第55話 装備一新

「それで?坊主は何を作って欲しいんだ?言っておくが、うちの店は素材を持ち込まないと作ってやれねえし、結構高いぞ?」

「あ、はい。素材の方はもう用意してあります。お金はこれだけ用意したんですけど……」



ゴイルの言葉にレナは今日受け取ったばかりの赤毛熊の素材と報酬金を提供し、更に以前に狩猟したボアの毛皮も渡す。


それを受け取ったゴイルは素材を確認して驚愕の表情を浮かべ、レナの事を予想以上の上客だと判断した。



「こいつは驚いたな!!まさか、本物の赤毛熊の素材じゃねえか!!待てよ、そういえば最近ガキみたいな冒険者が赤毛熊を倒したという噂が流れていたが……」

「そう、彼こそが噂の冒険者ですよ」

「マジかよ!!本当にガキじゃねえか!?よくあんな化物を倒したなお前……末恐ろしいガキだぜ!!」

「あはは……」



レナが最近噂になっている冒険者だと知ったゴイルは唖然とするが、客が誰であろうと素材と資金を提供してくれるのならば彼は文句言わずに仕事を行うため、レナの望む物を尋ねる。



「それで、坊主は何を作って欲しいんだ?大抵の物なら何でも作れるぜ。そういえばさっき魔術師とか言っていたな、なら金属製の杖でも作るか?それとも魔法力を上昇させる魔道具か?」

「いえ、作って欲しいのは闘拳と鎖帷子をお願いしたいんです」

「闘拳だぁっ!?鎖帷子の方はともかく、なんでそんな物を欲しがるんだよ?お前さん、魔術師なんだろう?」

「ゴイルさん、彼は確かに魔術師ですが腕は確かなんです。実際にあのバルさんさんが弟子にするぐらいに力を持つ子です」

「何!?あの脳筋娘が弟子だと!?」

「脳筋娘って……ぶっ飛ばされますよ」


普通の魔術師ならば闘拳などという格闘家が装備するような武器を欲しがる事はないため、ゴイルはレナの要求に戸惑うが、キニクが口を挟む。どうやらバルとも顔見知りだったのかゴイルは彼女が弟子を作った事に心底驚き、レナの顔を見て思い悩む。


だが、どんな相手だろうと素材と資金を提供するのであれば引き受けるという信念を掲げているゴイルに断る事は出来ず、要求をあっさりと受け入れる。



「よし、いいだろう!!お前さんの装備を作ってやる!!その前に身体の体型サイズを計らせてもらうぜ」

「え、本当にいいんですか?」

「だから言っただろうレナ君、この人なら断る事はないとね」



普通の鍛冶師ならば魔術師であるレナが闘拳のような格闘家が装備をするような武具を作って欲しい事を頼んでもいい顔はしない。特に小髭族の鍛冶師はプライドが高い者が多く、自分の能力に見合わない装備を求める人間には辛く当たる。


しかし、ゴイルの場合は自分が満足する物を作り出せればいいという考え方を持つ非常に変わった小髭族であり、彼はどんな相手だろうと自分の出す条件を満たせばどんな物でも作った。だからこそ小髭族の鍛冶師の間では変わり者として扱われ、このような街の端に追いやられ、店の経営していた。



「よし、これで体型は計り終わった。これだけの素材と資金があれば闘拳も鎖帷子を用意しても余るな、他に欲しい物はないのか?」

「欲しい物……あ、なら一つだけあるんですけど」



レナはゴイルに追加で新しい装備品を頼むと、妙な道具を求めてきたレナにゴイルは首を傾げ、どうしてそんな物を欲しがるのか気になったが、依頼人からの要求であれば断る事は出来ないので引き受けた。



「そんな物まで欲しいのか?分かった、どうにか作ってやる。但し、俺も満足する物を作りたいからな。悪いが明日まで待ってくれるか?」

「え?そんなに早く出来るですか?」

「馬鹿にすんじゃねえっ!!これぐらいの装備だったら1日ありゃ作れるんだよ!!がはははっ!!」



ゴイルは久しぶりに上物の素材と高額の依頼金を手に入れた事に上機嫌で笑い声をあげ、レナ達を追い出して仕事に没頭を始める――





――それからゴイルの宣言通り翌日の昼にレナは訪れると、約束通りに彼は新しい装備を全て用意して待ち構えていた。



「どうだ!!俺の作った装備は気に入ったか!?」

「わあっ……本当にこんなに早く出来るなんて凄いです!!」

「がはははっ!!そうだろう?もっと褒めてもいいんだぜ!!」



レナは机の上に並べられた「赤色の闘拳」と「黒色の鎖帷子」を見て感動する。どちらも以前に装備していた代物よりも素材は良質のため、簡単に壊れる事はないだろう。


今までの装備品はキニクの店で販売していた物を使用していたが、今後の事を考えると腕の良い鍛冶師が作り出した装備を身に付けた方が良いと考え、レナは装備を一新する。


キニクが紹介するだけはあってゴイルの腕前は確かであり、たった1日足らずで装備を作り上げた。しかも子供のレナの体型に合わせてちゃんと作り出されていた。



「まずは闘拳の方は赤毛熊の爪と鋼鉄を溶かして作った合金だ!!頑丈な上に衝撃にも強いからな、但し相当に思いから持ち上げるときは気を付けろよ!!名前は「紅拳」だ!!」

「え、名前もあるんですか?」

「俺は自分の作った武器には全て名前を付けるんだよ。そっちの方が愛着がわくからな!!それとこっちの鎖帷子の方は赤毛熊の牙と黒鉄から作り上げた。前の奴よりは重くなっちまったが、それでも動く分には問題ないだろ?」

「えっと……はい、これぐらいなら」



ゴイルの言葉にレナは鎖帷子を持ち上げて頷き、以前よりも確かに重量は増したが、それでも装備して動く分には問題はない程度の重量だった。

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