第63話 一時剥奪

「落ち着けお前達、剥奪と言っても一時的な物だと言っただろう。王国側としても既に冒険者活動を始めている未成年冒険者を解雇するような理不尽な要求は行わない」

「だからその一時剥奪というのはどういう意味なんだい?」

「うむ……既に国内の未成年冒険者は成人年齢に達するまでの間は冒険者活動は休止が言い渡されている。つまり、レナの場合は15才を迎えるまでの間は冒険者の資格を一時剥奪するだけだ。成人になれば剥奪は解除される」

「あ、そういう事ですか。良かった……」



苦労して冒険者になったにも関わらずに解雇を言い渡されるのかと不安を抱いたレナはギルドマスターの言葉に安心するが、バルはまだ納得がいかなかった。



「ちょっと待ちな、冒険者活動を休止するという事は成人になるまでこいつはどうやって暮らすんだい?冒険者の仕事が行えないなら生活も出来ないじゃないかい。レナ、あんたは1年間も暮らせるだけの貯金があるのかい?」

「えっと……一応は貯金してますけど、お金の方はあんまり……最近はよく武具を壊してゴイルさんに修理を頼んでいるので」

「だろうね、ゴイルさんからも愚痴を聞かされているよ。魔術師の癖になんで俺の武器を簡単に壊しやがるんだってね」



レナが知名度が上がってから毎日のように依頼を受けてはいるが、貯蓄の方はそれほど余裕はない。理由としては仕事の際に武具や防具を破損した際、ゴイルに頼んで修理して貰う際に高額の支払いを行っているからである


。レナの防具は特殊なため、普通の鍛冶屋では修復は難しく、ゴイルの元に足を運んでいる。小髭族の鍛冶屋は例外なく高額な費用を要求する反面、一流の仕事を行う。


最近では草原地方にもホブゴブリンや他にもボアなどの魔獣も頻繁に現れるようになり、激しい戦闘も繰り広げる機会も少なくはない。それにレナが貯蓄に余裕がないのには他の理由も存在するが、現在の貯金では1年間も暮らす事は難しい。



「うむ、その事に関しても実は国側から提案がある。これは国中の未成年冒険者にだけ伝えられる内容だが、お前達にも話してもいいだろう」

「勿体ぶるね……何だい?働けない期間の費用は国が持つのかい?」

「違う。いや、確かにそれもあるが……実はヒトノ国の王都に最近になって魔法学園と呼ばれる施設が建設された」

『魔法学園?』



聞き慣れない言葉にレナ達は不思議に思い、その魔法学園と未成年冒険者が何の関係があるのかとキデルに問うと、彼はヒトノ国の使者から受け取った書状を取り出す。



「ヒトノ国では近々、年齢が若い層の人間を集め、新しい騎士団を作り出そうとしている。そして人員は才能ある若者に厳選し、国中から優秀な若手を集めているのだ。つまり、騎士を養成するための訓練校だと考えればいい」

「まさか、レナ君もそこに通えと?」

「そういう事だ。本来ならば魔法学園に入るためには高額な入学金と試験を受けて貰う必要があるが、未成年冒険者として活動し、更に功績を残している人材ならば無償で学園の入学を許可されている。また、学園に滞在時の生活費と住居も用意してくれるそうだ」

「随分と気前がいい話だね……けど、そこに通えばレナは騎士団に入る事になるんじゃないのかい?」

「そうなんですかギルドマスター!?」



レナがイチノ街を離れるだけではなく、騎士団の養成施設に入ると聞いてイリナは黙っていられず、弟のように可愛がっているレナと別れなければならないのかと焦燥感を抱く。


バルもキニクも冒険者として大成するかもしれないレナが国の騎士団に入るかもしれないという話には険しい表情を浮かべるが、キデルは首を振る。



「魔法学園に入るからと言って全ての生徒が騎士団になれるわけではない。魔法学園はあくまでも若者の能力を伸ばすための養成施設だ。卒業後の進路は個人の自由、レナが冒険者に戻りたいのであれば成人年齢を迎えた時に学園側に進言すれば冒険者活動を再開出来るだろう」

「なるほどね、だけどそんな事をして国が黙っているのかい?あいつらにしてみれば自分達の金で育ててやったのに騎士団に入らなければ損するだけじゃないか?」

「大丈夫だ、国としても優秀な冒険者が増える事は悪い話ではない。冒険者ギルドもヒトノ国の管轄下である以上、我々もヒトノ国の側の人間だ。最も、騎士団の選定対象に選ばれた場合は勧誘されるかもしれないがな……だが、魔法学園には既に100名以上の若手の人員が集まっている。しかも全員が称号持ちだ」

「そんなにいるのかい!?」

「驚いたな……」



職業の称号を持つ成人年齢を迎える前の子供達が100人も集まっているという話にレナ達は驚かされ、称号持ちの人間は1000人に1人しかいないにも関わらず、ヒトノ国が既にそれだけの人数を既に集めているという話はキデルも初めて知った。


レナは同世代の人間で自分と同じく称号を所有する人間と出会った事はなく、この街で称号を持つ人間の最年少はレナである(レナ以外に一番若い人間でも20歳を超えている)。



「学園へ入学する場合は王都へ向かう必要がある。どうだレナ?この際に見聞を広めるために都市へ赴くのも悪い話ではないぞ?」

「……それは」



キデルの言葉にレナは考え込み、若手の力を伸ばす養育施設と聞けば自分の能力を今以上に磨けるのではないかという思いも抱くが、どうしてもレナはこの街に離れすぎる事に拒否感を抱く。

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