第92話 夜逃げ

「うちが引き受けた仕事の内容は一か月以内に30キロのミスリルを調達する事……依頼者は王都とは別の都市で経営している冒険者ギルドからだった。前金として金貨50枚、更に報酬金は金貨150枚を支払うとな……」

「えっ!?そんなに!?」

「すっげぇ大金じゃねえかっ!!」

「金貨200枚なんて大金を支払うなんて……きっと大手の冒険者ギルドなんですね」



日本円に換算すると前金を合わせて2000万円の報酬を支払うという内容にダリルは最初は喜び、即座に仕事を引き受けた。だが、契約の際にダリルはある条件も承諾する。



「だが、期日の一か月以内にミスリルを集めきれない場合、契約不成立として賠償金を支払う事を条件での仕事だったんだ」

「賠償金というと……いくらぐらいですか?」

「金貨100枚だ」

「はあっ!?そんな大金払わないといけないのか!?」



依頼を果たせなかった場合、前金の倍額の賠償金を支払う契約でなければ仕事を頼まないと言われたダリルは悩み、正直に言えば金貨100枚などダリルの商会が支払えるぎりぎりの金額だった。


しかもミスリルを輸入するために冒険者に仕事を依頼しなければならず、彼等に与える報酬も考えると払えるかどうかは微妙な金額だった。


それでも成功すれば大金を手にする事が出来るため、ダリルの方も自分からある条件を付けくわえて貰えるなら仕事を引き受けると提案した。その内容は受取場所はこの王都であり、依頼人の方からミスリルを直接受け取ってほしいと頼む。



「俺は仕事を引き受ける代わりに依頼人本人にここへ訪れるように催促したんだ。実は最近、この王都の付近で盗賊が現れるようになってな、もしもミスリルを確保しても移送する時に盗賊に襲われて積み荷を奪われたら台無しになるからな。だから依頼人には腕利きの冒険者を同行させてこの王都へ直接受け取りに来るように頼んだんだが……相手はあっさりと引き受けてくれたよ」

「なるほど、ちなみにその依頼人が訪れる日は何時ですか?」

「いや、実は依頼人の方はもう王都へ来て待機してるんだよ。期日まであと一週間はあるのに毎日のように仕事の状況を尋ねてきやがって……早くミスリルを渡すように要求してくるんだよ」

「せっかちな奴等だな……あ、だから鍵を掛けて居留守してたのか?」

「ああ……だからお前等が中に入って来た時は本当に焦ったよ。まさか鍵を壊して中にまで入って来たんじゃないかと部屋の中で震えてた」



最初にレナ達が訪れた時に建物が閉まっていた理由は執拗に仕事状況を尋ねてくる受取人の冒険者達を恐れていたという。


だが、いくら依頼人とはいえ、決められた期日の前に何度も訪れて嫌がらせのように尋ねてくる事にレナは疑問を抱く。



「どうして居留守なんて使って引きこもってたんですか?いくら相手が依頼人だからって、そんな営業妨害するような相手なら警備兵に相談すればいいじゃないですか」

「……それが出来たら良かったんだがな、今の俺の方が警備兵に会うのは避けたい状況なんだ」

「え?どういう意味ですか?」

「実は……夜逃げを考えている」

『はあっ!?』



ダリルは追いつめられた表情を浮かべながら頭を抱え、商人としての実力は自信をもって王都に訪れた彼だが、今では心が折れ掛かっていた。そして現在の商会に他の人間がいない理由を話す。



「実は今まで雇っていた冒険者が急に仕事を引き受けなくなってミスリルが集めきれなかったんだ……他の冒険者に頼み込んでも何故か殆どの奴等に断られるし、それに折角引き受けてくれそうな冒険者も法外な高額の報酬を要求してきて雇うに雇えなくて……結局、ミスリルが集めきれなかったんだよ」

「え!?じゃあ、全然ミスリルが集まってないんですか!?」

「いや、念のために普段からミスリルは余分に貯蓄してたんだ!!俺だけしか開けられない金庫の中に20キロのミスリルがあるし、それにどうにか雇える事が出来た冒険者から5キロ分のミスリルは受け取っている。けど、あと5キロ足りないんだ……依頼人の受け取りの期日は3日後なのにあと5キロも足りないなんて……」

「じゃあ、まさか他に人がいない理由は……」

「……俺が解雇した。あいつらまで巻き込むわけにはいかないからな。受け取った前金を含めても賠償金を支払える額じゃない。だからあいつらには退職金を支払って出て行ってもらった」

「そんな……」

「それでおっちゃんも夜逃げの準備をしてたのか……でも、相手は冒険者ギルドなんだろ?そんな簡単に逃げ切れるのか?あっちだって追跡が得意な技能を持つ称号の冒険者だっているかもしれないんだろ?あたしみたいな暗殺者とかもいたらおっちゃん逃げられないんじゃないのか?」

「そうだよね。あっちだって前金を支払ってるし、それに一か月も待たされて賠償金の金貨100枚も用意出来ないなんて知ったらきっと大激怒するだろうし、警備兵にも報告して犯罪者として指名手配される可能性もあるかも」

「ううっ……」



コネコとミナの指摘にダリルは顔色を真っ青にさせ、今更ながらに仕事を引き受けた事を後悔する。だが、話を聞いていたレナは違和感を抱く。






※申し訳ありません、金銭の値段を変更しました。


「鉄貨――100円」

「銅貨――1000円」

「銀貨――1万円」

「金貨――10万円」


一応は鉄貨以下の通貨もありますが、作中ではこの4つの通貨だけを出します。

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