第85話 実技試験 その2

(反動に鉄壁……師匠バルさんの格闘家の戦技とは根本的に違うみたいだな)



格闘家であるバルが扱う戦技は攻撃に特化しているのに対し、ゴロウの戦技は防御専門と言える戦技だった。戦技と言っても全てが攻撃に繋がる技ばかりではないらしく、防御に特化した戦技も存在する事を知る。


並大抵の相手ならばレナの銀玉を頭に受けた時点で脳震盪を起こすのだが、ゴロウは何事もなかったようにレナを睨みつける。考えている間にも時間は経過するため、レナは次の手を試す。



「これなら!!」

「ぬんっ!!」



弾腕を構えてレナは次々と銀玉をスリングショットで打ち込み、付与魔法の力で加速した銀玉が銀の弾丸と化して放たれるが、ゴロウは盾を利用して全て弾き返す。


軌道を変更する暇もなく全ての銀玉を振り払われてしまったが、弾かれた程度では魔法の効果を失わず、レナは銀玉を操作してあらゆる角度から狙い撃つ。



「このっ!!」

「鉄壁!!」



様々な角度から迫りくる銀玉に対してゴロウは戦技を再び発動させると、まるで鋼鉄の肉体に変化したかのように銀玉が弾かれてしまう。鉄壁の戦技は発動中は肉体全体の硬度が上昇するらしく、どの角度から攻撃を仕掛けても弾かれてしまう。


しかし、鉄壁の発動中はゴロウが身動き一つしていない事に気付いたレナはもしかしたら戦技の発動の際中は動けないのではないかと判断し、これを好機と判断して紅拳に付与魔法を施して接近した。



「重撃!!」

「ぬうっ!?」



接近して攻撃を仕掛けてきたレナに対してゴロウは大盾で防ぐ素振りも見せず、まともに胴体に拳が衝突して後退る。


その光景にギルドの職員は驚愕の表情を浮かべ、まさかゴロウが攻撃を受けるとは思わなかったのだろう。だが、レナは闘拳越しに感じた感触に違和感を抱く。



「痛っ……!?」

「中々の拳だ。ゴブリンやオーク程度ならば殺せただろう。だが、鉄壁を発動させた俺には喰らわん!!」



1年前よりも威力も精度も上昇したはずのレナの「重撃」を受けながらもゴロウは損傷を受けた様子は見せず、むしろ攻撃を仕掛けたレナの方が手首を痛めてしまう。格闘家のバルでさえも今のレナの重撃を受ければ負傷は免れないが、彼女と比べてもゴロウは圧倒的な防御力を誇り、負傷は免れた。


だが、手首を痛めながらもレナはゴロウの「鉄壁」が発動中の間は彼が動かない事を見抜き、仮に鉄壁を発動させていない状態ならば攻撃が通じると確信していた。


何故ならばゴロウが胴体に着けている鎧に関してはレナの一撃を受けてほんのわずかにだが、凹みが出来ていた。どうやら戦技を発動させても肉体だけが強化されるらしく、装備品に関しては防御力が上昇するわけではないようだった。



(戦技を発動していない隙に攻撃を仕掛けるのが一番だと思う。でも、どうやって……)



見た限りではゴロウは「鉄壁」の戦技を瞬時に発動出来るらしく、仮にレナが接近して攻撃を仕掛けようとしたら即座に防御態勢に入るだろう。大盾の方も攻撃を跳ね返すので迂闊に紅拳で殴りつければ衝撃を跳ね返される可能性もあり、接近戦でゴロウに一撃を与えるのは難しい。


ゴロウを倒す方法があるとすれば彼が戦技を発動していない間に攻撃を仕掛けるか、あるいは文字通りの鉄壁の防御力を突破する威力の攻撃を試すしかない。そう考えたレナは壁際にめり込んだ大盾に視線を向け、急いで回収へ向かう。



「残り時間5分!!」

「くっ……」

「またその盾を使う気か?いいだろう、いくらでも来い」



円盤型の大盾を壁から引き抜いたレナに対してゴロウは自分の大盾を構えると、レナは自分の大盾を両手で支えながら狙いを定め、一か八かの賭けに出る。



地属性エンチャント……うおおおっ!!」

「むっ……!?」



レナは両手で抱えた円盤をゴロウの元ではなく、あらぬ方向へ投擲を行う。その光景を見たゴロウは呆気に取られると、円盤はまるでフリスビーのように旋回して軌道を変更させ、ゴロウの背後から接近する。


それを確認したゴロウは先ほどのレナが投げつけた銀玉が何度も自分に向かってきたことを思い出し、攻撃の軌道が変更出来る事を思い出す。だが、冷静に対処すれば十分に対応できる攻撃だった。



「小細工を!!反動!!」



咄嗟にゴロウは左腕の大盾を振り払い、背中に向けて飛んできた円盤型の大盾を弾き飛ばす。だが、円盤に気を取られている隙にレナは片足の靴と靴下を脱ぎ捨て、体力試験でも利用した重力の加速方法で距離を詰める。



「まだだぁっ!!」

「何っ!?くっ、鉄壁!!」



片足に魔力を集中させ、重力を衝撃波のように一気に解放したレナはゴロウの元まで一気に接近する。名付けるならば「瞬間加速」とでも言うべき方法でゴロウの至近距離まで接近したレナは紅拳を振り翳す。


だが、レナが攻撃を仕掛ける前にゴロウは自分の身を守るために戦技を発動させ、先ほどのようにレナの攻撃を受けようとした。しかし、それを予測していたレナも自分の渾身の一撃を繰り出す。



二重強化ダブル!!」

「何っ……ぐはぁっ!?」

『えっ……!?』



レナの紅拳に宿る魔力が増幅し、通常時よりも強烈な重力によって威力を強化された紅拳がゴロウの胴体に叩きつけられ、下から撃ち込まれたゴロウの肉体が天井付近にまで浮き上がり、ゴロウは血反吐を吐きながら床へ叩きつけられた――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る