第67話 追剥ぎ

「くうっ……まだ痺れが抜けない」



兵士から返却された装備品が入った小袋を背負いながらレナは人気のない街道を歩き、何処か休める場所を探す。歩ける程度には身体は回復したが、痺れが完全に抜けるまで時間が掛かりそうなため、どうにか路地裏に入り込むと地面に座り込む。


レナは誰にも見られていない事を確認してから上着を脱ぎ、身体に火傷がないのかを確かめる。幸いと言うべきか城に入る前に鎖帷子や闘拳などの金属の類は外していたので服が少し焦げた程度で怪我は見当たらなかった。



「それにしても普通、魔法を撃つかな……あんな人が魔導士なんて偉い人なんて信じられないよ」



レナは手首や足首を動かしながら身体が完全に回復するまで待とうとした時、不意に路地裏の入口の方から人の気配を感じ取り、振り返るとそこには3人の男が存在した。



「へへへ……どうかしたのかい嬢ちゃん、こんな所で肌着になって何をしてるんだ?」

「もしかしてお兄さんたちを誘っているのかい?」

「ちと年齢は幼いが、中々の上玉だな」

「うわっ……勘弁してよ」



あからさまに危険な雰囲気と態度を取る男達にレナはうんざりした表情を浮かべ、しかも自分の事を女子だと勘違いしているので尚更気分が悪かった。装備品が入った小袋を背中に隠したレナはどうにか壁に手を押し当てながら立ち上がり、三人組と向き直る。


男達の特徴は全員が頭を剃っているのか頭髪はなく、肉食獣の爪で切り裂かれたような刺青を掘っていた。どうやらレナの身柄と荷物を狙っている様子だった。



「兄貴、ここはおいらに任せて下さい!!服を切り裂いて裸にしてやりますよ!!」

「おいおい、大切な商品になるかもしれないんだ。無暗に肌を傷つけるんじゃねえぞ?」

「へへっ、任せて下さいよ!!」

「たくっ……こんな時に面倒だな」



一番背が低く、年齢が若いと思われる男が右手に短剣を握り締めながらレナの元へ近づき、まずはレナを捕まえるために左手を胸元に伸ばす。



「よし、捕まえ……ぎゃあっ!?」

「遅いっ」



だが、接近してきた背の低い男に対してレナは簡単に身を反らして足払いを行い、男を転倒させる。草原に住み着いたゴブリンと比べると男の行動は読みやすく、魔法を使わずとも十分に対処出来た。


魔術師ではあるが実戦経験が豊富なレナにとっては目の前の男の動きなど魔物と比べれば簡単に予測出来た。


一方で転倒した男の方は思いもよらぬ反撃に顔面から地面にぶつかってしまい、あまりの勢いに鼻血が噴き出してしまい、涙目になりながらも起き上がる。



「こ、この野郎!!」

「おい、馬鹿!!傷つけるんじゃねえと言っただろうが!!」



怒りで鼻血を噴き出しながらも背の低い男は右手の短剣を握り締め、レナへ突き刺そうとした。それを見た背の高い男は慌てて止めるように指示を出すが、レナは突き出された短剣に対して小袋で受け止める。



「おっと」

「ぎゃっ!?」

「何!?」

「ほうっ……」



小袋の中身は闘拳と鎖帷子が入っているため、男の短剣は袋を突き刺した瞬間に金属音が鳴り響き、腕を痺れた背の低い男は短剣を手放してしまう。それを確認したレナは隙だらけの男の股間を力強くけり込む。



「このっ!!」

「ぎゃああっ!?」



容赦なく股間を蹴り上げられた背の低い男は悲鳴をあげて地面に倒れ込み、股間を抑えながら悶える。あまりにも滑稽な姿だが、同情の余地はない。


その様子を見た他の二人は片方は頭を抑え、もう片方は怒りの表情を浮かべて背中に背負っていた棍棒を取り出してレナに向かう。



「このアマ!!」

「しつこいな、反発!!」

「ぐはぁっ!?」

「何だと!?」



レナは正面から迫って来た男に対して掌底を突き出すと、付与魔法を発動させて重力を掌に纏わせて衝撃波のように放ち、男の身体を吹き飛ばす。路地裏の出入口に立っていた最後の大男は吹き飛ばされた仲間を躱すと、街道にまで飛ばされた男は地面に後頭部を強打して気絶してしまう。


咄嗟に魔法を繰り出してしまったレナは異様な疲労感を覚え、膝を崩してしまう。体調が万全ではない時に魔法を使用する行為は身体の負担が大きく、頭を抑える。



「くうっ……まだやる気ですか?」

「嬢ちゃん、俺の仲間二人をよくもやってくれたな。こいつはますますその身体にお礼をしないとな」

「うえっ……気色悪い」



三人組のリーダー格と思われる大男も退く気はないらしく、膝を崩したレナの元へゆっくりと歩み寄る。その姿を見たレナは頭を抑えながらどうにかこの場を切り抜ける方法を考える。



(装備を身に着けている暇はないし、どうにか近づいて反発で吹き飛ばすしかないか……)



立ち上がったレナは大男に近付こうとした時、相手は予想外の代物を取り出す。



「へへへっ……嬢ちゃん、これが何だか分かるかい?」

「なっ……!?」



大男が腰から取り出したのは刃物の類ではなく、魔術師が扱う「杖」を取り出す。ムノー魔導士が所持していた物と比べると小ぶりではあるが、その先端にはビー玉程の大きさの黄色の魔石が取り付けられていた。

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