第93話 嵌められたダリル

「でも、25キロまではミスリルは集まったんだろ?なんとか5キロまけてくれないのか頼めねえの?」

「嬢ちゃん、商売はそんなに甘くないんだよ……相手側が契約書で30キロと明確に提示している限り、こちらも用意出来なければ賠償金を支払う義務があるんだ。もしも金が用意出来なかったら俺は警備兵に捕まるかもしれない……」

「ちなみに残金はどれくらい残ってるんですか?」

「……金貨1枚くらいだな」

「えっ!?あと3日で金貨999枚集めないと駄目じゃないですか!?」

「そんなの無理に決まってるだろ……くそ、どうしてこんな事に」



嘆くダリルに対してレナはこれまでの彼の話を思い返し、既に彼も気付いているかもしれないが、念のために尋ねた。



「ダリルさん、その仕事を引き受けてから急に今までミスリルを回収してくれた冒険者が仕事を断ったんですよね」

「あ?ああっ……そうだ。いつもはこっちが提示した金額で引き受けてくれた冒険者集団パーティがいたんだが、急に俺以外の商会から仕事を受ける事になったそうだから仕事は受けられないと断られたよ」

「それで他の冒険者に依頼しようとしたら高額な報酬を要求された?」

「ああ、ミスリルを回収出来る冒険者なんて限られているからな。最低でも銀級の冒険者じゃないと駄目なんだ。だが、銀級以上の冒険者の殆どが王都に存在する別の商会と独占契約を結んでいて依頼を頼めないんだ。それでも徹底的に契約を結んでいない奴等に頼み込んでみたが、全員が法外な値段を要求してくるから断ったよ」

「ちなみに報酬の金額はどれくらい要求されました?」

「最低でも金貨数十枚単位だ。しかも冒険者集団全員分の報酬じゃなくて個別で支払えと言ってきたんだぞ?そんな事したらうちの利益がなくなっちまう」

「そして依頼人が派遣した冒険者が連日のように催促のために訪れる……か、ダリルさん。これはどう考えても嵌められましたよね」

「ああ……だろうな」



レナの言葉にダリルは頷き、彼自身も気付いてはいたらしい。今回の仕事の依頼は明らかにダリル商会を陥れようとしている者が仕組んだ罠としか考えられなかった。



「嵌められたって……どういう事だよ?おっちゃん、誰かに恨みでも買ってるのか?」

「心当たりは何人もいるな……新参者の俺が王都で商いを行うのを気に入らない連中はいくらでもいる。王都で先に商売を行っていた商会の奴等が俺を潰すために嵌めたんだろう」

「え?じゃあ、これって詐欺なんですか!?」

「いや、正式に契約書を交わした以上は今回の仕事は詐欺にはならない。こっちが依頼された物を用意すればあっちも指定した金額分の報酬は支払う義務はある。勿論、こっちが品物を用意出来ればの話だがな……くそ、高額な報酬に目がくらんで判断力が鈍っていた」

「今度から仕事を引き受ける時はもっと気を付けた方が良いですよ。それに相手はどうやら王都の冒険者ギルドの冒険者にも根回ししているようですしね……その契約書を交わした他の街の冒険者ギルドもグルかもしれません」

「ああっ……そうだな」



ダリルが王都での商売が上手く行くのを快く思わない者が彼を潰すために王都の冒険者ギルドと別の街の冒険者ギルドと供託し、彼の商会では到底用意出来ない物品の輸入の契約を交わしたのだろう。


狙いは依頼が失敗した時の賠償金で間違いなく、仮にダリルが賠償金を用意すれば協力者同士で山分けし、用意出来なくとも少なくともダリル商会は解散、邪魔者のダリルはいなくなる。


但し、この作戦はダリル商会がミスリルを用意出来ない事が前提のため、もしもダリルがミスリルを用意出来れば相手は契約書に指定した高額な報酬を支払う義務が存在する。


契約書が存在する以上は相手側も支払わなければ逆に警備兵に世話になるため、あと5キロ分のミスリルさえ用意出来ればダリル商会は潰れる事はない。



「ダリルさん、この事を警備兵に話しました?」

「いや、話していない。仮に俺を嵌める罠だとしてもこっちは契約書に署名しちまった……もうどうしようもねえよ」

「そんな……」

「どうにかなんないのかよ?そうだ、借金でもして他の商会からミスリルを5キロ分だけ買い取って売り払えばいいんじゃないのか?」

「いや、今回は明らかに複数の商会が絡んでいる。何処で頭を下げようと俺に大金を貸してくれる金貸しはいなかったよ。そもそも、担保が用意出来ないからな……こんなボロい建物じゃ担保にも利用出来ないしな」

「じゃあ、本当にどうしようもないのか?」

「……手があるとすればもう一度冒険者に頼み込んでミスリルを回収して貰うぐらいだな。けど、金貨1枚程度で動いてくれる冒険者なんているわけが……」

「ダリルさん、これを見てください」



落ち込んでいるダリルにレナは自分の荷物から「白銀級冒険者」の証である白銀のバッジを机の上に置く。最初は訝しむダリルだったが、バッジを見て目を見開く。

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