第66話 砲撃魔法

「さあ、早く出ていけ!!魔法学園への入学取り消しは儂の方から伝えておく!!とっとと自分の家に帰るがいい!!」

「そんな無茶苦茶な……!!」

「うるさい!!魔法学園は才ある人間だけを育成する場だ!!お前のような落ちこぼれを受け容れるつもりはない!!」

「待ってください!!俺の話を……」

「しつこいぞ!!おい、誰かいるか!!この不届き者をつまみ出せ!!」

「落ち着いて下さいって、お爺さん!!」



老人が騒ぎ出したのでレナはどうにか落ち着かせようと近づき、まず彼の持つ杖に嫌な予感を覚えて先に手を伸ばす。だが、自分の杖を奪われると思ったのか老人は慌てて下がると、レナに杖先を構える。



「な、何をするか!!この……ボルト!!」

「ぐあっ!?」



杖先の魔石が光り輝き、黄色の魔法陣が出現した瞬間、レナに向けて電流が放たれた。老人を抑えつけようとしたレナは回避する事も出来ずに電流を受けて倒れ、身体が痺れて動けなくなった。いったい何が起きたのかレナは理解できずに戸惑う。


自分以外の魔術師が魔法を使うのを始めて目撃したレナはこれが老人の攻撃魔法だと知り、相手に電撃を浴びせる魔法だと遅れて理解する。しかし、いくら何でも急に攻撃を仕掛けてくるなど普通ならばあり得ず、しかも老人は悪びれるどころか小馬鹿にしたような態度で見下ろす。



「あ、ぐぅっ……!?」

「ふ、ふん……儂に触れようとするからだ愚か者め」

「魔導士様!?何か起きましたか!?」



扉の外から騒動を聞きつけたのか外で訓練を行っていた兵士が入ると、倒れているレナと杖を構えた魔導士の姿を見て驚き、老人は慌てて杖を下ろすと中に入ってきた兵士にレナを連れ出す様に告げる。



「こ、この者は失格だ。だから学園の入学を認めれないといった瞬間に儂の杖を取り上げようとしたのだ。だから儂が処罰しただけだぞ!!」

「は、はあ……」

「まあ、あくまでも子供のやった事だ。今回はこれで許してやる……こいつを城の外へ放り出してこい!!そして二度と城内に入れるな!!」

「わ、分かりました!!」

「ち、ちがっ……ぐぅっ!?」



兵士はレナを担ぎ上げて塔を退出し、その様子を見届けた老人は額の汗を拭う。だが、兵士に担がれて運ばれていくレナは老人を睨みつけ、今回の件は絶対に忘れない事を誓う――





――兵士はレナを城門へ連れ出すと、そのままレナを放り出すような真似はせず、水筒を差し出して飲み込ませる。



「ほら、水だ。もう動けるか?」

「うぐっ……あ、ありがとうございます」

「全く、こんな子供に何て事を……ほら、ゆっくり飲め」



レナは運んで来た兵士は甲冑の兜を外して素顔を晒し、まだ年若い男性だと判明した。兵士の男はレナを座らせると先ほど塔の中で何が起きたのかを尋ねる。



「それで?本当は一体塔の中で何があったんだ?」

「あの……さっきの人は何なんですか?」

「ムノー魔導士様の事か?あの人はな、この国に何十年も仕えている魔導士なんだよ」

「魔導士……?」

「ああ、魔導士というのはヒトノ国に仕える魔術師の中でも二番目に偉い位の役職名なんだよ。一番上が「大魔導士」次に偉いのが「魔導士」最後に一番下っ端の「魔術兵」だ。あの人はな、次期大魔導士の候補でもあるお偉いさんなんだよ」

「あんな無茶苦茶な人が……」

「まあ、俺達も正直に言えばあの人の事は好きじゃねえよ。だけど、ああ見えても国に何十年も仕えている人だからな。それよりお前、あの人の気に障る事でもしたのか?」

「実は……」



レナは兵士に自分の身に何が起きたのかを話すと、事情を理解した兵士は同情するようにレナの肩を叩く。


兵士が上司であるムノーよりもレナの言葉の方を信用する辺り、彼の人望の無さが伺えた。話を聞き終えた兵士は残念ながら自分は力になれない事を告げる。



「なるほど、そういう事だったのか。確かにお前は悪くねえな……けど、相手が悪かったな。あのムノー魔導士は自分に逆らう存在には容赦しないんだ。残念だがあの人が魔法学園の入学を取り消しだと言った以上は学園への入学は出来ないだろうな。今頃、もう手続きを済ませている頃だぜ」

「そんな……どうにか出来ないんですか?」

「無理だな、お前さんが貴族の息子だったら何か手はあったかもしれないが、今のこの城にはムノー魔導士に逆らえる人間なんて何人もいない。残念だが大人しく故郷へ帰りな」

「帰れと言われても……ここまで来るのに一か月もかかったのに、それに納得できませんよ。あっちからここへ来るように言い張って来たのに帰れだなんて!!」

「気持ちは分かるが、それを俺に言われてもな……」



イチノ街から一か月もかけて王都へ辿り着いたにも関わらず、このような理不尽な目に遭わされてレナも納得出来るはずがなかった。しかし、兵士が言うにはムノー魔導士が入学を許可しない限りはレナが魔法学園に入る事は出来ないという。


仮にも相手は大魔導士の次に偉い魔導士の位を持つため、今から他の誰かに抗議したとしても聞き入れてくれるはずがない。ましてや今のレナは国から送り込まれた紹介状も奪われているため、自分がこの国の人間に呼び出されたと証明するのも難しい。



「悪いが、俺も上司からの命令を受けた以上はこの城の中へ通すわけにはいかない。同情はするが、悪い事は言わない。大人しく故郷へ戻りな」

「けど!!」

「いいか、どんな理不尽だろうと人には逆らえない時があるんだよ。お前の場合はそれが今の状況なんだ。ほら、さっさと帰れ!!ほら、城に入る前に預かった装備は返してやる、もうここへは近づくんじゃないぞ!!」

「……分かりました。あの、水を飲ませて頂いてありがとうございます」

「おう……力になれなくて悪いな」



同情してくれた兵士も職務上はレナを受け容れるわけにはいかず、事前に預かったレナの装備品を返却すると、身体の痺れが抜けきっていないレナに王城から離れるように指示を出す。


正直に言えば色々と言いたい事はあるレナだが、ここに残っても自分の言い分が聞き入れてもらえるとは思えず、兵士に水を与えてくれた事だけは感謝して一度離れる事にした。

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