第108話 冒険者ギルド「赤虎」

――どうにか冒険者を振り切り、ダリルが待つ商会の屋敷(宿屋)に辿り着いたレナ達は出入口の扉の前で怒鳴り声をあげる冒険者の集団を発見する。全員が強面で右腕に「赤色の虎」の刺青を刻み、冒険者の証である「銀色」のバッジを見に着けていた。



「ダリルさんよ、居留守なんて使ってんじゃねえよ!!ここに居るのは分かってるんだ!!」

「俺達は仕事の進行状況を確認しに来たんだよ!!」

「とっととここを開けろ!!ミスリルの準備は出来たのか!?」



まるで冒険者というよりも金融の取り立てのような態度で扉を叩く冒険者の集団に対し、レナは眉を顰めてコネコとミナも彼等の横暴な態度に不満を抱く。



「何だよ、あいつら?」

「あれがもしかしてダリルさんに依頼した冒険者ギルドの人達なのかな?」

「腕に虎の刺青を入れている……もしかして、あの赤虎の冒険者なのか?」



過去にレナはイチノ街で暮らしていた頃に自分の師であるバルから冒険者ギルドの中には自分達の存在を示すため、所属した冒険者に刺青を入れるように指示するギルドも存在する事を教わっていた。


基本的には現在の時代では刺青を掘るように促す冒険者ギルドの数も減ったが、今尚も加入した冒険者全員に刺青を掘るように強制する過激な冒険者ギルドが残っているという。


その冒険者ギルドの名前は「赤虎」ヒトノ国の中でも大手の冒険者ギルドであり、所属する冒険者の中には白銀級と金級が3人、黄金級が1人、他にも多数の銀級冒険者が存在するという。赤虎の冒険者ギルドは王都から少し離れた都市を本拠地としており、どうやら状況的にダリル商会に依頼を頼んだのは赤虎らしい。



「ダリルさんよ、分かってるのか?期日までに用意出来なければ警備兵に報告して、あんたの財産は全部没収させてっ貰うぜ!!」

「こんな古ぼけた建物の権利書を売却したって払いきれない額だからな!!覚悟しとけよ!!」

「夜逃げにしようなんて考えるなよ、俺達は血の果てまで追っていくぜ!!」



冒険者というよりは質の悪い取り立てのような発言を行う冒険者の集団にレナは怒りを抱き、そもそもダリルを嵌めたのは自分達だろうと思ったレナは大声で声を掛けた。



「ダリルさん、戻ってきました!!貴方に依頼されたミスリル鉱石の回収は済みましたよ!!」

「何だと!?」

「ミスリル鉱石だと……!?」

「誰だお前等!!」



レナの言葉に扉の前で怒鳴りつけていた冒険者の集団は戸惑い、後方を振り返ると大きな鉱石を抱えたレナの姿を見て仰天とする。やがて扉の方から慌ただしい音が鳴り響き、頭に何故か鍋を被ったダリルが飛び出してきた。


どうやらレナ達を信じて待っていたようだが、赤蛇の冒険者が乗り込もうとしてきたので出るに出られずに玄関で待っていたようだが、レナ達の声を聞いて慌てて飛び出してきたらしい。大迷宮から無事にレナ達が戻ってきたことにダリルは喜ぶ。



「レナ!!お前等、無事だったのか!?心配させやがって!!」

「はい、全員生きてます」

「それよりも見ろよおっちゃん!!ほら、これだけの鉱石があれば十分だろ?」

「お、おおっ……本当に持ってきてくれたのか!!」



ダリルの前にレナはミスリル鉱石を下ろすと、彼は感動した表情を浮かべて鉱石を触れ、これだけの大きさならば当初の目的である10キロ分のミスリルを加工する事が出来る。ダリルは涙を流しながら鉱石へ抱き着き、そしてしたり顔で赤虎の冒険者集団へ振り返って鉱石を見せつけた。


こうなると立場が一気に悪くなったのは赤蛇の冒険者達であり、彼等はダリルが期日までにミスリルを用意できるはずがないと思い込んでいたが、そのミスリルの原材料であるミスリル鉱石を見せつけられれば嫌でも顔色は悪くなる。



「赤虎の冒険者さんよ、これを見ろ!!この子たちがやり遂げてくれた成果だ!!この大きなミスリル鉱石が見えるか?これであんたらの仕事は達成するぞ!!」

『…………』



赤虎の冒険者達は信じられない表情でミスリル鉱石へ視線を向け、これほど大きなミスリル鉱石は見た事がなく、同時に自分達の立場が悪くなった事に気づいて、先ほどまでの態度はどうしたのか慌てふためく。



「おい、何か言う事はないのか!?連日のように嫌がらせしやがった癖に、あんたらが依頼したミスリルを用意したら黙り込みやがって!!」

「い、いや……」

「嫌がらせなんて、俺達は別に……」

「嫌がらせだろうが!!言っておくが、期日にお前等の所の引き取りの使者が訪れたらお前等の迷惑行為も報告しておくからな!!御宅のギルドの冒険者は仕事を真っ当にやり遂げた商会を陥れるつもりなのかってな!!」

「ま、待ってくれ!!俺達は上から命令されただけで……」

「馬鹿、止めろ!!」

「……命令?」



ダリルの言葉を聞いて冒険者の1人が何事かを口走らせようとしたが他の冒険者が止め、その態度が気になったレナは赤虎の冒険者達に尋ねる。



「まさか今までの嫌がらせは冒険者ギルド側の命令なんですか?仕事を依頼した相手に嫌がらせをしてミスリルを用意させず、高額な罰金を支払わせようとしてたんですか?」

「う、うるさい!!」

「人聞きの悪い事を言うな!!」

「ちっ……ダリルさん、今日の所は引き返しますよ。だけどな、期日までにしっかりミスリルを用意して貰いますよ。そんな加工前の鉱石だけを渡されても俺達は納得しませんからね!!」



レナの言葉が図星だったのか、赤虎の冒険者達は捨て台詞を残して立ち去り、その様子を見たダリルは安堵した表情で自分の頭に被っていた鍋を外す。

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