第96話 不正の疑惑を晴らす

「不正とまでは言いませんが、レナ様の評価が少々高すぎるのではないかと当ギルドは判断しています。そもそも13才という年齢で危険種指定されている赤毛熊の討伐を果たしたと記されていますが、単独で討伐を果たしたとは書いてありません。詳細によると赤毛熊に止めを刺したのはレナ様のようですが、その前に赤毛熊は相当数の警備兵と交戦していたとも書いてあります。つまり、レナ様が討伐を果たしたのは負傷した赤毛熊であって、万全の状態の赤毛熊を単独で討伐したわけではない、違いますか?」

「……確かに赤毛熊は既に兵士との戦闘をしていました」

「そうでしょうね。でなければ13才の子供が赤毛熊を打ち倒せるはずがありませんしね」



レナの返答を聞いて受付嬢は得意げに語り、そんな彼女の態度にコネコとミナは苛立ちを抱く。しかし、実際の所はレナと交戦する前の赤毛熊は多数の兵士を圧倒し、しかもホブゴブリンという味方も存在した。


騒ぎに気づいてレナが駆けつけた時点では赤毛熊は負傷どころか警備兵を殲滅しかねない状態だったのだが、その事実を知らない受付嬢は続けてレナの経歴に関して難癖をつける。



「依頼の達成数は見事な物ですが、その半分近くは魔物の討伐依頼ではなく、村人からの雑用を頼まれている事も気になりますね。何でも畑仕事の手伝いやら、魔物の侵入を防ぐ為に村の周囲の堀の製作、他にも冒険者が行う必要があるのか疑問点が残る依頼も多数存在しますね」

「そうですか」



地属性の付与魔法を使用すれば地面の土砂を操作する事が出来るため、一般人の依頼の中にはレナに畑仕事や村の防備の強化の為に堀の製作を依頼する者も多く、実際にレナの依頼数の半数近くがイチノ地方の村人からの指定依頼である。


冒険者でありながら魔物の討伐よりも村人の雑用のような仕事ばかり依頼されているレナに対して受付嬢はわざとらしいため息を吐く。



「冒険者の中には評価点稼ぎのために一般の方に協力して貰い、依頼を出して自分を指定させる冒険者も居ます。勿論、証拠がない限りはそのような冒険者は咎める事は出来ませんが、当ギルドではレナ様の依頼に関しては疑問が尽きません」

「おい、おばさん!!さっきからごちゃごちゃ言いやがって、要するに兄ちゃんを疑ってんのか!?」

「お、おばっ……!?」



レナよりも先にコネコが怒鳴りつけると、自分をおばさん呼ばわりしたコネコに受付嬢の表情は強張るが、一度咳払いして冷静さを保つ。



「当ギルドではレナ様の白銀級冒険者に相応しいとは思いません。いえ、仮に銀級であろうレナ様に見合った階級か疑問がありますね。何しろ、付与魔術師の称号の冒険者が銅級以上の階級に昇格した例はありませんので……」

「つまり、俺の実力が信じられないというですね」

「残念ながら、そういう事になりますね」



受付嬢はレナの言葉を聞いて勝ち誇った表情を浮かべ、反論できるのならば言い返して見ろとばかりに余裕の笑みを浮かべるが、そんな彼女に対してレナは堂々と言い返す。



「ですが、仮に俺が実力不足の冒険者ならばどうして先ほどここで受けた試験を突破出来たのか不思議に思いませんか?」

「えっ……」

「話を聞くところによると試験官がゴロウさんに変わってから試験を合格を果たしたのはここにいる俺達だけだと聞いています。それは事実ですか?」

「そ、そうですね……」



まさか試験官の名前が出てくるとは思わなかった受付嬢は焦った表情を浮かべ、そんな彼女に対してレナは畳みかける。



「俺の実力が疑うといのなら、実技試験の際に見届け人を務めた職員の人達を呼んでください。試験の時に貴女の顔は見てないのでどうやら知らないようですが、俺はゴロウ試験官に直々に合格を言い渡されています。嘘だと思うのなら確かめてください」

「そ、それは……」

「第一に魔法学園は有能な人材しか勧誘しないと聞いています。俺が住んでいたイチノ街は辺境地方に存在しますが、わざわざヒトノ国から使者が送り込まれて俺を王都の魔法学園へ勧誘したんです。諸事情で魔法科への入学は取り消しになりましたが、正式に騎士科への入学は許可されています」



ゴロウから受け取った騎士科の生徒の証であるバッジを取り出したレナは受付嬢に見せつけ、本物である事を確かめさせる。バッジを確認した受付嬢は顔色を変えた。。


あのゴロウの過酷な試験を突破した自分が本当に白銀級に相応しくない冒険者なのかと暗に伝えながら訪ねた。



「俺の実力を疑うというのであればゴロウ試験官に尋ねてください。というより、ここにまだゴロウ試験官が残っているのなら会わせて下さい。俺の方から尋ねてきますから」

「ま、待ってください!!別にそこまでしなくても……」

「そこまで?何か問題あるんですか?ゴロウ試験官に俺が白銀級の冒険者に相応しくないかどうかを聞くだけですよ?」

「いや、それは……」

「もういい、そこまでにしておけ」



レナの言葉に焦り始めた受付嬢に対し、彼女の後方から別のギルドの職員が現れる。その人物の顔を見てレナは実技試験の際に砂時計で時間を計っていた職員だと気づく。

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