第57話 弾丸の操作

「よし、威力は申し分なし……なら次は弾丸の回収だな」



レナは意識を集中させ、先ほどゴブリンに的中させた「弾丸」を回収を行うために掌を伸ばす。その行為にゴブリン達は疑問を抱くが、直後に彼の行動の意味に気づく。


弾丸に施した付与魔法の効果は切れておらず、ゴブリンの頭部を貫通してそのまま消え去ったと思われた弾丸が再びレナの元に目掛けて高速移動を行い、その際に射線上に存在した別のゴブリンの胴体を貫通してしまう。



「ギィアッ……!?」

「ギギィッ!?」

「おっと、勢いを付け過ぎたかな」



思いも寄らず2体目のゴブリンを倒したレナは手元に戻って来た弾丸を回収すると、他のゴブリン達に遂に存在を気付かれてしまう。ゴブリン達はレナの姿を捉えて敵だと判断し、仲間を殺したのも彼だと見抜いて憤る。



『ギィイイイッ!!』

「仲間を殺されて怒ったのか?だけど……こっちはお前等如きに手加減なんてすると思うなよ」



迫りくるゴブリンの集団を見たレナは瞳を鋭くさせ、かつて村を襲ったゴブリンの大群の姿と重ね合わせながら弾腕を構える。腰に装着した小袋から複数の弾丸を取り出すと、今度は一気に2つずつゴム紐に加えて射出した。



「喰らえっ!!」

「ギィアッ!?」

「ギギィッ!?」



先頭を走っていたゴブリンの2体の頭部に弾丸が的中すると、現時点なら2発までなら同時に狙い撃つが出来る事を確信したレナは次々と弾丸を放つ。


重力によって威力も速度も加速した弾丸をゴブリン達は避けきれず、しかも撃ち込んだ弾丸は即座に重力操作で回収されるため、弾丸が尽きる事もない。


最初の内は仲間が殺されて怒り狂っていたゴブリン達だが、次々と仲間が殺される光景を見て恐怖を抱き、遂には逃走を始める個体も現れた。だが、それを見逃す程にレナは甘くはない。



「ギィイイッ!?」

「逃がすかっ!!」



最後の1体が背を向けて駆け抜ける中、レナは弾丸を発射させてゴブリンの背中から心臓を貫き、最後の1体も倒す。


草原にゴブリンの死骸の山だけが残り、それを確認したレナは全ての弾丸を手元に引き寄せて回収を行う。



「ふうっ……うわ、血だらけだな。これは洗わないと汚いな」



ゴブリンの紫色の血液が付着した弾丸を見てレナは顔をしかめ、今更ながらにレナはゴブリンだけが他の魔物と違って紫色の血液である事に疑問を抱く。コボルトもボアも赤毛熊も血液の色は人間と同じように赤色(黒みは強いが)に対してゴブリンは紫色である。


最初の頃はレナは全ての魔物の血液が紫色だと思い込んでいたが、後にゴブリンだけが血液の色が他の生物と違う事を知る。この理由に関しては他の冒険者に尋ねてみたが、誰もゴブリンだけが血液の色が紫色である事は知らないという。



「なんでこいつらだけ血の色が違うんだろ……いや、どうでもいいか」



紫色の血液が付着した弾丸を小袋に回収したレナはゴブリンの死骸に視線を向け、素材は回収せずに放置する事にした。


ゴブリンから得られる素材はせいぜい骨程度しか存在せず、肉も皮も役には立たない。なので冒険者の間では好んでゴブリンを狙う者はおらず、依頼でも受けなければ積極的に倒す相手ではない。



「……それにしても、じーじはどうしてあんな怪我をしたんだろう?」



街へ帰還中、レナは自分の養父の最期の姿を思い出す。狩人であるカイは常日頃から山の中に登り、頻繁にゴブリンと接触していたのでゴブリンの生態は知り尽くしていたはずだった。実際にカイは3体のゴブリンと遭遇した時は冷静に対処を行い、汗一つ掻かずに倒した。


レナの養母のミレイの話によるとカイは若かりし頃は優秀な冒険者だったらしく、いくら年老いたとはいえ、毎日のように狩猟を行える程の体力を持つカイがゴブリンに殺された事にレナは疑問を抱く。


確かに村を襲ったゴブリンは大群だったが、それでもレナの知るカイが簡単に片腕を斬り落とされるような負傷をしたとは思えなかった。



(待てよ……本当にあの時、村を襲ったのはゴブリンだけだったのか?)



村が襲われた際、レナは火事に包まれた建物の光景を確認していた。しかし、冷静に考えればどうしてゴブリンの大群が火を建物に放ったのが理解出来ない。ゴブリンが魔物の中では比較的に知能が高く、火を扱えたとしても村を攻める時に火をけしかけた事にレナは違和感を覚える。


冷静に考えればゴブリンが火を放つ理由がなく、村人を「餌」として認識して襲い掛かったのならばわざわざ火災を引き起こす意味はなく、焼け焦げた死体など餌としての利用価値は格段に下がってしまう。


実際にゴブリンは村人の死骸を喰らっていたが、普通に考えれば焦げた死体よりも生身の状態の死体の方が餌としての価値は高い。



(そういえばあの時、ゴブリン以外にも何か魔物のような声が聞こえたような気が……でも、それならゴブリン以外の魔物が同時期に村に襲っていた?いや、あの村の周辺にはゴブリン以外に現れる魔物なんて一角兎ぐらいしか存在しないはずだし……)



山間部に存在するレナの村にはゴブリン以外の魔物は滅多に寄り付かず、草原地方に生息しているコボルトも滅多に姿を見せない。しかし、確かにレナは村が襲撃を受けた際に複数の魔物の声を聞いていた。

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