第101話 ミスリルの入手方法

「転移石って……こんなに高いんですか!?」

「まあ、安売りは出来ないわな。こいつは手に入るのは大迷宮だけだし、そう簡単には手に入らないからな。だが、先輩として忠告してやるが、買って置いて損する代物じゃねえ。所持していれば何時でも帰還できると考えれば探索中も気が楽になるだろ?」

「兄ちゃん、こんな物必要ないだろ。これを使わなくても魔法陣が刻まれたとかいう台座を探し出して見つければいいだけだろ?」

「確かに「転移台」を見つけ出せれば帰る事は出来る。だが、その台座が存在する位置をお前等は知ってるのか?」

「えっ、それは……」



露天商の言葉によると大迷宮から脱出するためには「転移台」と呼ばれる魔法陣が刻まれた台座を大迷宮で見つけ出すか、あるいはこの転移石を使用するしかないらしい。大迷宮へ初めて挑むレナ達は当然ながらに帰還の台座の位置など知らず、すぐに帰れる保証はない。


一か八か転移台を自力で探し出すか、あるいは安全を優先して高い金額を支払って転移石を購入して挑むか、大半の冒険者達は後者を選ぶという。大迷宮という危険な場所に挑む時点で危険度が高く、さらに何処にあるのかも分からない転移台を探すなど無謀でしかない。



「大迷宮の地図とかは売ってないんですか?」

「生憎と俺は自分の分の地図しか持っていない。一応は冒険者ギルドが発行している地図はあるが、そっちの方も転移石と大して変わらない値段だぞ」

「何でそんなに高いんだよ!?」

「冒険者ギルドが発行している地図の方は生息する魔物や発掘出来る鉱石なんかが色々と記されてるからだよ。何も情報が記されていない方の地図なら格安だが、お前等ここからわざわざ冒険者ギルドに戻るつもりか?」

「それは面倒だな……それにあの受付嬢の対応だと素直に売ってくれるかも分からないし」

「第一に大迷宮の中には地図が通じない場所もあるんだよ。だから俺もお勧めはしないぜ」



先ほどの冒険者ギルドでのやり取りを思い出したレナは今から引き返すような真似はしたくはなく、仕方なく命には代えられないので転移石を購入する事にした。



「転移石を1つ下さい」

「毎度、新入りだから1割引きしてやるよ」

「あ、ありがとうおございます」



露天商に代金を支払うとレナは転移石を受け取り、自分の魔法腕輪へ嵌め込む。こちらの転移石は装備した所で魔法の力が上昇するわけではないようだが、無くさないように魔法腕輪に装着させて身に着けておく事にした。


本来の魔法腕輪は魔術師が魔法を発動させるときに必要な魔石を身に付けておくのだが、転移石などの魔石も取り付けて行動する物も多い。いざという時にいつでも使えるように装備しておくのは悪い事ではなく、レナ以外の人間も腕輪などに転移石を装着する冒険者も多かった。



「おい、おっちゃんの地図を少しでいいから見せてくれよ。あたし等は今から大迷宮の『荒野』へ向かうんだ。何処でミスリルが手に入るのかもついでに教えてくれよ」

「はっ!?荒野でミスリルだと!?お前等、自分が何を言っているのか分かってんのか!?」

「え、どういう意味ですか?」



コネコの言葉に露天商は驚きと呆れを入り混じった表情を浮かべ、その反応を不思議に思ったミナが尋ねると、露天商はため息を吐きながら答える。



「あのな……誰にそそのかされたのかは知らないが、荒野でミスリルを手に入れるとしたら「ロックゴーレム」を倒すしか方法はないんだぞ?」

「ロックゴーレム……」

「お前等、ロックゴーレムがどんな化物なのか知ってるのか?奴等の別名は「岩石の巨人」全身が岩石の外殻で覆われた人型の魔物だぞ」





――荒野の大迷宮では3種類の魔物しか存在せず、その内の1匹が「ロックゴーレム」と呼ばれる魔物だという。名前が長いのでゴーレムとだけ呼ばれる事も多い。


ロックゴーレムの殆どが外見が2メートルを超え、全身が人型を岩の塊のような生物であり、その頑丈な岩の外殻は破壊する事も困難でしかも怪力を誇る。





ロックゴーレムの危険度はレナが過去に討伐した事もあるボアを上回り、あの赤毛熊と同程度の存在として恐れられている。


だが、このロックゴーレムは体内に「ミスリル」という魔法金属の素材となる鉱石を体内に秘めているため、もしもロックゴーレムを倒す事が出来ればミスリルの鉱石を手に入れられるのだ。



「事前に話は聞いています。俺達の目的はロックゴーレムです」

「馬鹿野郎!!お前等みたいなガキ3人が勝てる相手じゃねえ!!ロックゴーレムに挑むとしたら魔術師を連れてこい!!」



レナの言葉を聞いて本気で心配するように露天商は怒鳴り付け、ロックゴーレムの危険性を伝えようとしたが、そんな彼をレナは宥める。



「大丈夫です。俺は魔術師ですから」

「え、あっ……そうなのか?杖も何も持ってないから勘違いしちまったよ。悪かったな急に怒鳴って……」



露天商はレナが魔術師だと知るとあっさりと落ち着き、魔術師が同行しているのであればロックゴーレムでも対応出来ると考えたのだろう。


しかし、彼が語る「魔術師」とは「砲撃魔術師」の事を意味しているのだろうが、レナの場合は「付与魔術師」だが、一から説明する暇はないのでレナは最後の質問を行う。



「ロックゴーレムの体内の何処の部分にミスリルの鉱石が存在するんですか?」

「そうだな……個体差は存在するが、だいたいは頭か胸元の部分に鉱石が埋め込まれているはずだ。ロックゴーレムの岩石の外殻は茶色だが、ミスリルの鉱石は全体が青く光り輝いているはずだ」

「そうですか……色々と教えてくれありがとうございました」

「おう、また来てくれよ」



何だかんだで親切に教えてくれた露天商に礼を告げるとレナ達はお互いに頷き、全ての準備を整えると「荒野」へ繋がる茶色の魔法陣の元に赴き、水晶の台座の前に待機しているローブを纏った老人に話しかける。

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