輪に装着した「転移石」に視線を向け、脱出の準備を行う。

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