第62話 白銀級冒険者へ昇格……のはずが

「へえ、あんたも遂に白銀に上がったのかい?」

「おめでとうレナ君!!遂にやったね!!」

「あ、師匠にキニクさん!!」

「だから師匠は止めなって……もういいよ」



白銀のバッジを身に着けたレナの前にバルが現れ、傍にはキニクの姿もあった。キニクは最近では冒険者稼業の手伝いも行っており、二人とも仕事帰りなのか服に血が染みついていた。


最近ではこの二人はよく行動を共にしているため、ギルドの間では二人が何か特別な関係ではないのかと疑う者も多い。しかし、レナから見れば二人が恋人関係とは思えず、そもそもキニクは自分の店を持ちながら何故か冒険者稼業の方を優先しているのも不思議に思う。



「ほら、ボアの討伐は終えたよ。死骸の方はもう解体所に送り込んでやったから確認しな」

「御二人ともご苦労様でした。キニクさんもすいません、冒険者を引退なさっているのに仕事を引き受けてくださって……」

「はっはっはっ!!これぐらいなら朝飯前さ!!いや、晩飯前かな?」



バルが依頼書を提出するとイリナがすぐに受け取り、報奨金を用意しようとした時、二階の方からギルドマスターのキデルが降りてきた。彼は業務する際はギルド長室に閉じこもっているので滅多に人前には姿を現さず、慌てて酒に酔っていた冒険者達は背筋を伸ばしてキデルを迎え入れる。


普段は滅多にギルド長室に閉じこもって書類関連の仕事を行うキデルが冒険者達の前に現れる事が珍しく、しかも相当に焦って降りてきたのか彼は額に汗を流しながら一階の様子を伺う。



「ぎ、ギルドマスター!!お疲れ様です!!」

「今日はどうかされましたか!?」

「んっ……ああ、いやお前達には用はない。気にせずに休んでいろ」

「……?」



疲れた表情を浮かべたキデルの姿に冒険者達は不思議に思い、キデルは周囲を見渡してレナの姿を発見すると、彼が身に着けている白銀のバッジを見て表情を険しくさせる。



「そうか……もう既にバッジは渡してしまったか」

「え、あの……ど、どうかしましたかギルドマスター?」

「何だいその顔は……こいつはちゃんと評価点を集めて昇格したんだよ?あんただってそれを許可したんだろ?」



ギルドマスターの反応にイリナは戸惑い、バルは不振に思って眉を顰めると、キデルはため息を吐きながらレナと向き合う。


いつもの彼の態度とは違う事に気付いたレナは自分が何か仕出かしたのかと不安を抱くが、特にキデルを怒らせるような真似を舌覚えはない。



「あの……」

「話がある、まずは場所を移動しよう……イリナ、すまないがお茶と茶菓子を用意してくれ」

「は、はい!!」

「おいおい、ここで話すような内容じゃないのかい?一体何を話すつもりだい?」

「丁度いい、お前達も一緒に来い。後で説明するのも面倒だからな」

「僕も、ですか?」



キデルはレナだけではなくバルとキニクにも同行するように促し、3人は不思議に思いながらも彼の後に続いてギルド長室へ向かう――






――数分後、人数分のお茶とお茶菓子を用意したイリナはギルド長室に向かうと、扉の前に立った時にバルの怒声が響き渡った。



『ふざけんじゃないよ!!それはどういう事だい!!』

「ひっ!?ご、ごめんなさい!?」



扉の外から怒鳴りつけられたと思ったイリナは慌てて謝罪を行うが、どうやらバルの怒声の相手は自分ではない事に気付く。


何事かと思いながらもイリナはノックを行ってから扉を開くと、そこには今にもキデルに掴みかからない勢いで迫るバルをキニクとレナが抑えつけていた。



「落ち着くんだバル!!」

「師匠、落ち着いて!!」

「これが落ち着いていられるかい!!ギルドマスターあんたは自分が何を言っているのか分かってるのかい!?」

「…………」

「あ、あの……」

「……気にするな、お茶を用意してくれ」

「は、はい!!」



目の前の状況にイリナは困惑するが、怯えている彼女に気付いたバルは少し頭を冷やしたのかレナとキニクを引き剥がすとソファに座りなおす。それを見た二人は安堵してバルの隣に座ると、キデルはイリナに声を掛けて迎え入れる。


イリナは慌てて机に人数分のお茶とお茶菓子を用意すると、バルは不機嫌さを隠さずにお茶菓子を手掴みで食し、額に青筋を立てながらキデルを睨みつける。彼女が一体何をそんなに怒っているのかとイリナは不思議に思うと、キデルが口を開く。



「もう一度だけ言うぞ。レナの冒険者資格を一時的に剥奪し、王都へ送還する。これは決定事項だ」

「えっ!?ど、どういう意味ですかギルドマスター!?剥奪って……」

「ふざけんじゃないよ、一体何がどうなってレナの奴が王都なんかへ行かなくちゃならないんだい!!」



キデルの言葉にイリナは驚き、バルは不満を露わにして怒鳴りつけると、キデルは頭を抱えながら理由を一から説明した。



「先ほど、王都から使者がここへやってきた。内容は王都にて新しい法律が定められ、今後は未成年の人間を冒険者へする事が正式に禁じられたのだ」

「そんな!?」

「冗談じゃないよ!!レナは14才だ、あと1年もすれば立派な成人になるっていうのに冒険者を辞めろというのかい!?」



当事者のレナよりもイリナとバルの方がキデルの言葉に納得できず、キニクの方も険しい表情を浮かべてキデルに尋ねる。



「それは……王国からの指示ですか?」

「うむ、今までは未成年であろうと12才を超える年齢の人間ならば冒険者になり得る資格は与えられた。だが、今後は冒険者へなる事が出来るのは成人した人間のみに限定される。数年程前から未成年の人間を冒険者という危険な職業へ就かせる事を防止する法律が作られたらしい」

「何を今更……だからレナから冒険者の資格を奪うというのかい?こいつは白銀級の冒険者なんだよ!?冒険者ギルド側としても大きな損失だろう!?」

「バルさん……」



バルの言葉を聞いてレナは縋るようにキデルに視線を向けた。ここで冒険者の職業を辞めさせられるのは痛く、やっと冒険者稼業に慣れてきたのにここで自分が辞めなければならない事にはレナも納得できなかった。だが、キデルは彼等が大きな勘違いをしている事を指摘した。

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