第87話 レナの決断は……

「あの人が教師……」

「ああ、奴は性格は最悪だが、魔法の腕に関しては確かだ。最も、才ある人間は贔屓する傾向にあるがな……」

「…………」



レナは仮に自分が魔法科の生徒として入学したとしても、ムノーの指導を受ける事に抵抗を覚える。実際にムノーの方も自分がわざわざ入学を取り消したはずの相手が生徒して加入していれば気に入らない事は間違いなく、目を付けられる可能性は高い。


それにレナの付与魔法は希少職のため、指導を行える人間がそもそも存在するのかも不明である。治癒魔導士などを除き、普通の魔術師はムノーのように「砲撃魔法」と呼ばれる攻撃魔法を扱えるのに対し、レナのような付与魔術師は砲撃魔法が扱えない事も問題だった。



(このまま魔法科の生徒として入学してもまとも指導を受けられるとは限らない……それならいっその事、騎士科の生徒として入学してみるかな?)



魔法科に入学したとしてもムノーに目を付けられる事は間違いなく、希少職の付与魔術師に指導を出来る教師がいる可能性は低い。


適性検査のムノーの反応を見る限りでは付与魔術師は他の魔術師と比べても軽く見られているのは間違いなく、レナは魔法科に入ったとしても正しい指導を受けられるか分からない。



(他の魔術師と交流して今以上に魔法を使いこなすために王都へ来たけど、ムノーの様子を見る限りだとそれも難しそうだしな……それなら騎士科の生徒として入学して身体を鍛えながら今まで通りに自分で考えて工夫した方がいいかもしれない)



学園に入学する期間は成人年齢に至るまでとレナは決めているため、10カ月程度でしか在籍しない予定のため、それだけの期間ならばレナは騎士科の生徒として学園へ入学し、心身を鍛え直す生活を送る方がいいのではないかと考えたレナはゴロウに頼み込む。



「あの、魔法科の入学ではなく、騎士科の生徒として入学したいです」

「何?それでいいのか?」

「君、何を言ってるんだ!?魔術師が騎士科に入るなんて……」

「魔術師が騎士科の生徒になっては駄目だと禁止されているんですか?」

「いや……そういう規則はない、ですが」



レナの言葉にゴロウは驚き、他の職員達は考え直すように説得するが、魔法学園の規則の中に魔術師が騎士科の生徒として入学する事は禁止されてはいない。


最も普通ならば身体能力に関しては一般人と変わらない魔術師が過酷な試験を乗り越えて騎士科の生徒として入学したいと思うはずがないが、レナは魔法科よりも騎士科の方が希望が持てると考えてゴロウに直訴する。



「騎士科の入学をお願いします!!」

「……いいんだな?言っておくが、騎士科の生徒の指導は俺も任されているぞ」

「ゴロウ指導官が?」

「ああ、騎士科に入学するという以上は俺の指導を受けて貰う。それでもいいのか?」

「はい、よろしくお願いします!!」



ゴロウが指導官と聞いてレナはむしろ安心し、彼は確かに試験中は厳しく徹しているように振舞ったが、実際の所は説明下手ではあるが魔術師であるレナが魔法を行使して試験を挑んでも咎める事はなく、実技試験の際も事前の宣言通りに彼の方から攻撃を仕掛けなかった。


仮に実技試験でゴロウが防御に専念しなかった場合、レナは敗れていた可能性が高い。試験中のレナの攻撃は全てゴロウが回避と反撃を行わない事を承知した上での行動のため、もしもゴロウが攻撃の行動に移っていたとしたら結果は変わっていただろう。


試験はレナの合格ではあるが、だからといってゴロウの実力を上回るわけではなく、しかもゴロウ自身はレナの攻撃を受けても致命傷どころか軽い痣程度の損傷しか受けていない。実力も確かで魔術師だからという理由で自分の試験を中断しなかったゴロウならば信用できる人間だとレナは判断した。



「ふむ……まあ、試験に合格した以上はお前も騎士科の生徒と俺は認めている。いいだろう、そこまで言うのならば入学を許可しよう。だが、後で魔法科に入りたいと言っても取り消す事は出来ないぞ?」

「はい!!」

「ほ、本当に彼を騎士科の生徒として入学させるのですか?」

「問題はないだろう。魔法科は魔術師だけしか入れないだろうが、騎士科には戦闘職の人間だけが入ってはならないという規則はない。一般人だろうと魔術師だろうと実力を示せば入学は許可されるはずだ」

「そ、それはそうかもしれませんが……」

「それにお前達も見ていただろう。このレナは俺を殴り飛ばした……この年齢の子供に俺が怪我をさせられるのなど初めてだ。俺が試験官になってから初の合格者だな」」

「え?初……ですか?じゃあ、今までの合格者は……」

「俺が試験官を務めてから百数十人の受験者が訪れたが、合格したのはお前が最初だ。俺の前に試験官を務めていた者達は実技試験の度に負傷し、全員が入院してしまった。だから俺が試験官として選ばれた」

「そうなんですか……」



ゴロウの言葉にレナは苦笑するしかなく、もしもゴロウ以外の試験官が相手だった場合、自分はここまで苦労せずに合格する事が出来なのかと考えてしまう。


最もゴロウでなければレナの騎士科の入学を認めていたのかは分からず、相手が寛大な判断を下すゴロウで逆に良かったのかもしれないが。

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