第89話 ダリルの元へ

――ミナが二人と離れたがらないのは彼女にとって二人は初めて自分と渡り合える身体能力を持つ相手だからである。短距離ならばコネコの方が早く移動を行え、長距離に関しても魔術師でありながら自分と同じ速度で走り続けられるレナに対し、ミナは二人と「対等な友達」になりたいと思っていた。


彼女は友人がいないわけではないが、自分のような戦闘職の友人はいなかった。称号を持つ人間は1000人に1人しか存在しないので今までに彼女が巡り合わなかったという理由もあるが、ミナが求めるのは自分と同世代で尚且つ渡り合える実力を持つ人間である。


ミナが求める友人の理想像は自分と渡り合える実力を持ち、それでいながら強い向上心を持つ相手が欲しかった。その点で言えばレナが一番今の彼女の求める相手に近い。コネコに関しても初めて自分よりも早く動ける相手のため、気になる存在である。



『友達を選ぶのならば困ったときはお互いを助け合い、悲しい時は二人で悲しみを分け合い、常に競争相手として互いを意識しながら上を目指す人間を選べ。親友であると同時に戦友と呼べる存在を作ればお前はもっと強くなれる』



子供の頃にそういわれたミナは彼女なりに父親の言葉に従い、自分と同等でありながら向上心の高い人間を探し続けていた。


しかし、今まで彼女の周囲に同世代でミナと渡り合える人間は巡り合えなかった。だが、今のミナの目の前には父親の言葉に見合う存在が現れたのだ。



「その、嫌でなければ僕も二人と仲良くなりたいな……なんて、思ってたりするんだけど、駄目かな?」

「別にあたしはいいけど……兄ちゃんは?」

「うん、いいよ」

「本当に!?」



あっさりと自分の同行を許可してくれたレナとコネコにミナは近寄り、あまりの彼女の勢いに二人は驚くが、ミナは嬉しそうにレナとコネコの手を掴んで握手を行う。



「良かった、断られたらどうしようかと思ったよ!!あ、良かったら入学式が始まるまでの間、二人も僕と一緒に鍛錬しない!?僕と同じ年齢位の人と一緒に鍛錬を擦る事が夢だったんだ!!」

「ちょ、ちょっ……急にどうしたんだよ姉ちゃん!?」

「えっと……よく分からないけど、とりあえず今は宿屋を先に探そうか」

「あ、ごめんね!!僕、勝手に先ばしちゃって……」



自分一人だけが興奮している事に気付いたミナは慌てて冷静心を取り戻し、二人の手を離す。だが、行動を共にする事が二人と友達になれる好機もあり、何としても煙たがられないように気を付ける事にした――





――レナはまずは王都で商売を行っているダリルの元へ先に向かう事を伝え、宿屋を探すのはダリルと会った後にした。


二人はそれを承諾し、とりあえずは手紙に記されていた住所を頼りにレナ達は王都を観光しながら向かう。



「それにしても王都は本当に人が多いな……イチノ街の何倍も広いのに人間だらけだ」

「けど、治安はそんなに良くなさそうだな。兄ちゃんが襲った奴等以外にも怪しそうな奴等はいっぱいいるぜ?」

「え?そうかな?そんなに怪しそうな人が多いかな……あ、もしかして二人とも裏街区へ行ったの!?」

「「裏街区?」」



二人の話を聞いてミナは驚いた声を上げ、この王都に存在する裏稼業の人間が最も多く出入りしている区画の存在を話す。


ちなみに裏街区というのは正式名称ではなく、本当は別の名前が存在するのだが一般の間では裏街区という名前が浸透しているらしい。



「僕も叔父さんに聞いただけなんだけど、この王都には普通の人が立ち寄っちゃいけない場所があるんだよ。それが「裏街区」と呼ばれていて、叔父さんの話だとそこには裏稼業の人間が占拠した危険地帯だって……」

「うえっ!?マジかよ……あそこってそんなに危険な場所だったのか?」

「身体が痺れて何処をどう歩いていたのかよく覚えてはいないけど……確か南西の方角で追剥ぎ襲われた気がするけど」

「そこが裏街だよ!!二人とも、よく無事だったね……あそこには怖い人達が沢山いるって噂だけど……」

「でも、何でそんな奴等が王都で暮らしていられるの?普通なら警備兵とか、城の兵士とか送り込んで治安維持のために捕まえるべきじゃないの?」

「それはそうだよな、何でそんな奴らを捕まえないんだ?」



レナの普通の人間なら誰もが思う疑問に対し、コネコも同様の疑問を抱いたので尋ねると、ミナは叔父から言われた言葉を思い出しながら説明する。



「えっと……確か、叔父さんの話だと裏街区を取り仕切っている人物が冒険者ギルドと繋がりがあって王都の兵士は手を出せないとか言ってたよ」

「はあ?冒険者ギルドがなんで犯罪者と繋がりがあるんだよ?ギルドマスターが悪者なのかここ?」

「そこら辺は僕もよく知らないけど、とにかくギルドマスターが裏街区に手出ししないようにヒトノ国と掛け合ってるみたい」

「けど、いくら冒険者ギルドだからって国に指図出来る権力なんて持ってるの?そもそも冒険者が犯罪者を庇うなんて……」



基本的に冒険者はこの世界では警察組織のような役割を持ち、治安の維持活動を行う義務もある。そのため、悪事を犯す人間を取り締まるのも彼等の役目ともいえる。


だから魔物の討伐以外にも野盗などの討伐依頼も引き受けているのだが、この王都の冒険者ギルドは他の街の冒険者ギルドと異なり、ヒトノ国に対しても強い影響力を持つという。

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