第94話 大迷宮に挑む
「こ、こいつは……白銀級冒険者のバッジじゃないか!!どうしてお前がこれを!?」
「あれ?前に手紙で昇格した事は伝えてましたよね?」
「いや、確かにそうだが……俺を安心させるためにわざと嘘を書いていたのかと思っていたんだが……」
ダリルはレナが白銀級冒険者の昇格を果たしていた事が真実だと知って驚きを隠せず、まじまじとバッジを覗き込む。白銀級の階級まで昇格した人間は一流の冒険者と言っても過言ではなく、まだ14才のレナが冒険者として大成したと知って感動する。
だが、反面に自分の方は意気揚々と王都へ向かったにも関わらず、商会は解散の危機を迎えて夜逃げまで考えている姿を見られて落ち込んでしまう。
「まさかあの小さいレナが白銀級冒険者にまでなるとはな……驚いたぞ。それに比べて俺の方は……」
「ダリルさんが喜んでくれるのは嬉しいですけど、本題に戻ります。ダリルさん、唐突ですけど俺を雇いませんか?」
「雇う!?俺がお前をか?」
レナの言葉にダリルは戸惑うが、商会が冒険者と契約を結ぶ事は珍しい事ではなく、実際に王都の銀級以上の冒険者の殆どは何処かしらの商会や組織と契約を結んでいる。
白銀級の冒険者となれば専属契約を求める商会などいくらでもあるが、レナはダリルが商会主を務める商会意外とは契約を結ぶつもりはない。
「ダリルさん、実は俺とこのコネコは住む場所を探してるんです。そこでお願いがあるんですけど、俺たちを魔法学園を卒業するまで雇ってくれませんか?」
「え!?あたしも!?」
「レナ君、どういう事なの?」
唐突なレナの提案にコネコとミナは驚くが、商人であるダリルは頭の回転も速く、レナの言いたいことを理解した。
「なるほど……つまり、お前等二人の衣食住の面倒を見る代わりに俺の仕事を引き受ける契約を結ぶんだな?だが、聞いた話だと最近では未成年冒険者は資格を剥奪されたんだろ?つまり、今のお前等は冒険者の資格がない以上は契約を結ぶ事は……」
「正確には「一時剥奪」です。完全に冒険者としての資格を失ったわけじゃないです。成人年齢を迎えれば冒険者として活動も許されますし、それに冒険者として雇うわけでなく、あくまでも商会の従業員として雇ってくれればいいんです」
「まあ、確かにそれなら問題はなさそうだが……だけどなレナ、さっきも話したがこの商会は3日後には無くなるんだぞ?お前等の面倒を見る事なんて今の俺には……」
「ミスリルをあと5キロ用意すればいいんでしょう?なら、俺が代わりに取ってきます」
「お前が?」
「えっ!?本気かよ兄ちゃん!?」
「まさか、大迷宮へ挑むの!?」
レナの発言に他の者達は驚愕するが、もしもレナがミスリルを5キロ用意すればダリル商会は潰れる事はなく、これからも営業を行える。それどころか契約を果たした報酬を受け取れば大金も手に入り、商会を今以上に大きくも出来るだろう。
問題があるとすればレナは白銀級冒険者のではあるが資格を一時剥奪され、しかも大迷宮に挑んだ経験はない。レナの気持ちは嬉しいがダリルは彼の提案を拒否した。
「駄目だレナ……お前は知らないかもしれないが、大迷宮へ挑む事が出来るのは冒険者かヒトノ国側が認めた人間だけなんだ。第一に大迷宮は本当に危険な場所なんだ、いくら白銀級冒険者でも一人で挑むなんて……」
「でも、ヒトノ国側の許可さえあればいいんですよね?それにダリルさんには言ってませんでしたけど、俺はずっと単独ソロで冒険者活動を続けてきました。そのお陰で評価点を独占して白銀級冒険者の昇格する事が出来たんです」
「そ、そうなのか?」
「兄ちゃん、単独でやってたのか!?そりゃ凄いな……あたしも一人で仕事をよく引き受けてたけど」
冒険者として活動していた頃、レナは他の冒険者とは組まずにずっと一人で仕事を行っていた。何度かギルド側から他の冒険者と組むように促された事もあったが、レナは一人で冒険者活動を続けた。
――理由としてはレナの付与魔法は他の魔術師と違って後方支援には不向きであり、他の人間の援護には向いていない。
一人で行動する事が大方のはイチノ街の地方の仕事でレナが対応出来ない魔物は殆ど存在せず、評価点を稼ぐ為にレナは単独で活動を続け、短期間での白銀級冒険者の昇格を果たす。
評価点を稼げば上の階級へ昇格に近付き、更に赤毛熊の討伐以降はレナとこれといって凶悪な魔物の出現もなく、せいぜいゴブリンとホブゴブリンが草原地方にまで出現するようになった事ぐらいだった。
なのでイチノ地方でレナだけでは対応出来ない魔物の討伐依頼は発注されず、単独で行動しても特に大きな問題はなかった。
「ダリルさん、俺はもう冒険者として色々な魔物と討伐を果たしています。赤毛熊、ボア、ホブゴブリン……もう昔の俺とは違うんです」
「そ、そうか……いや、それでも危険過ぎる。大迷宮は一人で攻略できる場所じゃないんだ!!」
「なら、あたしも一緒に行くよ。兄ちゃんもそのつもりであたしもここへ雇う様に言ったんだろ?」
「何?君も冒険者だったのか?いや、でも君はどう見ても子供じゃないか……」
レナの言葉に思い悩むダリルに対して同じ未成年冒険者であるコネコが名乗り上げるが、どう見ても小さな子供にしか見えないコネコに対してダリルは眉を顰めるが、そんな彼に対してコネコはある物を差し出す。
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