第98話 大迷宮

――サブマスターのルインの言葉通りにレナ達はダリルの元へ戻り、準備を整えると王都の中央街へ向かう。その途中、冒険者や傭兵らしき姿をした格好の人間をよく見かけるようになった。街並みも武器屋、防具屋などの建物や露天商も見かけ、街の中で最も活気に満ちていた。


街道を歩きながら王都へ来たばかりのレナとコネコは自分達が暮らしていた街よりも圧倒的に人が多い事を感じ取り、恐らくはヒトノ国の中で最も人口が多い都市だろう。



「ここが王都の中央街か……確か、王都は5つの苦に分かれているんだっけ?」

「うん、そうだね。確か北東区、北西区、南東区、南西区、そして私達が歩いているここが中央区の区画になるね」

「北東、北西……面倒くさいな、どうせなら東西南北に分かれていた方が分かりやすそうなのに」

「あはは……まあ、外から来た人だとそう思うのは仕方ないよね」



ヒトノ国の王都は東西南北に区画が分けらているわけではなく、北東、北西、南東、南西、最後に中央の5つの区画に分けられている。


ちなみに各区画には別名が存在し、例えば裏稼業の人間が多い南東区は「裏街区」と呼ばれているように他の区画も別名が存在する。勿論、正式名称ではないので王都の民衆の間にしか伝わっていない。



「北東区は一般人の人達が住んでいるから「一般区」北西区はヒトノ国の貴族や大商人の屋敷がたくさんあるから「富豪区」二人も知っている南東区は危ない人達が支配しているから「裏街区」南西区は小髭族が経営する鍛冶屋がいっぱい並んでいるから「工場区」と呼ばれているらしいよ。王都へ来る度に叔父さんから教えて貰ったんだ」

「へえ、なら今歩いているここも中央街というも名前も正式名称じゃないの?」

「うん、そうだよ」

「ミナの姉ちゃんは王都に詳しいんだな……あれ、じゃあ王城は何処の区画にあるんだ?」

「王城は丁度北西区と北東区の中間に存在するよ。ほら、あそこに見えるでしょ?」



銀色に光り輝く王城は中央街からも確認する事が出来るらしく、全体が銀色に光り輝く城の光景を見てレナは最初は神々しさを感じたが、今は大量の光に反射して眩しくてよく見えなかった。



「ん?なんだあれ!?」

「どうした兄ちゃん……うわ、なんだよあれ!?」

「どうかした……わあっ!?なにあれ!?」



レナが驚きの声を上げるとミナとコネコは彼の視線の先を確認すると、同じ反応をしてしまう。しかし、3人が驚くのも無理はなく、全員の視線の先には驚くべき光景が広がっていた。




――3人の視界には大きな広間が存在し、その広間の煉瓦製の床に大きな魔法陣が描かれていた。それぞれの大きさは10メートルを超え、色合いは「緑色」「茶色」「灰色」の三色に分かれていた。魔法陣の前には数十名の兵士が待機しており、駐屯所らしき建物も存在した。




広間の周囲には近寄れないように鉄柵が設けられ、出入口は南側しか存在せず、大勢の人間が行列を為していた。


恰好から確認する限り、殆どの人間が冒険者らしく、レナ達は行列の様子を伺うと丁度良く列の先頭に並んでいた冒険者の集団と兵士が会話を行う。



「冒険者集団だな?では代表リーダーが所属ギルドと階級を答えろ」

「所属ギルドはこの王都だ。階級は銀級だ」

「バッジの確認を行う……本物だな、挑戦料として銀貨3枚を支払え」

「ちっ、また値上げしたのかよ……ほらよ」

「……よし、全員分あるな。では水晶板()を渡す、絶対に無くすなよ?」



5人組の冒険者の代表が兵士に渋々と人数分の銀貨を支払うと兵士は中へ通す。この時に兵士は冒険者にそれぞれ「水晶」で構成された小さな板のような物を差しだす。それを見たレナは不思議に思い、魔道具の一種かと考える。


兵士から水晶板という5人組は手前に存在する緑色の魔法陣の前に移動すると、全員が陣内に入って魔法陣の前で待機する人物に顔を向ける。こちらは兵士ではないのか魔術師のようなローブを纏った老人であり、代表の男が話しかけた。



「準備出来たぞ。発動させろ」

「……武運を祈る」



老人は代表の男の言葉に頷くと、魔法陣の存在する台座にはめ込まれている緑色のような水晶玉に触れ、ある言葉を発した。




転移テレポート




――言葉を言い終えた瞬間、水晶玉が輝くと同時に魔法陣が発行し、陣内に立っていた冒険者達を光の柱が飲み込む。


その様子を鉄柵の間から確認していたレナ達は目がくらみ、視力が戻った時には魔法陣の上に存在した冒険者達の姿は消えていた。


一部始終を見届けたレナ達はこの広間が「大迷宮」と呼ばれる空間に繋がる場所である事を理解し、一応はダリルやルインから事情を伺っていたが、本当に建造物の中に存在するのではなく、街の広場から大迷宮に転移出来るという事実に戸惑う。



「本当に消えちゃった……今の人達は大迷宮へ移動したのかな?」

「多分、だけど……」

「うへぇっ……人間が消えるなんて初めて見たよ。あれ、でもあいつらどうやって戻るんだ?」

「コネコ、ちゃんとダリルさんの話を聞いてなかったでしょ……その辺は後でまた説明するから、とりあえず列に並ぼう」



レナ達は鉄柵から離れると自分達も行列に並ぶために向かい、念のためにレナは騎士科の生徒の証であるバッジを見に着け、白銀級冒険者のバッジも用意しておく。


現在は資格は剥奪されているので冒険者を名乗る事は許されないが、一応は念のために兵士に質問された時のために自分が元々は白銀級冒険者である事を示すために懐にしまっておく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る