第86話 騎士科の証

「ご、ゴロウ様!!」

「大丈夫ですか!?」

「……大丈夫だ」



床に叩きつけられたゴロウの元にギルド職員が駆け寄り、彼の安否を確かめようとしたが、そんな彼等に対してゴロウはゆっくりと起き上がる。強烈な一撃を受けたはずだが、流石は盾騎士の称号を持つだけはあって耐久力も高いらしい。


ゴロウは口元の血を拭い、破損した鎧を確認すると笑みを浮かべ、久々に満足のいく戦いが出来たと喜ぶ。そして最後にレナに振り返って試験の結果を告げた。



「合格だ……この俺に血を流させるとは、大した奴だ」

「えっ……あ、ありがとうございます」



ゴロウの言葉にレナは素直に喜び、自分の攻撃をまともに受けても意識を保つどころか深手にも至っていないゴロウの頑丈さには驚かされる


。派手に吹き飛んだので心配していたが、鎧が壊れた程度でゴロウ自身は軽い痣と口元を切った程度の損傷しか受けていないらしい。


盾騎士の防御力を突破したレナの攻撃も見事ではあるが、その攻撃を受けても軽い怪我程度で済んだゴロウの肉体も凄まじく、彼はギルドの職員に指示を出す。



「何をしている?俺は合格を言い渡したんだぞ、合格の証であるバッジを渡せ」

「は、はい!!」



職員の一人がゴロウの言葉を聞いてレナの元へ赴き、彼に「剣」「盾」「槍」が合わさったような形をしたペンダントを渡す。純銀で構成されているらしく、装飾も凝っているのでアクセサリーのように見えなくもない。



「これが騎士科の生徒の証となる「銀のバッジ」です。このバッジが身分証にもなりますので絶対に無くさないように管理してください」

「あ、はい……ありがとうございます」

「お待ちください!!」



レナがバッジを受け取ろうとすると、一人の職員が慌てて制止の言葉を掛け、ゴロウへと振り返る。試合中は彼に怒鳴られて黙っていたが、流石にこのままレナの合格を見過ごすわけにはいかなかった。



「ゴロウ様、差し出がましいようですが彼は騎士科の生徒として合格させる事は反対でございます!!」

「えっ……」

「何だと?いったいなぜだ?お前もこの子が俺に一撃を与えたのを見ただろう」



職員の言葉にレナよりも先にゴロウの方が尋ねると、自分に対して見事な一撃を与えたレナの合格に不満があるのかと問い質すと、職員は慌てて言い直す。



「も、申し訳ございません!!ですが、私が言いたいのは彼が騎士科の生徒には相応しくないというだけであって、別に彼の実力を疑っているわけではありません!!」

「どういう意味だ?」

「先ほどの戦闘を見る限り、明らかに彼は魔術師ではないですか!!魔術師を騎士科の生徒として受け入れるのですか!?」



ゴロウに異議を申し立てた職員の言葉に他の人間達も頷き、先ほどの試験の戦闘ぶりを見る限りではレナは明らかに戦闘職の人間ではない事は明白だった。


ゴロウを打ち倒した実力は確かに認めるが、だからといって戦闘職ではない人間を騎士科の生徒として入学させる事に職員は反対する。


職員が言いたいのはあくまでもレナが魔術師でありながら騎士科の生徒として迎え入れる事を反対したいだけであって、別にゴロウの判断に異議を申し立てるつもりはなく、入学させるのならば騎士科ではなく魔法科の生徒としてレナを迎え入れるべきだと抗議した。



「彼がどうして騎士科の試験を受けたのかは分かりませんが、基本的に魔術師の称号の所持者は魔法科の生徒へ入学させるのが道理かと……私が言いたいのは彼が適した学科へ入学する事が正しい事だと思います!!」

「ふむ、つまり騎士科ではなく、魔法科への入学を推薦しろというのか?」

「その通りです!!」

「私もそれが良いと思います」

「私も……」



職員の言葉の意味を理解したゴロウは怒りを抑め、他の数人の職員も同調する。彼等の意見は尤もなのでゴロウはレナに振り返り、確認を行う。



「レナ、といったな。お前はどうして騎士科の入学試験を受けた?魔法科ではなく、どうして騎士科の入学を志望したのか教えて貰おうか」

「えっと……実は俺は元々は魔法学園の推薦を受けていたんです。ですけど……」




――レナはこれまでの経緯を話し、自分は元々は魔法学園の魔法科の生徒として入学が決まっていた事、そのために王都まで訪れた事、しかし、適性検査の結果で魔法学園の生徒に相応しないと判断されて追い出されるように城から叩き出された事を話す。


全ての話を聞き終えたゴロウと他の職員達は頭を抑え、レナの推薦状を無視して自己判断で彼の魔法学園の入学を取り消したムノー魔導士の行動に呆れてしまう。




「なるほど、そういう事情だったか……ムノーめ、また独断で余計なことを」

「あの……それで試験の方はどうなるんでしょうか?」

「安心しろ、そういう事情であるならば俺の方から上へ話を通しておこう。正式に魔法学園の魔法科の生徒として入学出来るように取り計ろう」

「本当ですか!?」



ゴロウの思いもがけない言葉にレナは驚き、真相を知ったゴロウは頭を悩ませながらムノーという男がどういう人間なのかを話す。



「あのムノーという魔導士は大魔導士の片腕とも言える立場にある男ではあるが、普段から問題行動が多い。実はお前のように学園の入学を取り消された人間が他に何人もいる」

「え!?そうなんですか?」

「ああ、俺の知る限りでは今月だけで5人の生徒の入学が奴の権力で取り消されている。理由は魔法学園の生徒には相応しくないとな……奴が教師の一人として魔法学園で教鞭を取っている事を知っているか?」

「あの人が……!?」



この時点では教師という言葉はレナは知らないが、話の流れから指導官のような存在だと悟り、自分の入学を独断で取り消したムノーが魔法学園の生徒の指導を行っているという話に動揺を隠せない。

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