第68話 少女

「へへへっ……こんなガタイをしているからな、よく勘違いされるんだが俺はこう見えても魔術師でね。この意味が分かるか?」

「……まさか」

「そうさ、俺も使えるんだよ魔法をな……ボルト!!」

「うあっ!?」



レナに向けて大男は杖を構えると、雷属性の魔石を輝かせて魔法陣を発動させ、電流を放つ。ムノー魔導士が使用した魔法と比べると規模も威力もかなり劣るが、それでもレナの身体を痺れさせる程度には十分な電圧だった。


流石に魔導士の位に就いているムノーと比べると電圧は弱いが、それでもレナの身体を麻痺させて動けなくさせる程度の威力は誇り、レナは膝を付きながらも反撃を試みる。



「うぐぅっ……このっ!!」

「おっと、無駄だぜ。さっきは何をしたのか分からなかったが、近づかなきゃ攻撃出来ないんだろ?」

「くっ……」



反射的にレナは左手を構えるが、それを見て大男は距離を取り、反発の射程範囲外へ避難した。それを見てレナは悔し気な表情を浮かべる事しか出来ない。


レナの反発は至近距離から発動しないと効果はなく、相手と距離を取られると反撃と防御も出来ない。大男は地面にへたり込んだレナを見て余裕の笑みを浮かべる。



「へへへっ……本当は生意気な奴を痛めつける時ぐらいにしか使わないんだがな。嬢ちゃんもどうやら魔術師の称号を持っているようだが、杖も魔石も身に着けていないのは不用心だな。それとも、その大切な荷物の中に入っているのか?」

「っ……!?」



荷物という言葉にレナは小袋の中に入っているはずの「銀玉」の事を思い出し、袋に手を伸ばす。だが、それを見越して大男は追撃を行う。



「触るんじゃねえっ!!ボルト!!」

「あうっ!?」



再び路地裏に電流が迸り、レナの肉体に流れ込む。電圧は低いが身体を麻痺させるには十分な効果があるため、小袋から武器を取り出す余裕もない。


大男は油断せずに杖をレナに構えながら先ほど股間を蹴り上げられて悶えていた小男に視線を向け、情けない表情を浮かべて悶絶する小男の背中を蹴り込み、無理やり起き上がらせた。



「おい、チビ!!いつまで寝てやがんだ!!さっさとそいつを取り抑えろ!!」

「うぎぎっ……い、いてぇよ兄貴!!玉が潰れたかもしれねえ!!」

「いいからさっさと起きやがれ!!たく、肝心な時に役に立たねえなお前等は!!」

「くそっ……」



レナに先ほど股間を蹴り上げられた小男も復活し、大男の指示通りにうつ伏せに倒れているレナの元へ近づき、両腕を拘束して抑えつける。その様子を見ていた大男は街道に吹き飛ばされた男の元へ向かい、死んでいない事を確かめてから男を肩に担ぐ。



「おら、起きろ木偶の坊が!!くそ、駄目か……完全に伸びてやがる」

「あ、兄貴!!こいつ、どうします?このまま連れて行くんですか!?」

「いや……そいつはここで殺せ、勿体ないが得体の知れない魔法を使う奴を連れてはいけねえからな。一思いに楽にしてやれ」

「ぐっ……!?」



殺害を命じた大男にレナは目を見開き、どうにか拘束を解除しようとするが身体の痺れは抜けきれず、抵抗もままならない。このままでは殺されてしまう事は分かっているが、魔法を発動させようにも腕を拘束されていては上手く使えない。


魔法を発動させるには高い集中力を必要とするため、精神が乱れた状態では上手く発動する事は出来ない。しかも自分が次の瞬間には殺されるかもしれない状況では落ち着いてなどいられず、レナは焦って余計に精神がかき乱されてしまう。



(どうすればいい……!?考えろ、反撃の手立てはないのか!?)



こんな場所で死ぬ訳に行かず、レナは諦めずに抵抗しようとするが、その間にも小男は落ちていた短剣を拾い上げてレナの身体に突き刺そうとした。



「へへっ……よ、よくもさっきはやってくれたな。死んじまえっ!!」

「くうっ……!?」



小男が短剣をレナの首筋に押し付け、凶気に満ちた表情で切り裂こうとした。だが、刃が首を斬る前に二人の背後から少女と思われる声が響き渡る。



「おい、そこの姉ちゃん。あたしが助けてやろうか?」

「えっ?」

「なっ……だ、誰だお前!?」



自分の事を言われたのかとレナは首を向けると、何時の間にか路地裏には年齢が10~11才程度と思われる少女が存在し、彼女はリンゴに齧りつきながらレナ達を見下ろしていた。


少女の容姿は身長は140センチ程度、金色の髪の毛を肩にまで伸ばし、猫を想像させる癖っ毛に黄色の瞳をしていた。顔立ちは幼いながら整っており、レナが見た事もない変わった衣装を身に着けていた。少女はレナに視線を向け、落ちている荷物を指差す。



「姉ちゃんが持っている金を全部くれるなら助けてあげてもいいよ。どうする?」

「な、何だこのガキ!!とっとと消えろ!!」

「だ、駄目だ……君、早く逃げて!!」



小男は唐突に現れた少女に短剣を構えて追い払おうとしたが、慌ててレナは少女に逃げるように促す。だが、少女は余裕の態度を保ったままリンゴに齧りつき、再び尋ねる。



「だ、か、ら……姉ちゃんがお金を払うならあたしが助けてやるよ。どうするの?このままそのおっさんに殺されるか、あたしに金を払って助けてもらうか?どっちがいい?」

「……ほ、本当に?」

「くそ、舐めるなよガキが!!」



あまりに自信たっぷりに答える少女に対してレナは本当に彼女にそんな事が出来るのかと考え、余裕の態度を貫く少女に男達もも戸惑う。


焦りを抱いた小男は少女を捕まえようとレナから離れた途端、少女はリンゴに齧りついたまま飛び込み、男の股間に性格に足刀を放つ。



「てりゃっ!!」

「ぎゃあああっ!?」

「チビ!?何してんだお前!!」



再び股間に衝撃を受けた小男は悲鳴をあげて地面に倒れ込み、今度は気を失ったのか泡を吹いて倒れたまま動かなくなった。

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