第88話 二人の合否

「では正式にお前の入学手続きを行う。だが、学園に通えるようになるのは一週間後の入学式からだ」

「入学式?」

「お前の他に合格した人間の数は数十名の人間と共に学園に入学する仕組みだ。入学式には国王陛下、ならびに生徒として入学予定の王子、王女様も赴く。入学式の前に学園の指定した制服と教材器具を送り届ける手筈だ」

「お待ちくださいゴロウ様、この者の試験の参加申込書には住所が記されていません。まだ宿を取っていないという事なので無記入を認めましたが……」

「何、そうなのか?」

「あ、はい……まだ王都へ来たばかりなのでこれから宿屋を探そうかと……」

「そうか……ならば宿が決まり次第、連絡をここへ寄越せ。もしも宿屋が決まらなかった場合、この冒険者ギルドの宿舎の一室を貸してやる。どこかの宿に当てはあるのか?」

「宿というわけではないですけど、王都に知り合いがいるのでその人の元を尋ねてみます。もしかしたら下宿させてもらえるかもしれないので……」

「そうか、だが万が一にも宿屋や住居が決まらなかった場合はここへ来い。入学式の前日までに必ず連絡しろ、いいな?」

「はい!!」



ゴロウの言葉にレナは従い、改めて騎士科の生徒の証である純銀のバッジを受け取り、その場を後にした。どうやら入学式までの一週間は自由に出来るらしく、この際にレナは王都で商売を始めたという育て親の「ダリル」の元へ向かう事にした――





――ダリルとは定期的に手紙のやり取りを行い、お互いの近況を報告し合っていた。彼はカイの友人で昔からレナとも付き合いがあり、村を襲われて一人ぼっちになったレナを見捨てずに面倒を見てくれた。文字の読み書きも計算も彼からレナは教わり、レナにとっては二人目の父親のような存在である。


冒険者ギルドを抜け出したレナは真っ先にダリルの元へ向かおうとしたが、残されたコネコとミナの事が気になり、少しだけ冒険者ギルドの玄関の前で待つ事にした。待機してからしばらく経過すると、疲れた表情を浮かべたコネコと、右腕に包帯を巻いたミナが姿を現す。



「あれ、そこに居るのって……もしかしてレナ君?」

「何だよ兄ちゃん、あたし達の事を待っててくれたのか?」

「あ、お帰り二人とも……その様子だと試験の方は……」

「勿論受かったぜ!!……ぎりぎりだったけどな」

「流石は将軍職に就いている人は強いね……右腕、危うく折られかけたよ」



二人は苦笑いを浮かべてどうにか合格を果たした事を告げ、試験の詳細を話す。どうやら二人ともレナと同じように試験官のゴロウと対戦したらしく、どちらも制限時間ぎりぎりまで戦い続けたらしい。しかも二人とも合格の条件がレナとは異なっていた。



「あたしの場合、あのおっちゃんから10分間逃げ切れれば合格だって言われたんだよ。もしもあたしが捕まったら最初から時間を数え直してやり直すという規則でさ、最初は楽勝だと思ったけど、あたしの動きを見抜いて先回りしたり、盾をぶん投げてくるから本当に大変だったぜ……まあ、どうにか合格したんだけどさ」

「僕の場合は木造製の槍を渡されて、試験官が装備した木造の盾を貫けと言われたんだよね。最初のうちは僕の槍を受け流されたり、回避されたりして苦戦したけど、どうにか1分前に戦技を発動させて槍で盾を貫く事に成功したよ。けど、ゴロウさんは戦技も使わずに僕の攻撃を受け続けてたから凄いよね……」



どうやら二人の場合はレナのようにゴロウに一撃を与える試験ではなく、称号に見合った内容の条件の試験を与えられたらしい。


暗殺者のコネコは速度に特化した職業のためにゴロウから逃げ回り、ミナの場合は攻撃に特化した職業なのでゴロウの盾を貫通するだけの威力の攻撃を出す試験を受けさせられたらしい。


事前に3人の称号は試験の申込書で確認済みのため、もしかしたら称号に合わせた試験が用意されていたのだろう。3人はお互いに合格した事を祝い、これからどうするのかを尋ねる。



「二人はこれからの予定は?」

「僕はここで暮らしている叔父さんの所に行くと思う。王都で暮らしているらしいし、学園に入学する間はお世話になる事になってるんだ」

「あたしは兄ちゃんと一緒で宿を探すよ。へへへ、実は倉庫で金目になりそうな武器を持ってきたからこれを売ればしばらくは金に困らないしなっ」

「よく見つけてきたねそんなの……という事は俺とコネコは宿探しか、ミナとはここでお別れだね」

「えっ……あっ、うん」



レナはコネコと共に立ち上がり、ミナに別れを告げて自分達の宿屋を探すために去ろうとすると、後ろからミナが慌てて付いてきて二人の後を追う。



「あの……僕も一緒に行くのは駄目かな?」

「え?けど、ミナの姉ちゃんは叔父さんの所に戻るんだろ?」

「その、そうなんだけどさ……ほら、折角一緒に合格したし、それにこれから一緒の学園に通う生徒同士だから、二人ともっと仲良くなりたいと思って……」



ミナの言葉にレナとコネコは顔を見合わせ、不安そうな表情を浮かべるミナを見て不思議に思う。

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