第65話 付与魔術師の本質とは?

「小僧!!お前、生まれてから魔法は何度使った事がある?」

「え、さあ……数えた事はありませんけど」

「ふん、分かりやすい嘘を吐くな!!どうせ使用したのは魔法の力を自覚した最初の方だけで今では使用する機会もないのだろう?」



レナの言葉に老人は鼻で笑い、彼の言葉を嘘だと決めつける。どうして老人が断言出来るのかとレナは聞き返す前に彼は答えた。



「付与魔法を発動させる場合、主に掌から魔力が迸るはずだ。お前の場合は地属性だから紅色の魔力でも纏うのだろう?」

「まあ、そうですけど」

「確かに地属性の付与魔法の使い手は滅多に存在しないが、文献によるとせいぜい地面の土砂を操作出来る程度……そんな魔法が何の役に立つ?せいぜい農作業の手伝い程度しか出来ぬではないか!!」

「割とそんな事はないですけど……」



どうやら老人は地属性の付与魔法の効果を完全には把握していないようであり、地属性の本質が「重力操作」だとは気付いていないようだった。だが、レナの言葉を無視して老人は過去に存在した付与魔術師の文献の知識を披露する。



「いいか、付与魔術師の扱う付与魔法はあくまでも他者の魔法の補助にしか過ぎん!!付与魔術師一人だけでは何の役にも立たんわ!!しかもお前の場合は地属性にしか適性が存在しない、普通の付与魔術師の癖にな!!」

「適性?」

「この儀式の塔では魔法の適性を検査し、その人間が操れる属性を調べる事が出来る。普通の魔術師ならば最低でも

3つの属性を持っておる!!この儂に至っては5つの属性を持つからな!!だが、文献によれば普通の付与魔術師は5~6個の適性を持つと言われている。なのにお前と来たらどうだ?せいぜい小髭族ぐらいしか扱わぬ地属性の魔法しか強化する事は出来ん!!つまり、お前は付与魔術師でありながら落ちこぼれなのだ!!」

「あの、さっきから支援とか強化とかどういう意味なんですか?」



老人の言葉にレナは自分が知らない付与魔法の秘密があるのかと問うと、仕方がないとばかりに老人は本題に入る。


但し、老人の態度はレナに対しての説明というよりも、自分の知識を自慢するように他の人間には語らずにはいられないように見えた。



「いいか、よく聞け。付与魔術師の魔法は単体では役に立たん、しかし他の魔術師と手を組んだ場合は最大限の効果を発揮するのだ。彼等の魔法は自分以外の他の魔術師に施した場合、どうなると思う?」

「施すって……まさか、人間にも付与魔法の力を宿す事が出来るんですか!?」

「そんな基本的な事も知らなかったか……正確に言えば付与魔法は「魔術師」の称号を持つ人間だけに魔法の力を付与させる事が出来る。そして付与魔術師の魔法を受けた魔術師は一時的に魔法の効果が増強されるのだ」



レナは自分の付与魔法が物体に施せる事は知っていたが、まさか魔術師の称号を持つ人間にも付与魔法を施せるとは知らなかった。だが、レナの周りに存在する魔術師など治癒魔導士のアイリぐらいしか存在せず、しかも彼女は半年前から冒険者ギルドへ去っている。


魔術師の称号を持つ人間は格闘家や剣闘士のような戦闘職の人間よりも少なく、イチノ地方ではレナ以外に魔術師は存在しなかった。なので他の魔術師に付与魔法を試す機会などなかったので気づくはずがない。



「但し、付与魔法を施した魔術師が魔法の能力が全て強化されるわけではない。あくまでも付与魔術師が強化を施せるのは適性を持つ付与魔法だけなのだ。例えば風属性の適性を持つ付与魔術師と儂の様な「砲撃魔導士」が力を合わせた場合、風属性の魔法が強化される。ここまでは分かったか?」

「あ、はい」

「ならば聖属性の適性を持つ付与魔術師が聖属性の適性がない儂に付与魔法を施した場合はどうなると思う?」

「えっと、片方しか聖属性の適性は持たないから……威力が弱まるとか?」

「違う、儂自身に聖属性の適性がない時点で魔法を施されても効果を失うのだ!!つまり、魔法の強化どころか魔法を発動させる事も出来ん!!そして人間の魔術師の中で地属性の適性を持つ者は滅多におらん!!この意味が分かるか!?」

「えっ……じゃあ、つまり俺は他の魔術師に付与魔法を施しても魔法を強化する事は出来ないんですか!?」

「そういう事だ、やっと分かったか」



老人は満足したように頷き、レナがどうして付与魔術師として「落ちこぼれ」なのかを伝える。まさか自分の付与魔法が本来は自分自身ではなく、他者の魔術師の魔法の強化を行う事が本質だと知ったレナは驚きを隠せない。しかも自分の適性は「地属性」しか扱えず、他の魔術師の強化は出来ないとしれば尚更である。


今までは他の魔術師と比べる機会がなく、唐突に魔術師としては「落ちこぼれ」という烙印を与えられたレナは愕然とした表情を浮かべて両手を見つめ、その光景を見ていた老人は鼻で笑い、扉を指差す。



「お前は魔法学園に入学する資格はない!!とっとと立ち去れ、でなければ衛兵を呼び出してつまみ出すぞ!!」

「そんな!?でも、俺をここに呼んだのは貴方達じゃないですか!!」

「やかましい!!これ以上に儂の貴重な時間を割くようならば容赦せんぞ!!」



わざわざイチノ街まで自分の事を呼び出しておきながら立ち去るように指示する老人にレナは抗議するが、そんな彼に老人は握り締めている杖を構える。


杖の先端には黄色に光り輝く水晶のような物が取り付けられている事に気付き、レナはそれが魔法の力を強化する「魔石」である事に気付く。

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