第103話 ロックゴーレム

「あのボア、何してるんだろう?どんどん仲間とはぐれているのに……」

「あたし達に気付いたのかな?」

「ううん、きっとあれが狙いだよ」



山頂からレナ達はボアの様子を伺うと、ボアは鼻を鳴らしながら岩山に接近し、岩山の傍に生えているキノコを発見する。どうやら腹を減っていたらしく、ボアは口を開いてキノコを飲み込もうとした。ちなみにボアは雑食なのでなんでも食べるのだが、基本的には山菜やキノコなどを好む。


レナ達が見つけたボアが口を開いてキノコを飲み干そうとした瞬間、ボアの大きな鼻頭が岩壁に接触した。その直後、岩壁に人面のような窪みが発生し、目元の部分を青色に光り輝かせて岩壁から大きな腕が二つ出現する。



「ゴォオオオッ……!!」

「プギャアアアッ!?」

「な、何だっ!?」



唸り声のような音が岩壁から響き渡り、ボアを掴み上げた巨大な両腕から今度は胴体まで出現し、岩壁に「擬態」していた人型の魔物が姿を現した。


外見は岩石が人型の姿で動いているようにしか見えず、頭部には人間のような人面の窪みが存在し、ボアを持ち上げた「岩石の巨人」は力尽くでボアの肉体を引き千切る。



「ゴァアアアアッ!!」

「プギィッ……!?」



両腕で頭部と胴体を掴まれたボアは反抗する術もなく恐ろしい力で引き千切られ、二つに分かれた死体から大量の血液が噴き出す。岩石の巨人はボアの死骸を見つめると、自分の手元が血液で滲んだ事に気付き、表情を歪めてボアの死骸を放り投げる。


岩壁から出現した岩石の巨人の姿を見てレナ達は即座に自分達の標的である「ロックゴーレム」だと気づく。しかし、事前にダリルから聞いていた情報によれば基本的にはロックゴーレムの全長は2メートル、大きくても3メートル程度だと聞いていた。しかし、レナ達の視界に映し出されたロックゴーレムの全長は少なくとも5メートルは超えていた。



(あれがロックゴーレム……正に岩石の巨人だな)



ロックゴーレムはレナ達が登った岩山の岩壁に擬態していたらしく、近づいてきたボアに関しては獲物として攻撃を仕掛けたという感じではなく、自分の肉体に触れてきたので攻撃されたと判断して襲い掛かっているように見えた。


実際に殺害したボアの死骸に関してはロックゴーレムは特に気にする素振りもなく、餌として認識していないのか食らいつく様子もない。その様子を見て無残に殺されたボアに少し同情するが、レナ達は見つからないように気を付けながら様子を伺う。



(ダリルさんの話だとロックゴーレムは岩石や鉱石を喰らって生きているそうだから、こっちから仕掛けない限りは襲い掛かってこないとは言っていたけど……)



通常の魔物は他の生物を餌として認識するが、ロックゴーレムの場合は岩石や鉱石を糧として生きているため、他の魔物と違って刺激を与えない限りは襲ってこない。


しかし、レナ達の目的はロックゴーレムの内部に存在する鉱石のため、このまま逃がすわけにはいかない。ゴーレムが自分達の存在に気づいていない事をレナは確認すると、二人に話しかける。



「コネコ、ミナ……俺が仕掛けるから二人はここで待っていて」

「はあっ!?本気かよ兄ちゃん!?」

「しっ、声が大きい……気付かれちゃうよ」



レナの言葉にコネコは信じられない表情を浮かべるが、現在の状況を考えるとロックゴーレムを早々に見つけられた事は喜ばしく、しかも位置的にもレナ達には気づいていない。攻撃を仕掛けるのならば絶好の好機の為、レナは闘拳と籠手を身に着けて準備を整える。



「二人は危険だからここにいて……俺がどうにか仕留めるから」

「仕留めるって……あんなデカいのをどうやって?」

「大丈夫、俺には魔法があるから……」

「駄目だよ、仕掛けるなら僕も一緒に行くよ」



付与魔法を発動させて闘拳に紅色の魔力を纏わせたレナに対し、コネコは危険だから止めようとする反面、ミナの方は背中に抱えていた包みを剥がし、中から槍を取り出す。


試験の際にも見せた刃の部分が削岩機のドリルのように捻じれている刃が特徴的な槍をミナは握り締めると、レナに自分も加勢する事を伝える。


ミナの槍の腕前を見ていないレナは不安を覚え、いくら戦闘職の称号を持っているからと言っても岩石で構成された敵を相手に槍で挑むなど無謀に思えた。しかし、ミナの意思は戦う意思は固く、レナに注意した。



「攻撃を仕掛けるなら二人同時にだよ。二人で挑めばロックゴーレムの注意も分散するし、生き残れる可能性は高くなると思う」

「……けど、この高さから飛び降りる事になるんだよ?大丈夫なの?」

「槍騎士の称号を馬鹿にしないで欲しいな、これぐらいの高さだったら落ちたって死なないよ……多分」

「ちょ、本気かよ姉ちゃん……ああ、もう!!ならあたしも行く!!」



コネコも攻撃に加勢するつもりなのか腰に差していた短剣を二つ取り出し、地上の様子を伺う。ロックゴーレムは周囲を見渡す素振りを行うと、再び岩壁に擬態するつもりなのか岩山の方へ近づく。その様子を確認した3人は絶好の好機だと判断し、同時に山頂から飛び出す。



「今だ!!」

「行くよ!!」

「やったらぁっ!!」

『ゴオッ……!?』



自分の頭上から聞こえてきた3人の声にロックゴーレムは顔を上げると、そこには空中で闘拳と槍を振り翳すレナとミナ、さらに重力を無視するかのように岩壁を足場にして駆け出すコネコの姿を確認した。

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