第97話 サブマスターの忠告

「貴方は確か……」

「やあ、試験の時は挨拶出来なかったね。僕はこの冒険者ギルドのサブマスターを務めるルインだ。うちの受付嬢が失礼な態度を取って本当に申し訳ない」

「さ、サブマスター!!私は……」

「いいから君は黙ってるんだ。下がりなさい」

「は、はい……」



サブマスターを名乗るルインという男は受付嬢を睨みつけると、先ほどまでの態度は一変して受付嬢は暗い表情を浮かべて離席すると、代わりにルインがレナ達の対応を行う。



「すまないね、彼女はどうも外部から訪れた冒険者には厳しくてね……それで、君達は大迷宮へ挑みたいそうだね」

「はい、でも正式な冒険者ではなければ許可証を発行出来ないと言われたんですが……」

「ふむ、確かにその通りだ。大迷宮へ入る事が許されているのは冒険者とヒトノ国側の関係者のみだ。一般人の立ち入りは禁止されている」

「そこをどうにかならないのかよおっさん……いや、お兄さん」

「別に僕に気を遣う必要はないよ。世間的にはもう若いとは言えない年齢だからね」



先ほどの受付嬢と比べれば話を聞いてくれると判断したのかコネコはルインの呼び方を言い直すが、そんな彼女の態度を見てルインは朗らかな笑顔を浮かべる。


先ほどまで対応していた受付嬢とは違い、ルインは相手が子供だからと言って態度を変えるような真似はせず、あくまでもレナの事を冒険者として認めた上で対応を行ってくれた。やっと話がまともに通じる人が現れたとレナは内心安心する。



「君達なら大迷宮への許可証の発行が出来るかもしれない」

「本当ですか!?」

「でも、さっきの女の人は出来ないって……」

「確かにね。だけど、君達の場合は別だよ。何しろ魔法学園の生徒になるのが決まっているからね」

「どういう意味ですか?」

「その前に君達のバッジを見せてくれるかい?試験に合格した後に受けとったバッジを出してくれ」



ルインの言葉にレナ達は不思議に思うと、ルインはレナ達が所持している魔法学園の生徒の証であるバッジを取り出すと、ルインは納得したように頷く。



「うん、問題ないね。君達はもう許可証を発行する必要はないよ。このバッジを見せれば大迷宮への挑戦が認められるはずさ」

「えっ!?それ、本当ですか?」

「ああ、最近になって決まった事だから知っている人間は少ないけど、実は魔法学園に通う生徒は無条件で大迷宮へ挑戦する事を許可されてるんだ」

「そうなんですか?」

「僕も詳しい内容は教えられていないけど、何でも魔法学園の生徒は今後は実戦方式の訓練が中心になるらしいから、訓練の内容によっては生徒同士で組んで大迷宮へ挑む場合もあるらしいんだよ。実際にもう在学中の生徒の数名は大迷宮で訓練を受けているらしいね」

「そうなんですか?でも、大迷宮は危険な場所じゃないんですか?」

「その通りだね。だけど、魔法学園の生徒の才能を伸ばすためには時には危険を伴う訓練も行わないといけない。いくら安全な場所で技術を磨こうと実戦で役立たせなければ意味はない、それが今の魔法学園の学園長の考えらしくてね。今現在では魔法学園の生徒なら大迷宮へ挑戦する事を許可されているんだ」

「知らなかった……ゴロウ試験官も教えてくれればよかったのに」

「じゃあ、わざわざ戻ってくる必要なかったね」

「何だよ……拍子抜けするな」



衝撃の事実を知ったレナ達は、それならばわざわざ冒険者ギルドへ引き返す必要がなかったと考えてしまうが、ルインはそんな彼等に注意を行う。



「ゴロウ試験官が教えなかったのは君達を危険な目に遭わせないためさ。大迷宮は本当に危険な場所なんだ、本来なら君達のような子供が立ち入っていい場所じゃない。どんな事情があるのか知らないけど、君達の実力ではあの場所は危険過ぎる。考え直した方が良いよ」

「……覚悟の上です。それに大迷宮がどんな場所であるのかは教わっています」

「そうか……なら、僕から言えることは何もない。大迷宮に挑むというのなら「中央街」に存在する広場を目指すんだ」

「広間、ですか?建物の中とかではなく?」

「ああ、もしも本当に挑むというのなら入念な準備を済ませてから挑む事を勧めるよ」



レナの返答を聞いたサブマスターはため息を吐き出し、最後に忠告を行うと席を立つ。大迷宮の場所を知ったレナ達は準備を整えろという言葉に従い、ダリルの元へ一度戻る事にした。







冒険者ギルドからレナ達が立ち去った後、サブマスターのルインは窓から去っていく3人の姿を見送り、本当に彼等が大迷宮へ挑むつもりなのかと考える。



「身の程知らずのガキ共が……大迷宮を甘く見やがって」



ルインは先ほどまでの優し気な表情を一変させ、醜悪な表情を浮かべると笑い声を抑える。そんな彼の背後に数人の男性が現れ、ルインに話しかける。



「ルインさん、ダリル商会の監視役からの報告です。やはりダリルの資金はもう底を尽きかけているそうです。もう冒険者を雇う余裕もないとか……」

「だろうな、それで知り合いのガキの冒険者に自分の運命を託したというのか……愚かな男だ」

「全くですね。これで奴もお終いです……それにしてもリキナン商会も怖い奴ですね。新参者を潰すためだけに俺たちだけじゃなく、他の街の冒険者ギルドまで巻き込むとは……」

「ふん、リキナンの奴め……まあいい、奴への嫌がらせは続けろ。言っておくが、間違っても傷つけるなよ?警備兵にを目を付けられたら面倒だからな」

「へい、分かりました」



男達はルインの言葉に従い、即座に行動に移すとルインは窓の外でまだ後姿が見えるレナ達に呟く。



「あのガキも哀れな奴等だな……この俺がお前の大切な友人の商会を潰す計画に加担しているとも知らずに」




――このルインという男は表向きは冒険者ギルドのサブマスターの顔を持つが、裏では複数の王都の商会と繋がりを持ち、彼はダリル商会と対抗しているとある商会から依頼を受けていた。


そのため彼はダリル商会を潰すために冒険者に根回しを行い、高額な報酬を指定してダリル商会の依頼を冒険者達に引き受けないようにしていた黒幕である事はレナ達は気付けなかった。

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