第95話 大迷宮への許可証
「おっちゃん、これが何か分かるか?」
「ん?何だ……そ、それは俺の財布!?」
「えっ!?」
ダリルはコネコが机の上に置いた財布を見て驚愕の表情を浮かべ、慌てて自分の懐を確認して身に着けていた財布が無い事に気付き、何時の間にか自分から財布を盗み出していたコネコに動揺する。
「い、何時の間に財布を……?」
「へへっ、財布をすられた事に誰も気付かなかっただろ?暗殺者の技能の中には存在感を消して相手に接近する能力もあるんだよ。あたしはこの能力で今日まで生き延びてきたんだ」
「凄いよコネコちゃん……でも、何で財布を抜き取ってたの?」
「コネコ、お前もしかして……」
「ぬ、盗むつもりはなかったって!!おっちゃんにあたしの実力を見せるために取っただけだってば!!」
レナとミナの疑いの視線にコネコは冷や汗を流しながら慌てて弁明を行い、自分の能力の凄さを示す。そんな彼女に対してダリルは抜き取られた財布を拾い上げ、何時の間に自分が財布を取られていたのか全く気づく事ができなかった。
コネコの手際の速さにダリルは只の子供ではないと納得するが、それでも危険な大迷宮へ行かせる事には素直に賛成できず、腕を組んで考え込む。
「まさか商人の俺から財布を盗むとは……確かにそこの嬢ちゃんの腕も確かだな。だが、それでも大迷宮へ二人で挑むのはな……」
「あの、それなら僕も手伝いましょうか?」
「何!?まさかそっちの嬢ちゃんも冒険者なのか!?」
「いや、冒険者というわけではないですけど……一応は槍騎士の称号を持ってます」
ミナも大迷宮への同行を希望するが、ダリルよりも先にレナが口を挟む。気持ちは有難いが、ミナの場合はレナ達とは事情が違い、彼女まで無理に大迷宮へ挑む義理はない。
「ちょっと待って、ミナは無理に付き合う必要はないよ。ミナは叔父さんの家で世話になるって言ってたでしょ?俺達の場合は衣食住の確保のためにダリルさんに協力するけど、ミナまで手伝う必要は……」
「ううん、僕も二人に付いて行くよ。というか、友達が困っているなら助けるのが当たり前でしょ?絶対に僕も付いて行くからね!!」
「兄ちゃん、ミナの姉ちゃんがこう言ってるんだし、一緒に行ってもいいんじゃないの?それに兄ちゃんは知らないかもしれないけど、この姉ちゃんは本当に強いぞ。絶対に連れて行った方が良いって!!」
「でも……」
レナはミナまで巻き込む事には躊躇したが、ミナ本人は大迷宮へ同行すると言い張り、コネコも彼女の同行を勧める。思いもよらぬコネコの言葉にレナは戸惑う。
コネコを雇う様にレナがダリルに告げたのは彼女の能力が役立つかもしれないと判断した上で告げたが、コネコによるとミナの能力も非常に高いらしく、彼女の同行に賛同する。
「……分かった、お前達3人がそこまで言うのなら俺も覚悟を決めよう。レナ、お前が自分の事を立派な冒険者になったと言うのなら、俺もお前の事を商会の主として冒険者として雇うぞ。成功報酬は魔法学園卒業までの間の衣食住は保証する、それとは別に報酬も用意する。この条件で引き受けてくれるか?」
「はい!!必ずミスリルを用意します!!」
「頼んだぞ……もしも失敗したとしても俺はお前等の事を恨んだりはしない。決して無理はするなよ」
ダリルはレナ達に商会の未来を賭けてみる事を決め、自分が知る限りの大迷宮の情報を話す――
――ダリル商会の建物を後にしたレナ達はまずは大迷宮に挑むため、冒険者ギルドの方へ引き返す。
ダリルによると大迷宮へ挑むには冒険者ギルドが発行している「許可証」が必要らしく、レナ達は魔法学園の試験会場でもあった王都の冒険者ギルドへ戻る。
「許可証の発行は正式に登録している冒険者しか行っていません。資格を一時的に剥奪されているレナ様とコネコ様には発行する事は出来ません。当然、一般人であるミナ様にも許可証は与える事は出来ません」
だが、レナ達は受付嬢に大迷宮へ挑む許可証の発行を申し込むが、担当の女性は淡々と許可証の発行は出来ない事を告げる。しかし、ここで諦めるわけにもいかずにレナは粘る。
「どうして正式な登録を行っている冒険者にしか発行できないんですか?俺は元々は白銀級冒険者です。他の冒険者の人と実力が劣っているとは思えません」
「白銀級冒険者……ですか、確かに書類上はレナ様は白銀級冒険者のようですね。しかし、貴方の経歴にはいくつか疑問点があります」
「……どういう意味ですか?」
自分を白銀級冒険者と名乗るレナに対し、受付嬢は小馬鹿にしたような態度で書類を覗き込み、レナのこれまでの業績が記された書類を視線に向けながら質問を行う。
「レナ様は13才に冒険者の合格を果たし、その僅か数か月後に赤毛熊の討伐を果たして銀級の冒険者へ昇格……その後は単独で行動を続け、多数の依頼を達成させて評価点を集め、白銀級冒険者へ昇格を果たしたと書いてありますが、はっきりと言って当ギルドではレナ様が白銀級の階級に相応しいのか疑問を抱いております」
「何故ですか?」
「あまりにも昇格の速度が早過ぎるのですよ。聞くところによると、貴方が所属していたギルドは辺境地方に存在する小さなギルドのようですね。はっきりと言いまして我がギルドではレナ様が本当この書類に記されている通りの功績を積み重ねて白銀級冒険者へ昇格を果たしたのか疑問を抱いています」
「つまり……俺が不正をして白銀級冒険者へ昇格を果たしたと?」
「はあっ!?」
「ちょっと待ってください!!それはいくらなんでも酷すぎませんか!?」
受付嬢の言葉にレナは自分が疑われている事を悟り、コネコとミナも怒りを露わにするが、受付嬢は淡々とした反応を返す。
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