第59話 14才
――赤毛熊の討伐を果たし、銀級冒険者として昇格を果たした日から月日は流れ、レナは14才となった。未成年冒険者でありながら赤毛熊の討伐を果たした事で知名度も広まり、わざわざレナがどのような人物なのか確かめるためにイチノ街に訪れる人間も増える。
銀級に昇格を果たした未成年冒険者はヒトノ国の間でも歴史上でも数十名しかおらず、しかもその殆どが一流の冒険者として大成していた。ギルド側もレナの評価を改め、彼に見合った依頼を斡旋する事が増える。他の冒険者達もレナに負けじと活発的に行動を始め、イチノ街は以前よりも活気に満ちていた。
14才を迎えたレナは身長も150センチまで伸び、それに応じて髪の毛の長さも肩甲骨の辺りまで伸びていた。何故か何度髪を切ってもすぐに生えてしまい、最近では面倒なので髪の毛を後ろで結んで行動する事も多い。相変わらず中性的な顔立ちで女性と間違われる事も多かった。
現在のレナは指定依頼を引き受け、とある村へ赴く。草原に多発するようになったゴブリンのせいで荒らされた畑をどうにか元に戻してほしいという依頼を受けたレナは付与魔法を発動させ、一瞬にして荒れ果てた畑を元に戻す。
「
「おおっ!?」
「し、信じられん……これが魔法の力なのか!?」
「嘘っ……まさか、こんなに一瞬で元通りになるなんて」
村人の前でレナは地面に片手を押し当てて付与魔法を発動させると、自分の前方に存在する畑の土砂を操作し、ゴブリンによって荒らされてしまった畑を元に戻す。
人力ならば村人が全員で力を合わせても1日は掛かる作業を、レナは十数にも満たぬ時間で終わらせると、村長に振り返る。
「こういう風な感じで大丈夫でしょうか?」
「あ、ああ……助かりました冒険者様。しかし、まさか本当にこんな大きな畑を元に戻すとは驚きました!!」
「いえ、これぐらいなら慣れているので……最近では他の村もゴブリンの被害で畑が荒らされて困ってます。こちらの方もまた襲われないように警備の人数を増やす事をお勧めします」
「むうっ……そうですな」
レナの言葉に村長は難しい表情を浮かべ、一応は村の若い男達が警戒は行っているのだが、ゴブリンは隙を突いては畑へ忍び込んで農作物を荒らしてしまう。
冒険者を雇って村へ在住させる手もあるが、それだと費用も掛かるので仕方なく村人たちだけで村の防衛を行っているのだ。
「冒険者様、こちらが報酬金です。どうぞ受け取ってください」
「どうも」
村長から依頼の報酬金を受け取ったレナは依頼書通りの金額が入っている事に気付き、村長に頭を下げて村を立ち去る。
別れ際に他の村人たちにも感謝されながらもレナは日が暮れる前にイチノ街へ戻るため、草原を徒歩で移動する。
「ふうっ……思ったより、帰るのが遅くなったな。日が暮れる前に戻れるといいけど……」
草原を歩きながらレナは周囲を見渡すと、あちこちでゴブリンの姿を発見し、以前よりも更に数が増している事に気付く。冒険者に成り立ての頃は草原にはコボルトが多数生息していたが、最近では支配圏を奪われたのかコボルトの姿は滅多に見えなくなった。
この数年の間にゴブリンが増殖している傾向がある事は知っていたが、本来は山間部にしか生息しないゴブリンが草原にまで進出するという事態は異常であり、冒険者達はイチノ地方に存在する村から度々ゴブリンの討伐依頼を受けていた。しかし、いくらゴブリンを倒そうと草原に生息する全てのゴブリンを討伐する事は出来ず、依頼は後を絶たない。
最近ではイチノ街の周辺でもゴブリンが街に訪れようとする観光客や商団を狙って襲ってくるため、冒険者達と警備兵が協力して街の周辺地域の見回りまで行っている有様だった。レナはイチノ街まで続く道を歩きながらいい加減に自分も乗物の類を飼う事を考える。
「やっぱり、馬とか買うべきかな……でも、世話をするのも大変だしな。だいたい馬に乗るために練習しないとならないし……いざという時は「あれ」を使って帰るしかないかな」
有名になった事で仕事に困らなくなった反面、レナの元にひっきりなしに依頼が殺到し、休む暇もなく働いていた。大抵の依頼は魔物の討伐だが、先ほどの村のように荒れ果てた田畑の復元や村の防備のための堀の制作などの仕事も多く、ここ最近は休みなしで働いていた。
身体を休める事も大事である事は分かっているが、レナの元へ届く依頼は一刻も争う仕事が多く、それに忙しいのは他の冒険者も同じだった。レナに格闘技を教えているバルに至ってはイチノ街で只一人の金級冒険者なので仕事の依頼が後を絶たず、最近では顔も合わせていない。
「……流石に明日は休ませてもらおう。戻ったらイリナさんに頼まないと……ん?」
レナは後方の方角から近づいてくる馬の足音に気付き、顔を向けるとそこには2頭の白馬を繋がれた豪勢な馬車が接近している事に気付く。進路上に存在するレナは馬車の邪魔にならないように道を退くと、そのまま馬車はイチノ街に向けて直進した。
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