第99話 大迷宮から生き残る方法

「……おい、ガキ共。この列に並ぶ意味を分かってんのか?お前らみたいな子供が来るようなところじゃねえんだよ」

「え?いや、あの……」



列にレナ達が並ぶと前に立っていた男性冒険者が訝し気な表情を浮かべて振り返り、列から離れるように指示を出す。しかし、3人が身に着けているバッジに視線を向けると納得したように頷く。



「ああ、何だまた魔法学園の所の生徒さんか。悪いな、そんな恰好をしているから勘違いしちまったよ」

「いえ……」

「……本当にこのバッジで大迷宮に入れるんだな」

「みたいだね」



バッジを確認しただけで魔法学園の生徒だと見抜かれ、この際に他の生徒がどの程度の割合で大迷宮へ訪れるのかをレナは尋ねた。



「あの、俺たち以外の生徒をよく見かけたりしますか?」

「そうだな、俺は毎日ここへ訪れるが、魔法学園の生徒は毎日何人か見かけているよ。最もお前さん達のような騎士科の生徒は滅多に来ないがな」

「という事は魔法科の生徒はよく来るんですか?」

「ああ、最近は兵士を同行させて大迷宮へ挑む生徒さんも多いな」

「兵士を?」

「貴重な魔術師の称号を持つ生徒を失わないために魔法科の生徒には必ず目付け役の兵士が同行するんだよ。魔術師は一人で戦えないからな」

「あはは……」



男性冒険者の言葉に魔術師でありながらずっと一人で戦い続けてきたレナは苦笑いを浮かべ、自分達の番が訪れるまでの間、色々と尋ねる事にした。相手の男性も待ち時間は暇なのか、素直に答えてくれる。


最初の態度で柄の悪い男性かと思ったが、意外と話してみると気さくに色々と情報を教えてくれる人物だと判明し、最初に声をかけた時もレナ達を心配した上での発言だったらしい。



「実は俺達は大迷宮へ挑むのは初めてなんですけど、大迷宮を生き残るために気を付けない事とかありますか?」

「そうだな、他の奴等が言うには生き残りたければ深追いはしない事、ある程度まで進んだら引き返す方が得策らしい。調子に乗って進み過ぎた奴等は痛い目に遭うからな。それと荷物は必要最低限に抑えておいた方が良い。動きにくい程の大荷物を抱えていたら逆に危険に陥るからな。最後に一番重要なのは協力チームワークだ。仲間同士でお互いを補いならが進む、この3つが大迷宮を生き残る大原則だ」

「他の奴等?」



男性冒険者の言い方が気になったレナは今更ながらに冒険者の恰好を見ると、随分と大荷物を所有している事を知る。


自分で生き残るためには必要最低限の荷物を運べと言っておきながら明らかに矛盾した格好だが、男性冒険者はすぐに説明を行う。



「おっと、俺の恰好は気にするな。そもそも俺の目的は大迷宮へ潜る事じゃねえ、ここで商売を行うためさ」

「商売?おっちゃん、冒険者じゃねえの?」

「へへへ……別に冒険者が商人の真似事をしちゃ駄目だという決まりはないさ。おっと、次は俺の番だな」



話し込んでいる間に列が進み、男性冒険者が先に受付を終えた後、彼だけは魔法陣の前には移動せず、広間の隅の方に移動する。その行動にレナ達は疑問を抱くが、特に兵士が彼の行為を咎める様子もない。


男性冒険者の行為が気になりながらもレナ達の番を迎え、兵士の元で受付を行う。相手が子供という事で対応した兵士は戸惑いの表情を浮かべた。



「君達は……冒険者か?いや、それにしては幼過ぎるな。子供が来るようなところじゃない、早く帰りなさい」

「あの、これを見せれば入れると聞いたんですけど……」

「えっ!?こ、これは魔法学園の……失礼しました!!」

「おお、本当にこれを見せるだけで通れるんだな」



兵士がレナ達の恰好を見て訝しむが、3人がバッジを見せると慌てて態度を改め、中へ通す。慌てて広間に待機していた他の兵士が赴き、無礼を詫びる。



「いや、本当に申し訳ない!!まさか魔法学園の生徒さんだったとは……基本的にここへ訪れる生徒さんは制服を身に着けているから気付かなくてね」

「はあ……あの、今日は俺たち以外に生徒は来てますか?」

「いや、今日は君達が初めてだよ。というか、今は学生さんは訓練中のはずだが……」

「あ、僕達はさっき試験を受かったばっかりなんです」

「なるほど、そういう事か……ん?という事は大迷宮へ挑むのは初めてかい?」

「初めてではありますけど、俺もこの子も冒険者です」

「へへんっ」



レナがコネコの肩を掴んで自分達が冒険者である事を示すと、兵士は納得したように頷き、魔法学園の生徒に選ばれるぐらいの実力者ならば問題ないと判断したのか改めて説明を行う。


先ほどの男性冒険者の言う通りに本当に魔法学園の生徒ならば子供であろうと大迷宮に挑むことが出来るらしく、逆に言えば魔法学園の生徒がそれほど特別な存在だと思い知らされた。



「現在解放されている大迷宮の空間(エリア)は3つある。まずは緑色の魔法陣から転移すれば広大な草原へ転移する。茶色の魔法陣は荒野へ、灰色の魔法陣に関しては煉瓦で構成された迷宮へ飛ばされるよ」

「転移……という事は別の場所へ移動するのか?」

「正確には別の世界へ飛ばされると言った表現が正しいかな……伝承によれば大迷宮の世界はここは異なる世界へ飛ばされるらしい。だから大迷宮で迷い込んだら二度と元の世界へ戻る事は出来ないよ」

「こ、怖いですね」

「大丈夫さ、帰還の方法はいくつか存在する。まず一つ目は大迷宮内の内部にはこちらの世界へ転移するための台座が存在する。それを利用すればここへ帰還する事が出来るよ。ほら、言っている傍から誰かが戻って来たようだよ」



兵士は茶色の魔法陣が光り輝いている事に気付き、レナ達も視線を向けると先ほど冒険者集団が飲み込まれた光の柱が誕生し、今度は誰も存在しなかった魔法陣の中から複数人の冒険者が出現した。

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