第104話 一人じゃない

「行くぞぉっ!!戦技、辻切り!!」」

「ゴアッ……!?」



岩壁を文字通りに駆け下りたコネコは両手の短剣を振り翳し、ロックゴーレムの頭部に跳躍して刃を放つ。彼女の刃はロックゴーレムの目元の窪みを切り裂く。


暗殺者や盗賊のみが扱える「辻切り」と呼ばれる戦技は不意打ちに特化した戦技であり、ロックゴーレムは攻撃を受けるまで自分が攻撃されるという事を認識出来ず、反撃も回避も出来なかった。


コネコに続けてレナとミナも続き、二人は落下するのと同時に構え、各々の最大の一撃を繰り出す。レナは闘拳に二回目の付与魔法を施し、ミナは槍騎士の戦技を放つ。



二重強化ダブル!!」

「刺突!!」

「ゴオオッ!?」



レナの威力を倍増させた闘拳がロックゴーレムの頭頂部に衝突し、ミナの槍は額の部分へと突き刺さる。


全身が頑丈が岩石の外殻に覆われているロックゴーレムではあるが、3人の攻撃を受けて頭部に亀裂が走ると、体勢を崩して尻もちを着いてしまう。



「ウゴォッ……!?」

「よっしゃ……って、落ちるぅっ!?」

「おっと……反発」

「着地!!」



コネコは飛び込んだまでは良かったが、着地の事は考えていなかったのか慌てふためき、仕方なくレナは彼女を右腕で抱き上げると左手で「反発」を発動させて着地の衝撃を抑え、ミナの方はロックゴーレムに攻撃を仕掛けた時に落下の速度を落としていたので何事もなく着地を行う。


奇襲は成功したが、ロックゴーレムを倒すまでには至らず、3人の目の前には尻もちをついたロックゴーレムが頭部に腕を伸ばして傷跡を確かめる。


ロックゴーレムには痛覚が存在しないのか、あるいは外が泡の岩石の外殻を傷つけるだけでは効果が薄いのか、ロックゴーレムは顔面に罅割れが入りながらもレナ達に向けて怒りを露わにして右腕を振り下ろす。



「ゴオオオオッ!!」

「危ないっ!?」

「大丈夫、反発!!」



ロックゴーレムの振り下ろされた右腕に対してレナは左手に魔力を集中させ、正面から迫りくる岩石の右腕を重力の衝撃波で弾き返す。ロックゴーレムは右腕を弾かれた事で背中から倒れ込み、悲鳴をあげる。



「ゴアアッ……!?」

「ふうっ……」

「す、凄いな兄ちゃん!!」

「本当に凄い……!!」



ロックゴーレムの攻撃を弾き返したレナにコネコとミナは驚愕するが、レナとしては跳ね返す事が精いっぱいで反撃には扱えそうにない。


現に弾かれたロックゴーレムの右腕は負傷した様子はなく、それどころか完全に逆鱗に触れたのかロックゴーレムは起き上がると今度は左腕を振り払う。



「ゴオオッ!!」

「また来たぞ兄ちゃん!?」

「くっ……反発!!」



連続して反発を使用する事でロックゴーレムの攻撃を弾き返す事に成功するが、今度は魔力が足りなかったのか左腕を止める程度で吹き飛ばす事は出来ず、その隙を逃さずにロックゴーレムは左足を振り翳して地面ごと抉り込みながら蹴り上げようとした。



「ウゴォッ!!」

「危ない!!」

「やべっ!?」

「うわっ!?」



迫りくるロックゴーレムの右足に対してコネコとミナは咄嗟にレナの身体を掴んで跳躍すると、3人が先ほどまで存在した場所の地面が抉り取られ、岩山にロックゴーレムの足がめり込む。あまりの威力に岩壁は砕け、岩山に亀裂が走る。


単純な力はボアや赤毛熊を遥かに上回り、もしも直撃していたら死は免れない。改めてレナは自分が相手をしているのは今まで戦った魔物の中でも一番の強さを誇る事に気づき、冷や汗が止まらない。



「あ、危なかった……ありがとう、二人とも……!?」

「うっ……!?」

「姉ちゃん!?大丈夫か!?」



レナは自分を救ってくれたミナとコネコに感謝の言葉を掛けようとしたが、ミナの方はロックゴーレムが蹴り上げた際に吹き飛んできた岩の残骸が右肩に衝突したらしい。


ミナの服の袖が破れて血が滲み出ているのを確認したレナは、すぐに自分のカバンから回復薬を取り出し、彼女の治療を行おうとした。



「動かないで!!すぐに治すから……」

「つうっ……!?」

「大丈夫か姉ちゃん?」



レナは回復薬をミナの右肩にかけると、傷口が塞ぎ、血が洗い流されて元通りの皮膚に戻る。時間を巻き戻したかのように超速的な回復効果を促す。ミナは自分の右腕が動く事を確認すると、顔色を少し青くさせてレナに感謝する。



「あ、ありがとうレナ君……もう大丈夫だよ」

「大丈夫という顔には見えないけど……」

「傷は治ったんだろ?なんでそんなに苦しそうなんだ!?」

「あはは……回復薬は傷は治せても、流した血液までは再生出来ないからね」



ミナによると回復薬で治せるのはあくまでも怪我だけらしく、負傷した時に流した血液までは再生は不可能だという。


だから血を流し過ぎれば貧血を引き起こし、最悪の場合は死に至る。今のミナは軽い貧血状態に陥っているらしく、彼女は槍を杖代わりにしてどうにか立ち上がる。


治療の間にどうしてロックゴーレムが攻撃してなかったのかと不思議に思うと、どうやら先ほどの攻撃で岩山に足がめり込んだらしく、なんとも間抜けな格好のまま止まっていた。



「ゴオオッ……!?」

「……あいつ、足が岩山に挟まったみたいだぞ。今の内なら逃げる好機じゃないのか?」

「そうだね、ならここは一度隠れよう……あの岩の後ろに行こう」

「ご、ごめんね……少し休めば平気だから」



ロックゴーレムは岩山にめり込んだ右足が抜け出せないらしく、レナ達を無視して必死に引き抜こうとしていた。その間にレナ達は近くに存在する岩の陰に隠れる事にした。

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